1-11.『中断しました』
「次のオークは単独で。行けるよな?」
ゼファが言う。
オークの注意点はパワーと大きさ。
振り回す腕に当たれば体が千切れる事もあるらしい。
他の魔物と比べれば早くはないが、巨体でも野生動物並みには動ける。
変異種というか親玉でもなければ、群れたり武器も持つ事はないそうだが。
『竜の撃墜王』2日目だが、昨日の対練で問題無いとゼファが判断した。
一匹目はゼファの手本を改めて観察だった。
オークの動きと攻撃範囲は解ってきていて、ギリギリ近くでじっくり見た。
恐らく問題無いが、命が懸かってるからな。
次のフォーメーションはもちろん俺が前衛、念の為ゼファがすぐ背後。
少し離れてバンティ・ヤリマだ。
もしもの牽制火球や治療の準備も抜かりない。
今更だが、最初の単独オークはどこを攻撃していいものやら迷った。
試しに直前にジャンプしてみたが、普段と変わらなかったからだ。
腕振りを避けた後続けておもいきり跳ねると、首までぎりぎり届いた。
首を斬りつけ、吹き出す血を浴びながら避けているとそのまま倒れてくれた。
軽く『恩恵』を感じる、昨日から数匹目で1レベルアップといったところか。
「剣を持って集中しないと肉体強化できないか、まだ今は」
ゼファは冷静に見ている。
「そうなんだ。弱点は首の後ろで合ってるな?
今更だけど」
「ああ、ほとんどの魔物や獣はそうだ。
できれば首ごと切れればこっちも相手も楽でいい」
1時間かからず次のオークに遭遇。
蹴りに注意しつつ集中。
腕を振り下ろしてくるのを避けつつ跳び上がる。
前かがみになるのを狙ったが、普通に頭を越える高さだ。
そのまま首の後ろに剣を振り下ろす。
ドシリと倒れる、首が切れかけだった。
そう簡単ではないな・・・。
「戦う前になるべくウォームアップするよ。
まだ自分自身の実力が計れてない」
「それもそうだが、集中を素早く高める訓練だな。
まあ結局は慣れだな、いきなり恩恵上げしたコウは特殊だ」
俺自身でもちょこちょこ集中を試そう。
『剣技』自体意識するのもいいかも・・・やってみよう。
「ちょっと待って」
何もいないが剣を抜いて構える。
「剣技!」
めんどいので詠唱方式だ。
跳び上がり、昨日習った型を思い出して振る。
さっきの1.5倍くらい跳んだ、最高記録だ。
ゼファと同等だ。
こんなにチョロくていいのか・・・。
「次からは声出さないから」
「魔法と同じみたい!」
「発見ですね」
「コロンブス・・・卵を割って立てやがったな」
ゼファの言い直しはちょっと笑え・・・感心した。
次のオークは1時間少しで見つけた。
40メートルの気配感知ではこんなものだろう。
隠れている敵にはかなり有効だが。
『レーダー』がいかにチートだったかという事だ。
剣技の無言詠唱で一瞬で終わった。
「恩恵」の酔いは感じなかった。
「ごっはんー、ごっはんー」
見晴らしが良い場所に移動する。
全員ストレージの到達範囲にいるので、手を出させ次々弁当を出す。
「まだあったかいです!」
「できたてバンザイ」
いきなり出てきたのは無視、出来立ての方に感動してるのか。
別にいいけど・・・。
「忘れてました、清浄」
血液まみれでジャージまでパリパリだったのがキレイになった。
「食事くらいキレイにして食べたいでしょうから」
「ヤリマありがとう、体全体きれいになったみたいだ」
「便利ですけど、なるべく必要なときだけですよ。
それと仲間だけの秘密でお願いしますね」
「おう、おまえらがここらにいるって久々だな。
やっぱりあのせいか」
いきなり剣士らしい男が声を掛けてきた。
4人組パーティーのリーダーか、親しげだ。
「あのせい、ってなんだ?」
「例のパーティー全員の遺品が見つかったそうだ。
貼り出されたのが昼前だったから見なかったか」
「ラフィーナ唯一のBランク『炎魔剣』が・・・?」
ここのギルドが“ラフィーナ支部”であるのは知っている。
色々な場所に行こうという思いが強く、ここの地名はスル―してた。
話しかけて来たのはDランク『いつかは竜騎士』のメンバー。
剣士の彼と大盾の剣士、軽装の小剣持ちと女性魔法士だ。
この辺りオークエリアはDランク上位のメイン狩場らしい。
「前ははぐれオーガー仕留めて全員酔いつぶれて捜索されたからな。
今度も変異スパイター仕留めて同じバターンかと思ってたが・・・」
ゼファが深刻に言う。
オーガーはこの辺で一番の脅威らしい。
Aランクなど飛び抜けたパーティーか、B・Cランクのベテランが予め罠等仕掛け、うまくおびき寄せでもしなければ全滅必至だそう。
対して、普通のラージスパイダーはCランク程度が「恩恵上げ」によく狩る。
素早く集団で動くので、技量が無ければ恐ろしい相手だという。
だが、一定の技量やスキル持ちには良いカモでもある。
牙毒を持ち、解毒薬かヒーラー必須。
これから俺たちの獲物となる予定だったようだが・・・。
変異スパイターの討伐依頼が出ていたが、目撃情報が曖昧で変異の「クラス」が不明だったのだ。
この辺りで出るとすれば「いつも程度」だと思われていた。
オーガーも倒すパーティー『炎魔剣』ならば問題無いはずだった。
話によれば、上位変異はグレート、アーク等名前に付く。
中でも物語などでデーモンスパイダーというのが有名だそう。
真っ黒なのが特徴で、ドラゴンクラスの魔物とされている。
皆が色々語るが、実際は出遭う事など無い御伽噺のような物で、あまり意味は無さそうだ。
「なるほど、新人メンバーか」
「言っとくが、コウはお前らより強いぜ。俺もすぐ追い抜かれる」
気づくと、少し離れた小剣持ちがなぜか異様に睨んでくる。
意味分からん・・・。
昼食と休憩を終え、香ばしい名前のパーティーと別れる。
他所のパーティー名の事は言えないが。
『目指せ、竜の撃墜王』とか、誰が付けたのかいつか問い詰めよう。
それにしても、彼らはさっきのとこでまだ飯を食っている。
昼に出掛けて来て、危険な時にわざわざ狩場で飯とは。
やる気があるのか無いのか・・・。
スパイターのエリアは遠くはないはずだが、情報のせいか足が進まない。
ついには全員足を止めた。
「どうします?」
「予定じゃスパイダーだったよねー」
「情報が少なすぎるからな・・・。
そうか、さっきの『竜騎士』と合流しよう」
名前だけは縮めるとまともだな。
「アサシン、小剣のがいただろう、あいつは感知が抜群に広い。
だから昼出勤であっという間に狩って帰る。
それで仕事は終わりだから万年Dランクだ。これは内緒だぞ」
「でも、それならあいつらすぐ帰るんじゃ?」
「いる間だけでも異変が有ったら分かるからな。
帰るまでは一緒にいてやろう、みんなはイヤか?」
「構いませんです」
「しゃあないねー」
「俺も、もちろん」
さっきの場所へ戻っていると、数人走って来る。
縮めて『竜騎士』のやつらだ。
「チル、どうした!」
アサシンの名前か。
「大群、絶対クモだよ! まだ遠いけどすぐ来そう」
女の子っぽい高い声に吹きそうになる、あ、女の子だったのか。
「止めてるからギルドに知らせてくれ!」
「わかったあぁぁ」
ここはオークの狩場のはずだが・・・。
「コウはさっきの話で分かったよな、牙の毒に注意な。
まずできるだけ魔法でかき集める。
最初は剣が前衛、囲まれたら剣二人の中央に魔法士で!」
町からは遠いがこの辺岩石地帯は火山のなごりか、木は少なく遠くまで見渡せる。
やがて見えてきた。
クモだけあって速い、焦げ茶っぽい色で1メートルはあるか。
だが小さいのをそのまま大きくしたほどの速さではない。
それでもこのままだとさっきのあいつらも追いつかれるな。
微小な炎が雨のように大クモの群れに降り注ぐ、バンティだ。
詠唱らしいのを今まで聞いていないが、集中って言ってたな。
大クモたちのターゲットを取れたようだ、さすが。
来た。
脳内詠唱「剣技」で次々斬る、走りも早くなり敵の動きも遅く思える。
ゼファは移動メインに速くしている。慣れてる、上手い。
完全に囲まれる事は無く、V字の陣形だ。
ファイアアローが少し離れたクモを先んじて貫く。
たまに背後まで行ったのはカマイタチのように切れていく、ヤリマか。
“恩恵酔い”が続いたが、やがて無くなってきた。
ラージスパイダーもあと十数匹程度だ。
だが。
黒い巨大なものがどこかから落ちてきた。
あの時を思い出す。
あのでかいカニ、違う、真っ黒く巨大なクモだ。
同じ大きさに見えたが幅だけだ、しかしそれでもでかい。
胴体だけで幅2メートルはあり、足が更に長い。
「シールド、退避!」
氷盾が出現し、残ったザコは無視して4人とも滑り込む。
炎、真っ黒クモのブレスが僅かに見えた。
間に合った。
しかし、ブレスが来るってよくわかったな。
ザコのクモがほぼ焼け死んだような、仲間じゃないのか。
ブシュッとロープのような何か、糸だ、背後側の大木に飛んだ。
巨大黒クモ本体が一気に飛んだ、10メートル程背後に移動した。
氷盾の反対側、背後を取られた。
速さがゼファを凌駕している。
勝てない。
終わった。
見覚えのある画面。
(中断しました)の声。
何を中断?
レーダー、加速、重力制御、弱点表示、全部動いている。
当たり前のように。
全員ブレスに包まれた。
体は反応できなかった。
だがメニューは既に作動していた。
『緊急試験動作』
(フィッティング中)
(バリア:試験オート 自律)
(重力制御:試験オート 自律)
(加速:試験オート20%)
ヤリマ、バンティ、ゼファ、全員いる。
バリアは全員を包む範囲だった。
自動だったのか。
俺がさっき自分で広げたのか。
『剣技再起動せよ』の文字が。
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