表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球を征服しますか、それとも救いますか  作者: ずんだ千代子
六章 カウントダウン開始
50/53

⑤「つまらない話ですけどね」

 日が沈み、住宅街の中にある寮あてらの周りから夕食の賑わいが聞こえてきた頃。レオンとサンも予定より遅く寮に帰ってきていた。


「今日は肉じゃがを作ってみました。日本ではよく母の味として親しまれているものです」

「肉はブタか。この芋みたいなのは何だ?」

「それが肉じゃがのじゃがに相当するもの、じゃが芋です。アテラのドロ芋と同じようなものですね。それと人参、インゲン豆を入れてみました」


 男三人の食卓には、大量の肉じゃがとサラダ、漬物、味噌汁、そして山盛りのご飯が並んでいた。地球に来て一ヶ月経った彼らにとって、この日本食も見慣れたものになっていた。


「ジャガイモがツヤツヤしていて美味しそうですね。礼音さんのお腹も鳴っていますし、早くいただきましょう」

「そうだな。何でソフィアがいないのかは知らんけど、食っちまおうぜ」


 そう言いながらもレオンは既に皿に肉じゃがを取り分け始めていた。食事を前にして待つという動作は、彼には難しいことなのだ。


「一応ソフィアとキースさんの分は別に分けていますから、先に食べましょう。あまり遅くまで出歩くことはしないでしょうし」

「わーい! いただきます!」


 両手を合わせたサンも早速じゃが芋を頬張り、幸せそうに口を動かす。作ったものにこういう反応をもらえるとこちらも嬉しくなるな、と思いつつ、アッシュも漬物を口にした。


「今日は池袋楽しめました?」

「はい! はりまるのグッズたくさん買えました! この後部屋にたくさん飾るつもりです」

「ブクロってところ勧めたのはお前だったのか」

「ええ。たまには東京を楽しむのもいいと思いまして。陽太が喜んでいるならいいじゃないですか」


 澄ました顔で食事を進めるアッシュに、レオンは大きな溜息をつく。こっちは連れ回されて大変だった、年下には甘いやつだなと思うが、恵美とのこともあったのでそれは言えなかった。


「そういや篤志は今日どこ行ってたんだ?」


 先に朝から出掛けていたのはアッシュの方だったことを思い出し、レオンはなんとなく聞いてみる。


「……ちょっと、昔住んでいた街に行っていました」

「前世のってことか?」

「そうです。妹がいたんですけど、彼女が今何をしてるか知りたくて。まぁ、もう故郷にはいなかったんですけどね」


 少し間を置いてアッシュはそう説明した。かなり端折ったが、間違ってはいないのでいいだろう。


「ふーん。気になるのは妹だけなのか。親は」

「僕の親はアテラの両親だけですよ」

「……そうか」


 間髪入れずに言ったアッシュにレオンはそれしか返せなかった。それ以上聞いてはいけない気がしたのだ。

 それからは男三人で話すことなど特になく、彼らは黙々と食事をしながらテレビ番組を流し観ていた。ソフィアとキースといったお喋りがいないだけでこんなにも静かな食卓になるのか。とアッシュはしみじみ感じつつ、味の染みたじゃが芋を口に入れる。

 その時、アッシュのポケットからピコピコという受信音が鳴った。


「ソフィアからのピコですね。キースさんの監視のために少し遅くなる……そうです。監視とは何のことでしょうか」

「おっさんは今日バイトだろ」

「その筈ですが。仕事終わりに遊びに行く情報を得たのかもしれませんね」


 内容はよく分からないが、任務に不要な女遊びの現行犯を押さえられるならそれもいいだろう。そう思いながら、アッシュは彼女に返信を書く。


「ソフィアさん、おじさんの後でもつけるつもりでしょうか。変なことにならなければいいですが」

「大丈夫ですよ。ごく一般の地球人よりソフィアの方が強いですから」

「それは分かりますけど……」


 仮に変な虫がソフィアに寄ってきても、彼女のスピードなら問題ないし素手で倒せる武力もある。特に心配もないので、アッシュは好きにさせるつもりでいた。

 やや腑に落ちない感じのサンが気にはなるが、キースのことをよく知るが故か。


「ソフィアにもしものことがあれば、ワンプッシュで僕のスマートフォンに連絡が来るようになっています。帰って来るまで寝ませんし、大丈夫ですよ」

「もう少し心配してあげればソフィアさんも喜ぶのに」

「陽太は優しいですね」

「篤志さんが淡白なんですよ」


 ジト目でアッシュを見るサンは小さく溜息をつく。そこには、この堅物には何を言ってもダメかもしれないとの諦めが込められていた。


「オッサン達が遅くなるのは分かったことだし、おかわりでもするか」

「え、まだ食べるんですか」

「お前が休憩なしで俺を連れ回すから腹減ってんだよ。それに肉じゃががもっと食べてくれって俺に訴えてきてるしな」

「何それ怖い……」

「汁もいいか?」

「好きなようにどうぞ」


 相変わらずのレオンの食べっぷりと、それを当たり前のように対応するアッシュに、サンは自問自答する。一ヶ月以上もこれを見てきて未だに慣れない自分が悪いのかな、うん、そうかもしれない。と。


「ボクはご馳走様です。しばらく部屋にこもっているので、お風呂は先にどうぞ」


 山のように盛られる米を見ているだけで満腹感を得たサンは、さっさと食器を片付けて部屋へと戻った。

 彼に気苦労させて申し訳ないと思いつつ、アッシュも自分の食器を片付け始める。


「なぁ篤志」


 二人になってより静かになったダイニングで、汁の椀を持ったレオンが正面を見て言った。


「チキューで生活を始めて、思うところが色々あるんだけどよ」

「はい」

「任務が終わってアテラの滅亡の危機とかそういう煩わしいのが全部無くなったらさ、少しずつ話してくれよな。お前の昔話」


 アッシュもキッチンに立ったままだった為、会話中お互い特に顔を合わせることはなかった。しかし、顔なんか見なくてもなんとなく互いの雰囲気は分かる。それは幼馴染が故なのかもしれない。


「いいですよ。全てが終わって落ち着いたその時には話しましょう。つまらない話ですけどね」


 フッと微笑んだアッシュは、食器を洗いながらそう返す。

 前世では様々な困難があった。けれど今回地球に来てその後を知ることが出来て、少しだけ過去を浄化することが出来たように思う。穏やかな時が戻れば、そんな過去の話も笑い話として話せるようになるだろう。それが実現出来るように今は任務をこなしていかなければ。


 アッシュの返しを確認したレオンも、二杯目の汁を飲み干してまた米をかき込む。彼にはその返事だけでも十分だったのだ。

 二人はそれ以上会話することなく、部屋にはテレビの音だけが流れる。バラエティ番組の笑い声が響いているくらいのほうが、今の二人には心地良かった。


 こうして寮あてらは、他の住宅と同様に夜の帳に包まれてゆくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ