前走
電車の窓から見える景色に驚嘆した。
なにこれ。緑しかないじゃん。
どこもかしこも山、山、山…。
列車はより一層音を立てて揺れながら進む。
「ママ、本当に緑しかないんだね」
私は力なく声を振り絞ってそう言った。
「レモネードの服もここになんか何もないだろうしキャプネットのアクセサリーだって全然ないんだろうね。あ~あ~」
ママが何も言い返せないのをいいことに、私はどんどん悪態をつく。
「新宿のあの喫茶店にも二度と行けないしさ。あ〜本当何を楽しみにして生きてきゃいいの」
四両編成の一番先頭車両に乗っているのは私とママだけだ。それだからか何故か不満も声もどんどん大きくなっていく。
「だってさぁ、美葉ちゃんに海未ちゃんなんでそんなド田舎行くのって言われたんだよ。別に私だって行きたくていくわけじゃないのにさ」
「海未。あなたが私と一緒についてきてくれたことはとても嬉しいけど、ママはそんな罪まで負えないわ」
カンカン照りのお日様が照らす光よりママの肌は青白かった。
目の下にはうっすらクマが見える。
何も言い返せなくなって私は、口を尖らせながら横目でママを見る。
深くため息をついて頭を手で抱えたママの格好は、外の景色と比べて恐ろしく不似合いだった。
表参道で買った真珠のパールのネックレス、花模様の白いレースが施されたボレロ、真っ青なセミドレス。
私たちはまるで箱の中に閉じ込められた囚人のようだ。外にある風景だけが青々と息をしている。
私はフッと高い息を吐きながらお気に入りの真っ黄色なサンダルを履き直した。
もうすぐ終点だ。
いまはただ、早くこの箱から抜け出したいと、なぜだか思っている。