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地球を征服しますか、それとも救いますか  作者: ずんだ千代子
三章 ミッドサマー・デスマッチ
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① 「どうかあいつを宜しく頼むよ」

「これから三日間、マナの調査の為にこちらの部屋を借りることとなった。私は事務長のツエル。チキュウ調査の任務をお願いする時に顔は見ているだろう。それと、こっちは科学班のトロンとスタチだ」

「トロンです。よろしくお願いします」

「スタチだよ! よろしくどうぞ〜」

「私からは何か質問等するかもしれないが、対応してもらえると助かるよ。よろしく」


 先日キースが言っていた、マナの回収機器開発を担うメンバーがアテラからやってきた。彼らはこの寮あてらを拠点にし、マナの量や成分を解析して機械の構造を考えるらしい。

 科学班の二人とは直接的な接点は無さそうだが、事務長は僕達の話を聞きたそうだ。事務長とは僕も少し話したかったので、丁度いい機会だと捉えて三日間を過ごそう。


「この人達の分の食事は用意しなくていいから。でもお風呂とかトイレは共同だから、そこの所はよろしくね」

「私の入浴時間は今まで通りでいいんですか?」

「そこはちゃんと言っておくから大丈夫だよ」

「ありがとうございます」


 ソフィアが尋ねる。一時的とはいえ、この寮で唯一の女性である彼女にはやはり気掛かりなのだろう。


「じゃあ紹介も済んだし、各自部屋に戻っていいよ。ヨータとソフィアはそろそろ学校の時間だろう。明日からナツ休みっていうのに入るわけだし、今日は遅刻しないようにね」

「はぁい。ボクはこのまま行ってきます」

「あ、私も行くよ。途中まで一緒に行こ」

「いいですよ。では」


 既に制服に着替えていたサンとソフィアは一緒に出て行く。小学生でも十分通用しそうなサンの制服姿は、未だに見慣れないものがあった。

 その横ではレオンが背伸びをしていた。


「んじゃ、俺はジムにでも行ってくるかな」

「今日もですか」

「おう。トレーニング仲間のおっちゃん達が待ってるしな。お前も行くか?」


 そう言って彼は親指で窓の外を指す。ニカッと笑う彼の歯が日差しで輝いているように見えた。

 彼の言うおっちゃんとは、レオンが通い出したジムで仲良くなった、健康的なおじいさん達だ。僕も一度会ったことがあるが、彼らから得られるのは昔話のみであり、調査に必要な情報は望めなそうだった。


「僕は遠慮しておきます」

「みんなで汗を流しながら喋るってのもいいモンだぞ」

「ストレスフルになったらそれも良いかもしれませんね。僕は調べたいことがあるので」

「つまんねーの。ま、気が向いたら来いよ」


 それだけ言ってレオンは部屋から出て行く。力強く叩かれた肩が少しだけ痺れたが、いつものことだった。


「俺もバイトの準備があるから行くね。つっくん、あまり寮を散らかさないでよ」

「分かっているさ。いいから行って来なさい」

「オーケー。じゃあね〜」


 陽気に手を振るキースをシッシッと言わんばかりに追い立て、事務長のツエルは溜息をついた。

 キースがつっくんと言っていたのはおそらくこのツエルのことだろう。オールバックで黒縁眼鏡の彼にその愛称は、と思うが、そういえばキースはオーウェンのこともおっくんと言っていた。そんな馴れ馴れしい愛称で呼んでも怒られない(オーウェンはだいぶ怖い顔をしていたが)とは、三人は一体どういう関係性なのだろう。考えれば、歳も同じくらいに見える。


「彼はチキュウでもあの調子なのかい?」


 そんなことを思っていると、ツエルが話しかけてきた。


「そうですね。あんな感じです」

「まったく、それでリーダーが務まるのか心配だろう」

「はは……」


 腰に手を当てて彼は再度溜息をつく。きっと事務長もキースには色々と苦労をかけられているのだろう。


「でもああ見えて頭はキレる男だ。いざという時は役に立つだろうから、どうかあいつを宜しく頼むよ」

「あ、はい」

「さて、私もそろそろ仕事を始めないと。トロン、スタチ、まずは外に出て計測を開始しよう」

「はい」


 ツエルの指示を受けた科学班の二人は、大きな箱から中身を出し始める。隙間からテレビのアンテナの様なものが見えたが、ツエルがそこに立ちはだかったためよく分からなかった。


「ハイディア君にはチキュウのことを色々聞きたいが、私は今科学班のサポートをしないといけない。夕方にでも少し時間を作れるかな?」

「はい。大丈夫です」

「ではまた声を掛けるよ。さ、ここは仕事場になるから行きたまえ」


 そう言うツエルに促され、渋々部屋から出て行く。その様子からすると、これから行なう調査は人にはあまり見られたくないのだろう。


 自室に戻り、すぐにスマートフォンでひゃくもじを開く。検索画面を開くと、昨日検索した単語がいくつも表示された。僕は上から順に再度検索をかけていく。


「特に変わったことは起きてなさそうですね……」


 宇宙人、異星人、超常現象などといった単語で様々な人の記事を見るが、目につく内容はなかった。

 次にネットニュースを一通り見てみる。やはりここにも気になるものはない。


「早々に攻めてくるものでもないか」


 一度画面を閉じると、机に置いておいたペットボトルの茶を口にする。口内に残る渋みを楽しみつつ、脳内でこれまでの情報整理を始めた。


 先日キースが重い口調で言った、地球調査の外部流出。それにより、アテラと敵対する星が地球を侵略しようと攻めてくる可能性が出てきた。正直に言えば、地球が侵略されること自体に関しては我々の知ったことではない。問題は、地球に溢れるマナの回収が出来なくなることだ。

 アテラと敵対する星々は、共存や交渉といった高次的なカードは持ち合わせていない。彼らにとっては、力による支配が全てだ。地球が侵略を超えて征服された場合、アテラが地球に干渉することはほぼ不可能となる。

 先日、茶と緑の惑星にマナは存在しないことが報告された。そのため、もう我々アテラ人は地球のマナに賭けるしかない。もし地球が他の星に征服された場合、アテラ人には滅亡の道しか残らないこととなる。当初よりも責任の重い任務になっていることは不服だが、こうなった以上は絶対に滅亡の道は避けなければならない。

 幸いなことに、今のところ敵対勢力が攻めてくる兆候はなかった。本当であれば、科学班が呑気に実験したり、ソフィア達が学校に行ったりしている場合ではない、というのが自分の本音だ。しかし、あらゆるところに情報網を張り巡らせているキースがいいというのだから、今はそれに従うしかない。


 茶を飲んで一息つく。考えれば考えるほど、頭の痛くなる案件だ。十代の若者の背中に星の未来が乗っているなどと、誰が信じられよう。

 なんて泥舟に僕達は乗せられているのか。


「さて、一先ず今日は図書館にでも行きますか」


 いつまでも文句を言っても仕方がない。ツエルは夕方に話をしたいと言っていたので、それまでは図書館で調べ物をしよう。

 ペットボトルを鞄に入れて立ち上がる。科学班のいる奥の部屋からガタガタと音が聞こえていたが、見学させてくれる気は無いようなので気にしないことにして寮を出て行った。

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