③ 「何かの時は躊躇わなくていいから」
「ねぇ、今ピコでこんなものが送られてきたんだけど、どう思う?」
科学班が来た翌日の朝。朝食が終わり腹を休めていた矢先、ソフィアがそう言いながらスマートフォンを差し出してきた。そこには、動画配信アプリ【みぃきゅうぶ】の動画が表示されている。
「なんだこれ。爆発か?」
「小さい隕石か何かでしょうか」
動画は一分程の短いものだった。どこかの窓から外を撮影したもののようで、昼間の住宅街の奥に山のようなものが見える。開始して少し経つと、画面右上から飛行機雲のような白い線が現れた。そして山に消える寸前に一瞬光ると、少し遅れて衝撃音が聞こえた。その後撮影者と思われる人々の会話の途中で動画は終わっていた。よく見ると、動画のタイトルは【偶然撮影! 隕石か??】とある。
「昨日のお昼にあったんだって。同じような動画がひゃくもじとかみぃきゅうぶで出回っているらしいよ」
「ほー。何かが落ちたって感じもするけどな」
「この手の動画は昔からよくニュースになりますから。でもこの衝撃音っていうのは気になりますね」
今言ったように、自分が地球にいた頃も同じような映像を何度か見たことがあった。その度にUFOや隕石との関連は、といって専門家が出てくるのがパターン化されているが、今回は衝撃音というところが少し気になる。本当に何かが落下したのかもしれない。
そういえば、昨日検索した時も似たような動画が出回っていた気がする。
顎に手を添えて考えていると、パソコンを持ったキースが割り込んできた。
「それについて、俺も少し調べてみたんだよね。他の人の動画も解析してみたんだ。そしたらとんでもないことが分かったよ」
机に置いたパソコンの画面を見る。そこにはいくつもの画像が表示されていた。動画の一部を拡大したものだろう。
キースはその一つを指差して言った。
「この独特の楕円形、多分バルタ人が使うカプセル船だと思うんだよね」
室内に緊張が走る。
バルタ人とは、僕達アテラ人と対立している星の住人だ。彼らは血の気が多く、戦いを好む傾向にある。これまでも何度もアテラに攻め入っているが、毎回返り討ちにあっていた。
おそらく、アテラが地球を調査していることを知ってやってきたのだろう。僕達はこれを警戒していたのだ。遂にそれが実現してしまうとは。
「この大きさからすると、乗船しているのは四、五人ってところだろう。彼らも知らない星に大勢で来る程低脳ではないからね」
「例え少人数だとしても、これはマズイのではないですか。野蛮な彼らを野放しにしておくのは危険です」
そんな少人数で何をしに来たのか、と思うが、目的などを悠長に考えている場合ではない。
バルタ人は明らかに人間というには苦しい見た目をしている。そのため普通に町を歩けばそれだけで警察沙汰となるだろう。更に、もし彼らが手を出した場合地球人に被害が出兼ねない。
「俺もそう思うよ。地球人に何かあれば大パニックだ。
だからこれからこの場所に行ってみようと思うんだ。動画のデータにある位置情報というのを集めて、大体の場所は分かったからね」
パソコンに今度は地図が表示される。そこには赤い丸が描かれていた。場所的には奥多摩の辺りだろうか。確かに動画の風景と矛盾はない。
「んじゃ早いとこちび太を起こすか」
「ボクはもう起きてますよ」
「おっと、失敬」
「キースさん、これは僕達五人で行く予定ですか」
念の為確認する。バルタ人が他にも来ている可能性がある。寮を空けてもいいのだろうか。
「五人で行くよ。相手よりも少ない人数で行くのは危険だからね。
大丈夫、ここには今つっくんがいるし、こっちに何かあればこれを使うから」
そう言ってキースは手鏡を取り出す。ケースを外すと、鏡の部分にあの禍々しい黒が渦巻いていた。
「緊急時用に、携帯型のワープホールを作ってもらったんだ。寮のと繋がっているから、有事の時はすぐに帰って来られるよ」
「こんなサイズでも使えるの?」
「もちろん。触ってみるかい?」
「え……やめておきます」
ソフィアがあからさまに嫌悪を示す。あの時の気持ち悪さはそう何度も体感したくはないのだろう。
しかし、これなら確かに寮を空けても問題無さそうだ。意外と用意周到だな。
「さて、何も起きないうちに現場へ行こうか。
いいかい。相手はこちらに何をしてくるか分からない。みんな、十分気をつけて。そして何かの時は躊躇わなくていいから」
キースが僕達に向けて改まった様に言う。躊躇うな、という言葉が、これからの任務の重さを物語っているようだった。
「なんか初めてリーダーっぽいこと言ったな」
「確かに。キースさんってリーダーっていう感じじゃなかったもんね」
「酷いなぁ。俺はウルトラスーパーなパーフェクトリーダーじゃないか」
そんな重い空気を壊すように、レオンはニヤリとしてそんな事を言った。キースもふざけた事をぬかしている。
しかし、これでいいのかもしれない。過度な緊張は時に足枷になるものだ。
「じゃあパーフェクトリーダー、ちゃんと道案内頼みますよっ」
「いや、そこは篤志にお願いするよ」
「なんで僕が……」
サンの可愛い笑顔をスルーし、キースはこちらに顔を向けた。オジさんにそんな子犬のような目をされても寒気がするだけだ。
「あぁもう、分かりました。一先ず駅に行きましょう」
「よし! それじゃ、軽く準備をして玄関に集合ね」
「はい」
その合図で各自が散らばる。とは言え、戦いになるかもしれないのだから持ち物など大して必要ないだろう。
僕はスマートフォンをポケットに入れ、すぐに玄関へと向かう。
「奥多摩か。なんでわざわざそんな場所に落ちるかな……」
澄んだ青色の広がる空を見つめて呟く。
あそこにはもう一人その後が気になる人がいる。もう少ししたら行く予定ではいたが、まさかこんな事で行く羽目にになるとは。これは何かの巡り合わせなのだろうか。
「元気にしているでしょうか、凪沙……」
最後に見たその人の姿を浮かべる。
君はまだ、あの場所にいるだろうか。一目でいいからその姿を確認出来れば──……。
なんて、バルタ人が来ている今、そんな悠長なことは言っていられない。まずは彼らの動向を把握しなくては。
蝉の鳴き声が異様に身体に響いてくる。それが今の僕には、非常ベルのように聞こえて仕方がなかった。




