6
ふと、目が覚めた。
まだ辺りは暗い。
ここ数日、追われていて眠りが浅くなっている。常に追われている気がして、ゆっくり眠ることなど出来ない日々が続いている。
そんな不安から、また目覚めてしまったのだろうか。
(違う)
何かの気配がする。
奴らが追いかけてきたのだろうか。
丈瑠は起き上がるとすかさず木刀を構えた。
だが、そこに人の姿は見えない。
ただ、白い煙が辺りに漂っている。タバコの煙でも線香のものとも違う。何の匂いもしない。濃い霧が道場の中にたちこめている。
(なんだ?)
丈瑠は暗闇の中で目を凝らす。
やがて、その煙が一箇所に集まっていく。そして、みるみるうちに人の形を作り出す。
(これは?)
羽織袴の侍が目の前に立っている。
(土方歳三?)
もちろん過去に土方歳三に会ったことなどあるはずもない。肖像画を目にしたことはあるが、その顔立ちまではハッキリとは確認出来ない。
それでも、そこにいるのが土方歳三だと確信出来る。
ザワザワと心がざわめく。
やはりあの噂は本当だったのだ。
だが、興奮する気持ちがある反面、体は硬直して自由が効かない。
(震えている?)
足が震えていることに、丈瑠はやっと気がついた。
亡霊を目の前にして、恐怖を感じているのか?
いや、そういう類の震えではない。もちろん武者振りなどという格好のいいものではない。
身動きが取れない。
ただ、ただ相手の強さに飲まれている。
亡霊が刀を抜き、その剣先が自分のほうへと向けられる。
切られる。
ツーっと冷たいものが背筋を走る。
まさに蛇に睨まれた蛙といった状態だった。