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ダンディ・ジョーンズ ~巨人族の秘宝~

 それは、天上の白き宝玉と呼ばれていた。


 野原の真ん中に壁も天井もない、むきだしの鉄骨のみで形作られた、小さい村ならすっぽりと入りそうな巨大な半球形の建造物。

 かつて『東京ドーム』と呼ばれていた遺跡の天頂部に、小さく白い球体が存在している。


 201X年。世界は核の炎に包まれた。

 海は枯れ、地は裂け、全ての生物が死滅したかのように見えた。

 だが、人類は死滅していなかった。


 時は流れて、西歴12019年。

 打ち捨てられたような、その超古代文明の建造物の中から、二人の人物が白い球体を見上げている。

 一人は、茶色のフェルト製の中折れ(フェラード)帽をかぶった紳士。彼は考古学者のダンディ・ジョーンズという。

 年の頃は四十代半ばと言ったところだろうか、若い頃はさぞや多くの女性と浮き名を流して来たであろう、精悍かつ甘いマスクの男である。


「あれが、『天上の白き宝玉』か……。ここからでは遠すぎて良く分からないな」

「古い文献によれば、高さは推定50メートル以上あるみたいですね」


 そう答えるのは、彼の横に並び立つうら若い女性。ダンディと同じく考古学者にして研究助手の、ラララ・クロフト。

 切れ長の瞳、鼻梁の通った顔立ちに金髪のポニーテールと、見目麗しい容姿を持つが、彼女のかっちりした黒縁メガネとアイロンの効いたシミ一つない白衣が、いささか融通が効かないような印象を与える。


「鉄骨が頑丈なら、俺が登って直接取りに行っても良いんだがな」


 無類の冒険家でもあるダンディは、革ジャンの袖をまくりながら男らしくニヤッと笑うが。


「ダメですよ。築一万年以上の建造物なんですから、この姿を保っているだけでも奇跡のようなものです。登ったりしたら絶対に潰れますよ」

「ははっ、冗談だよ。なにしろあの宝玉こそが、世界を滅ぼした元凶かもしれないとも言われてるからな。素手で掴むような無茶はしないさ」


 生真面目なラララにたしなめられつつ、ダンディは目を細めて、南中の太陽と重なり輝きを放つ白い宝玉を仰ぎ見る。


「文献によると、宝玉をあんな場所に埋め込んだのは、あの『ゴジラ』らしいからな……」



 一万年前に一度滅びた世界。

 かつて栄華を誇った文明は、いまや中世のレベルまで退行していた。

 そのため、宝玉を調べるための高所作業用の機器を用意する事は不可能であった。

 さらに、再び世界が破滅するおそれがあるので、建物を壊してまで宝玉を手に入れようとする輩も現れなかった。


 あまたの学者も盗賊(ハンター)も手を出すことができず、半ば放置され続けてきた『天上の白き宝玉』。

 考古学者ダンディ・ジョーンズとラララ・クロフトは、その謎に挑むべく、古の都『東京』の地に赴いたのだった。



「ゴジラと言えば、口から放射能を吐き、国会議事堂や東京タワーを始めとして破壊の限りを尽くしたという、あの伝説の怪物ですか?」

「そのとおり。超古代文明は核で滅んだというが、『葬らん(ホームラン)(おう)』と呼ばれていたというゴジラが本当に存在してたのなら、世界はゴジラによって滅ぼされたのではないかという説も浮上するぞ」


 ダンディは大いに推論を語る。

 とかく、学者に必要な物は想像力。研究者は推論という荒唐無稽の塊を、可能性というノミで削り取り、最後まで残ったものが真実となるのである。


「俺は、あの宝玉は旧約聖書にある背徳の都市、『ソドム』と『ゴモラ』を焼き尽くした『メギドの火(フレイム)』に匹敵する破壊兵器なのではないかと考えてる」

「なるほど。メギドとソドムとゴモラは、ゴジラと語感が似ていますからね……」


 そう言って、ラララは形の良いあごに指を添えて考える仕草を見せる。美しい女性がそのポーズをすると、嫌になるほど様になるものだ。


「しかし、ゴジラは怪獣とも呼ばれていた訳ですが、そのような破壊兵器を開発する様な知能があったのでしょうか?」

「その謎を解くカギがこのドームだ。古い文献に東京ドームは『巨人軍の本拠地』とあった。すなわち、ここは『巨人族(ジャイアンツ)』の軍営拠点だったんじゃないだろうか?」


 ギリシャ・ローマ神話にも登場する、巨人族。

 神々の一族とも呼ばれる亜人種で、推定身長は10メートルとも20メートル以上とも目されている。

 以前は、あくまで巨人は空想の産物だという説が有力だったが、近年に『進撃の巨人』という言葉(ワード)の存在が確認されて以降、一転して一万年前の日本には巨人が実在したのではという説が主流になっている。


「なるほど、ゴジラはかつて巨人軍に所属していたと聞きますから、兵器の開発は巨人族が行った物と考える方が自然ですね」

「そのとおりだ。後にゴジラはアメリカ大陸に渡ったらしいから、その前に放射能の原理を解明し、あの宝玉(かくへいき)を造りあげたと考えるのが妥当だろうな」


 ダンディとラララはお互いの考えを擦り合わせると、コクリとうなずき合った。


「一万年前の世界では複数の勢力の間で激しい戦いが繰り広げられていたそうだ。単語には『死』、『殺』、『刺す・刺される』などの表現が多数使われていたみたいだからな」

「『捕殺』なんて、捕まえて殺すとか血も涙もないですし、『三重殺』という言葉もありますしね」


 はたとダンディの動きが止まる。


「……『三重殺』とは初耳だな?」

「おや、ご存知ないですか? 同時に三人を殺す技らしいですが、めったに見られない物らしいですよ?」


 ラララはしたり顔でダンディが持っていない情報を伝える。だが、ダンディはそれを聞いて違和感を覚えていた。


(東京タワーを破壊するようなゴジラと核兵器が存在するのに、三人を同時に殺す事が珍しいだと……?)

「『中央地方(セントラルリーグ)』の勢力といえば、巨人族の他には『竜族(ドラゴンズ)』や『虎人族(タイガース)』とかですね」


 深い思考に沈んでいたダンディを、ラララの問いかけが呼び戻す。 


「……ああ、特に東の巨人族と西の虎人族の抗争は、『伝統の一戦』とまで呼ばれてたらしいな」

「でも、巨人の軍にゴジラまで居ては、普通に考えると他の勢力では到底太刀打ちできないのではないでしょうか?」

「だが、巨人軍は莫大な資金で戦力をかき集めていた割には、補強がうまく行かずに他の勢力に破れる事も多々あったそうだ。棍棒を振り回して戦う『スラッガー』と呼ばれる強戦士たちも、『くさい所を突かれて』よく討ち取られていたそうだしな」

「くさい所を突く……。まさか、肛門……ッ!」


 ラララは、ありえないといった風情で口元を押さえる。


「そのまさかだろうな。虎人族と巨人族では体格差がありすぎる。弱点を突くことでその戦力差を埋めていたのだろう。そして、虎人族には隠し球があったらしい」

「隠し球、とは……?」


 ラララはこれ以上何があるのかと(おのの)きながら、ダンディに問う。


「『魔物』だよ」

「魔物……?」

虎人族(タイガース)の本拠地、『甲子園』には魔物が棲んでいると言われていたそうだ。きっと、その魔物を使役する事で巨人族のゴジラに対抗していたんだろう」


 兵どもが夢の跡、ダンディは目を閉じて古の戦いに思いを馳せた。


「ゴジラを擁する巨人族(ジャイアンツ)と、魔物を擁する虎人族(タイガース)の戦いですか……、さぞかし()(もの)だったでしょうね」

「見物……? 見せ物……」


 ラララの言に、ダンディは目を閉じたまま再び自らの頭脳を高速回転させる。そして、雷に撃たれたかのようにカッと目を見開いた。


「なんてこった……! もしかして、俺たちはとんでもない考え違いをしていたんじゃないのか?」


 ダンディは、大仰に片手で頭を抱えるジェスチャーを見せる。


「えっ、どういう事ですか?」

「俺たちは今まで、巨人軍は他勢力と戦争をしているものと考えていた。そして『天上の白き宝玉』とドームは、放射能を発射する砲台と思い込んでいた。だが、この東京ドームの造りはローマのコロッセオと酷似している。もしかしたら、興行的な物を開催していたのかもしれないぞ!」

「えっ……、それは剣闘士(グラディエーター)みたいなものですか?」

「それは分からんが、1チーム10人程度の小規模な戦闘のイメージだろう。例えば、古の言葉で『ピッチャー』というものがあっただろ?」

「ええ、『ピッチャー』と『キャッチャー』で『蓄電池(バッテリー)』を形成していたとの事ですが、その仕組みについては未だ判明していません。それが何か?」


 ラララの問いに、ダンディは欲しかったオモチャを手に入れた子供のような笑顔で答える。


「そのピッチャーとはこうは考えられないだろうか。ビールを注ぐための容器の事だと」

「何ですって……! 安い居酒屋の飲み放題で使われていたという、あの……?」

「そうだ。おそらく観客たちはその興行を、ビールを飲みながら楽しく観戦していたんじゃないか?」


 ダンディの大胆な解釈に目を丸くするラララ。ダンディは両手を広げて天の宝玉を仰ぐ。


「そう考えるともしかしたら、あの宝玉は核兵器なんかじゃなく、その興行に使われていた道具の一つだったんじゃないだろうか?」

「なるほど……。しかし、そうなると戦闘にからむ言葉としてたびたび出てくる、『バズーカ』、『キャノン』、『レーザービーム』はどう解釈をすれば良いでしょうか?」


 熱に浮かされたように自論を展開していたが、とたんにテンションがだだ下がりするダンディ。


「そうか、そんな兵器(もの)もあったな……。それを論破しなければ、この新説を立証する事はできないか……」

「すいません。水を差すような事を言ってしまって……」

「いや、問題ない。あらゆる矛盾を取り除いてこその真説だからな。逆に君には礼を言わないとな」


 と言いつつ、うなだれるダンディ。だが、視線を下に向けると、地面に何か埋まっている物を見つける。


「これは、缶バッジか……?」


 ダンディは慎重に土を払いのけながら、その物体を手に取る。

 円形のプレートのようなものに、かろうじて読めるかすれた文字で『YOMIURI GIANTS』と記されていた。


「『よみうりジャイアンツ』と書いてあるようだな」

巨人軍(ジャイアンツ)は良いとして、『よみうり』とはどういう意味でしょうか?」

「『よみ』は分かる。おそらく東洋の言葉で地獄を意味する『黄泉(よみ)』の事だろう。だが、『うり』とは何だ……?」

(うり)の事でしょうか。奈良漬けにすると美味しくて、白いご飯にも良く合います」


 じゅるり、とよだれをぬぐうラララ。

 ダンディは錆びたプレートを眺めながら、思考を研ぎ澄ましていく。


「いや、地獄と漬け物は関連性が無さすぎる。売却するという意味の『売り』じゃないだろうか」

「『黄泉を売る』のですか? それはどういう……?」

「例えば、巨人軍は傭兵集団だったとは考えられないだろうか?」

「なるほど。戦力を売り、相手勢力に地獄を見せる巨人の軍という事ですね」

「そのとおりだ。そうすると、ゴジラを擁する巨人軍を雇い入れ、魔物を使役する虎人族に対抗するような『オーナー』とは、一体どんな存在なんだ?」

「巨人族は神々の一族と呼ばれていましたね。もしかすると、それを超える、邪神……?」


 思わずラララがつぶやいた言葉に、二人は何か得体の知れないものを相手にしているような感覚を覚え、背筋に寒気を覚えた。


「ま、まあ、あくまで『比喩的表現』だろうがな」

「そ、そうですね。あくまで『ものの例え』ですよね」


 はははとダンディとラララは笑い合い、二人は謎が深まる白い宝玉を見上げる。

 太陽はすでに西に傾きかけていた。


「さあ、『天上の白き宝玉』の考察はこれくらいにして、もう一つの研究についても考えなくちゃな」

「謎の古武術『野球(・・)拳』ですね。服を脱ぎながら闘う武術とはどういうものでしょうね?」

「皆目見当がつかないが、興味深い研究対象である事は間違いない。ラララ、今回の滞在は長くなるぞ?」

「はい、覚悟しております」


 生真面目に応えながらも、未知への探求に瞳をキラキラ輝かせているラララの表情(かお)を見て、ダンディは満足そうに笑う。


 世界に謎がある限り、ダンディ・ジョーンズとラララ・クロフトの冒険は終わらない。



 To be continued?

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[良い点] 葬らん王は上手いですね! 物理的なジャイアンツを持ってきましたか…… 違うそうじゃないと突っ込みたくなりますが、一万年前の情報ならジャイアンツという単語が残っているだけで奇跡のようなもの…
[良い点] レビューより参りました! わたしも野球は疎い方ですが、それよりも疎い二人の学者の大真面目な会話に、ニヤニヤしっぱなしで顔の筋肉が戻らない! ものすごく面白かったです!!
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