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プロローグ

「あと一年だと⁉︎ 冗談だろう!」


 上品なマントを身に纏う白髭の老人が、唾を飛ばしながら言った。その周りにいる配下達も蒼い顔を見合わせている。


「この星の隅々まで調査したのか⁉︎ 地中や上空、氷の中とか全て……っ」

(わたくし)共もあらゆる手段を尽くして調査しましたが、もうそれが限界かと」


 老人の前に跪く眼鏡の男は、真っ直ぐとした瞳を向けていた。それを見た老人の身体は徐々に大きな椅子からずり落ちていく。


「なんということだ……。マナが無くなってしまったら我々は無力ではないか……」

「……力不足で申し訳ありません、国王陛下」


 国王と呼ばれた老人は、虚ろな目で天井を見上げる。そこには煌々と灯る豪華なランプと、石造りの彫刻があった。大きな窓からは、真っ暗な大地に吹雪が吹き荒れる様子も見える。


「ツヴァイよ、アテラ人はマナに頼りすぎていたのだろうか」

「マナを使って星を発展させ、更に異星人からの侵略を防いでいるのは事実です。我々の落ち度は、マナが無限だと信じ切っていたところにあります」

「むぅ……そうかもしれぬな」


 眼鏡の男ツヴァイは、慎重に言葉を選んで言う。国王の淋しげな表情に、周りの者も何も言えなくなっていた。

 一瞬の静寂の後、国王がポツリと呟く。


「この星はまた、暗くて凍える荒地に戻ってしまうのか」

「それだけで済めば良いのですが」


 盛大な溜息をつく国王を前に、ツヴァイは静かに、しかしハッキリと言う。


「このままではアテラ人は滅びます」


 その場にいた誰もがツヴァイに視線を向ける。ある者からは衝撃、ある者からは落胆の色が見えた。国王も悲痛な表情を浮かべている。


「我等に未来は無いということか」

「はい。現状では」


 広い王室内に悲壮感が漂う。国王やその配下達は既に諦めているようだった。

 そんな項垂れる国王を見上げたツヴァイは、怪しく光らせた眼鏡をクイとあげる。


「しかし、まだ希望を捨てた訳ではありません。今夜ここへ来たのは、陛下の許可を頂くためです」

「何……? まだ可能性はあるというのか⁉︎」

「はい。ただし、危険を伴うことが予想されます」

「良い。話してみなさい」


 すがるような目をした国王を確認し、ツヴァイは立ち上がった。


「アテラから遠く離れた複数の惑星に、マナが存在する可能性があることが分かりました。そこに調査団を派遣したいと思っています」


 彼は懐から取り出した報告書を渡す。周りの配下達も食い入るようにそれを見つめていた。


「懸念材料は、その星々に知的生命体らしきものが確認されていることです。彼等に異星人と悟られた場合、惑星規模での争いが起きないとも限りません」

「なるほど。争いにより滅びが早まり兼ねないということか」

「ええ。最悪の場合は」


 白髭を撫で険しい顔をする国王に、ツヴァイは続ける。


「そこで、団員の構成を国立校リマナセの学生を中心に組もうと考えています。彼等は極秘任務を担う上での訓練はある程度積んでいますし、若者の方が怪しまれにくいと思うので」

「学生か……。妙案だな」


 唸る国王とざわつく配下。ツヴァイの綱渡りのような提案に、誰もが消極的な反応を示していた。

 それでもツヴァイは表情を変えず、ひたすらに王からの返事を待つ。


「このまま待っていても我等には滅びしかない、か」


 国王は王室を囲む石造りの壁を見つめる。そこには人々が炎や風を操っている姿や倒れる人を介抱する光を纏う人物の姿、荒地に建物が整備される様子が描かれていた。

 再び大きな溜息が吐かれる。次にツヴァイに視線を合わせた国王の瞳は、強い決意に満ちていた。


「いいだろう。調査団派遣、儂が認めよう。そしてツヴァイ、主を責任者として任命する。

 アテラの最後の希望、主の腕に託すぞ」

「ありがとうございます。きっと我々が生き残る道を見つけて参りましょう」


 国王の言葉に深々と頭を下げたツヴァイは、ようやく笑みを浮かべる。周りにいた配下達からは不安の声が上がっていたが、両者共それに応えることはなかった。


「では私は早速準備に取り掛かります。進行状況は随時ご報告致しますので」

「うむ。頼んだぞ」


 こうして、国王の勅命を受けたツヴァイは王室を後にした。王は扉が閉まるまで彼に熱い視線を送っていたが、周りの者は最後まで渋い表情をしていた。


 磨かれた石床に反響する革靴の足音。表情を隠すように光を反射する眼鏡。氷点下の廊下を俯き加減に歩く彼からは、白い息が吐かれる。


「ようやくここまで来たか」


 そう独りごちると彼は口角を上げる。髪をかきあげ天井を見上げた金色の瞳は、細められていた。


「さて、存分に楽しませてもらうとしよう」


 返された報告書を握り潰し、再び歩き出すツヴァイ。

 背中に長く伸びる影の怪しい笑みに気付く者は、誰も居なかった。

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