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地球を征服しますか、それとも救いますか  作者: ずんだ千代子
三章 ミッドサマー・デスマッチ
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② 「君と私との秘密だ」

 同日午後四時。何故か僕は帰宅早々に煙に巻かれていた。周りがよく見えない中手探りで玄関を開けると、急いで外に出る。


「一体どういうことでしょう……」


 玄関、そして科学班のいる奥の部屋の窓から白煙が上がっている。その量は近所の人に通報されないか心配になる程だ。原因を探りたいが、煙が落ち着くまでは入れそうにない。

 狼狽していると、強い風と共に玄関から白煙が一気に押し出される。音はしなかったが、爆発でも起こったのだろうか。


「ゲホゲホッ! おいスタチ! お前ってやつは!」

「いやぁごめんごめん。もう少しいけると思ってさ〜」


 中に入ろうと近付いた時、玄関から科学班の二人が出てきた。二人の髪の毛は乱れており、台風にでも遭った後のようになっていた。


「あの、何かあったのでしょうか」

「あぁ、すまない。ただの機械の容量オーバーだ。煙はもう風魔法で飛ばしたから、中に入ってもらって構わないよ」


 科学班の背の高い方トロンが答える。どうやら何か無茶をしたらしい。室内が無事だといいが。


「あ、アッシュ君! チキュウのマナはすごいね! 成分分析してみたけど、アテラのマナとほとんど同じなんだよ!」


 こちらの姿に気付いたスタチが、興奮気味に近付いてきた。瞳を輝かせて話す様子はまるで子供だ。


「マナが使えないなんてチキュウ人は勿体無いね! でもマナなしでこれだけ文明が発達しているんだからすごいよねぇ! いっそアテラ人はチキュウに移住した方がいいんじゃないかな! 痛っ!」

「スタチ、喋っている暇はないぞ」


 早口でまくしたてるスタチに引いていると、彼の頭頂部にチョップが落とされる。頭を抑える彼を、トロンは有無を言わさず引きずって玄関へと向かった。保護者とその子供にしか見えない光景には苦笑するしかない。

 奥の部屋へ回収されたスタチを見送ってから自室へと戻る。ぐるりと室内を見渡して異常がないことを確認すると、図書館で得た資料を机に広げた。


「……今日はやめておこうかな……」


 自分で用意したものだが、改めてその量を見るとげんなりしてくる。また溜息が漏れてきそうだ。

 紙の山とにらめっこしていると、部屋のドアを叩く音が聞こえた。返事をすると、ツエルが顔を覗かせた。


「ハイディア君。さっきは驚かせてすまなかった。今少し話を……あ、取り込み中かな?」

「いえ、これは大丈夫です」

「そう。ではここで少しいいかい?」

「散らかっていても宜しければどうぞ」


 そう言ってツエルは資料が散乱する机の前まで入ってくる。眼鏡のレンズが太陽光に反射しており、その表情を読み取ることは出来そうにない。


「魔女狩りに宇宙人の真実? 面白そうな資料だね」

「調べたいことがありまして。それより、僕に話とは何でしょうか」


 僕は早々に切り出した。部屋に二人きりの状況であるため、話は早めに済ましておきたい。


「いや、大したことはないんだ。チキュウでの調査を進めていく上で、この星のことを聞いておきたくて」

「と言われましても。具体的にどういったことが知りたいのかを言っていただけると、僕も話しやすいのですが」

「それは悪かった。そうだな、この星のシステムについてはどうだろう。この星の支配者とか、統治の仕組みとか」


 顎を撫でながらツエルは言った。

 そんなことを聞いてどうするのか。彼はマナの供給についての交渉相手でも探しているのだろうか。だとすれば、どう答えるのがいいだろう。


「そうですね。地球全体の絶対的な支配者というのはいません。

 地球には、アテラと同規模の国がたくさんあります。その国を先導するのは政治のリーダーが主であり、国王はシンボル的存在であることがほとんどです」


 地球に来てからこれまでの間で世界情勢なども確認してみたが、自分が生きていた頃と大きく変化している様子はなかった。この説明で大きな間違いはないだろう。


「なるほど。アテラの王族のような支配者はいないのか。しかしそれでどうやってチキュウ全体を統治しているのだ? チキュウについて少し調べてみたが、所々で戦争はあるものの、ここは驚く程平和な星だ。それはどういった仕組みなのだろう」

「地球の国々はほとんど全てが国際協同隊という組織に加盟しています。そこは世界平和や治安の維持が主な目的なので、仮に何処かで平和を脅かす事象が発生すれば、その組織が動きます。国力に乏しい国が、世界を敵に回すなんてことは出来ないんです」


 説明してから、これで良いのか考える。国協の説明も強ち間違いではないだろう。詳細が知りたいのならそれ以降は自分で調べてもらいたい。


「それに、数十年前に起きた大戦争を繰り返したくないという思いが人々の間にあると思います。特にここ日本は、この世界で唯一最悪の攻撃を受けた国ですし」

「そうか。争いの歴史があるからこその平和なのだね。だから国同士も上手く連携しているのか。

 そのキョウドウタイというのも実によく出来たシステムだ」


 ここまで話を聞いたツエルは、ほぅと感嘆の声を漏らす。今の話を頭で整理して理解したようだが、そんなに感心するほどのことはあっただろうか。


「しかし、この半日ほどで少し街を回ってみたが、チキュウ人は平和ボケしすぎているように思う。戦争は他人事で、当然のようにこの平和がいつまでも続くと思っている。

 私にはそう見えたが、ハイディア君はどう思うかね?」


 眼鏡を光らせたツエルから意見を求められ、少々戸惑う。

 今の自分は地球の平和を脅かす側の存在だ。けれど自分が地球人だった頃は、平和な日常が当たり前だと思っていた。そのため、簡単にツエルの意見に同調は出来ない。


「確かに事務長の言う通りかもしれません。戦争や貧困は遠い国の話だし、まさか隣人が異星人だと疑う人もいないでしょう。

 しかし、地球人は平和が突然終わるかもしれないことを知っています。何度も起こった戦争、次々と開発される科学兵器、突然訪れる自然災害。これまでの歴史から、脅威は身近にあるということを地球人は学んでいます。だから彼らは、歴史の上に成り立つ今の平和を維持しようと努力していると思います」


 曖昧な答えになったという自覚はあった。こんなの、彼の欲している答えではないだろう。けれど今はそう答えることしか出来なかった。

 ツエルは眼鏡の端をつまんで位置を直すと、口角を上げる。


「さすがは元チキュウ人。チキュウ人目線でのご意見、とても貴重だよ。感謝しよう」

「僕は、……いえ、お役に立てれば幸いです」


 そんなことはない、と言いかけて言葉を噛み砕く。ツエルが納得しているのならそれでいいだろう。


「難しいことを聞いてすまなかったね。成績優秀な君には簡単だっただろうが」

「地球人なら難なく答えられる事ですよ」

「はは、そうか。

 それと、話題は全く変わるが、もう一つ話をしてもらっていいかな?」


 表情を変えずにツエルは言った。しかし、眼鏡の奥からチラリと見える彼の目は先程よりも鋭く光っていた。おそらくこちらが本題なのだろう。


「ハイディア君がチキュウで死んだ時の話を聞かせてほしいんだ」


 そんな事だろうと思った。むしろ今まで誰もこれを聞かなかったことが不思議なくらいだ。


「面白い話ではないですよ」


 そう前置きをし、淡々と話し始める。


「普通の朝でした。倦怠感はありましたが、それ以外は本当に普通だったんです。でも、 身支度をしていたら突然物凄い胸の痛みと吐き気が襲ってきて。それに耐えているうちに、身体が熱くなって、目の前がチカチカして。訳が分からないし、誰に言う事も出来ないし、と思っているうちに意識が遠のいてきて。

 ……そこで地球人だった僕の記憶は途切れました。次に覚えているのは、ソフィアが歩くのをみんなが喜んでいる光景です。

 いつの間にか僕は転生してて、新たな人生をスタートさせていたんですよ。まったく可笑しな話です」


 言い終えて一息つく。かなり簡単だったが、大まかに状況が分かればいいだろう。自分も、あの時の事を思い出すのは疲れるのだ。

 ツエルは先程のように顎を撫でていた。今の話を咀嚼しているのだろう。


「状況は分かったよ。それで、君が元チキュウ人だったということはいつ知ったのだ? その様子だと、最初から覚えていた訳ではなさそうだが」

「そうですね。思い出したのは四歳頃だったと思います。地球にいた時の夢を見たんです。それから全て思い出しました。幼少期から最期まで、本当に全て」

「それを誰かに話した事は?」

「夢を見た時にまず母に言いました。けれど、想像力が豊かだわ、としか言われませんでした。

 他に知っているのは幼馴染のレオンとソフィアだけです。前世の記憶だということをきちんと話したのは十代になってからですけど」


 全てを思い出した時の事は今でもよく覚えている。突然自分の中に誰かの記憶が流れ込んでくるあの感覚は、とても不快だった。自分が誰なのか分からなくなりそうだった。

 四歳の幼い子供にそれが起きたのだ。今思うと残酷な話だ。


「そうか。転生の瞬間まで覚えていれば、と思ったんだが。

 いや、これもまた貴重な話だった。君のような人間は聞いた事無いからな」

「僕も同じような経験をした人を探していました。けれど、資料の中ですらそんな人はいませんでした。

 ……任務終了後に研究機関から呼び出しがかかるのかと思うと、気が滅入りますね」


 はは、と乾いた笑いが込み上げてくる。そう。任務が無事に終了したとしても、研究と称して自分の事を調べようとしてくる輩はいるだろう。例えアテラの危機を回避したとしても、自分には当分平穏な日常なんて戻ってこないのだ。

 なんて、事務長に愚痴をこぼした所で何も変わらないのだが。


「それは私からは何とも言えないな。君の特殊性については内部機密だが、その中でも興味を持っている連中はいるだろう。私のようにね。

 ただ学園は生徒を守る義務がある。希望があれば、少なくとも卒業までは今まで通り過ごせるよう手配する事もできる。卒業するまで我々が滅びていなければ、だが」

「本当にそうしていただけると助かるんですけどね。考えておきます」


 事務長の言葉は有難いが、鵜呑みにする事は出来ない。そもそも全ての元凶はこの学園にあるのだ。簡単に信用など出来るはずがない。


「さて、長話になってしまったな。時間を取らせてすまない。しかしとても有意義な話だったよ。礼を言おう」


 そんな心境など知る由もない事務長は、立ち上がりながら和かに言う。


「いえ、僕も事務長とお話が出来て良かったです。最後に僕から一つ質問をしてもいいですか?」

「話をしてくれた礼だ。何でも答えよう」


 彼は軽く両手を広げて返事をする。

 快く答えてくれそうでよかった。僕も確かめたいことがあるんだ。


「この寮や生活用品、スマホに学校の手配まで全て事務長が行なったとキースさんから聞いています。という事は、僕達より前に地球に来ていますよね。建物などはどういうルートで入手したんですか?」


 地球に来た時、こちらで様々な準備がされていて驚いた。僕達の戸籍は地球には無いため、不動産やスマートフォン契約時の本人確認はどうやって行なったのだろうか。マナで情報を操作出来るなんて話は聞いたことがない。と言う事は、何かしらの手段で戸籍を獲得したのではないか。

 ……闇ルートなんてことは考えたくない。


「君の言うように、私は君らより前にチキュウに来ている。任務の基盤を作るためにだ。しかし、契約にはジュウミンヒョウだのメンキョショだのが必要と言われ、何もない私にやれることはなかったよ。

 そこで私は協力者を求めることにした。私には出来なかった契約関係を全て行なってくれる、チキュウ人の協力者を」


 そこまで言ったツエルは口角を上げる。相変わらず眼鏡が反射していて上手く表情が掴めないが、何かを見透かしているような、そんな顔に見えた。


「僕達が異星人だと言った上で、協力を仰いだんですか」

「嘘をつけばどこかで矛盾が生じるかもしれないだろう」

「協力者は一人ですか」

「あぁ、一人だけさ」

「そうですか……」


 まさか地球人に協力者がいたとは。どうやら手配は全てその人が行なったらしい。異星人と知りながら協力するとは、相当なSF好きか、何処かのモノ好きか、それとも脅された要人かだろう。

 闇ルートという線も捨てきれないが、この際それは無視するとしよう。


「これで満足かな。では私は戻るよ」

「その人が何処にいるかなんてことは」

「流石に言えないな。協力者の存在は非公認だからね。君と私との秘密だ」


 非公認の協力者なんて、上層部にバレたらとんでもないことになるぞ。

 まぁ良い。今の情報だけでも引き出せたことは重要だ。


「では今度こそ戻るよ」

「あ、はい。答えていただきありがとうございました」


 ツエルはドアを開けて廊下へ出る。自分は乾いた喉を潤そうと鞄のお茶に手を伸ばした。

 すると徐ろにツエルが振り向く。


「そうそう。協力者の素性は調べないように。バレたら大ごとになるし、何より彼女は匿名であることを望んでいるからな」


 唇の前に人差し指を立てて彼はそう言った。その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。

 そのままドアは閉められた。室内に何とも言えない静けさが残る。


「……掴んでみろと、そういうことですね」


 お茶を一口含むと、そう独りごちた。

 彼は僕のこの質問を待っていたのではないか。そして遠回しに挑戦状を叩きつけた。


 国立魔法強化訓練校リマナセの事務長、ツエル。一体彼は何者なのか。


 彼は、前世の記憶を持つ自分のことを、興味があると言っていた。おそらくこの件で、研究に値するのかどうか試すつもりなのだろう。まるでゲームの主人公にさせられた気分だ。どの道、これがゲームでなかったとしても自分は協力者について調べるつもりでいたが。


「明日は礼音とジムにでも行こうかな……」


 頭がパンクしそうだ。どうしてこう、やる事ばかりが増えていくのか。

 数分前に広げた資料が散乱するのも気にせず、腕を伸ばして机に突っ伏す。机の冷たさだけが今の自分に心地良さを与えてくれた。

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