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壊れた花瓶

作者: tktk1919

「やってしまった…」

 僕の目の前には花瓶が散らばっていた。庭に水やりをしにきたときに、転んだ拍子に壊してしまった。この花瓶はおじいちゃんがいつも大切にしていたものだ。花瓶の模様は、青い地球の周りに様々な人が手を繋いで笑顔でいる。それが今ではバラバラでどのような模様だったか全く分からないようになっている。なんでも、この花瓶は先祖代々リポビタン家が受け継いできたものだって楽しそうに話していた。

「どうしよう…」

 一刻も早くこの場から離れたいと思い、辺りを見回し誰もいないことを確認して、その場から離れた。


 部屋に戻りベッドに潜る。頭に思い浮かぶのは花瓶のことだ。

(早く謝らないと…)

 頭では勿論分かっている。隠し続けることが悪いことだってことぐらい。ただ、勇気が出ない。大好きなおじいちゃんが悲しい顔をするのを見たくない。1年前におばあちゃんが亡くなった所なのに、これ以上悲しい思いをさせたくない。

(それにあれは、お母さんが水やりを僕に任せるからいけないんだ)

 今回のことをお母さんのせいにして忘れようと思い目をつぶる――


『おじいちゃん…おばあちゃんはどうして目を開けないの?』

『ばあさんは空に旅立ったんじゃよ』

『…おばあちゃんには二度と会えないの?』

『そうじゃよ、ばあさんとは二度と会えないのじゃ』

『…おじいちゃんは寂しくないの?』

『50年いつもばあさんが隣に居てくれたからの、やはり寂しくなるのう。ただのう、儂がいつまでも悲しくしていると、ばあさんまで悲しい思いをさせてしまうのじゃ。お前さんも覚えておくのじゃ、ばあさんはお星様になっていつも見守ってくれていることを。だからこそ、ばあさんを悲しませたり不安にさせたりしないようにするのじゃ、分かったかのう?』

『…うん』


 懐かしい夢を見た。いつのまにか眠っていたようだ。1年前おばあちゃんが亡くなった時だ。

(おばあちゃんは僕を見ているのかな…。こんな姿をみたらがっかりするかな?)

 行こう。おばあちゃんを心配させたくない。何より、逃げるようなかっこ悪い人間になりたくない。


「おじいちゃん、ちょっといい?」

「どうしたのじゃ、そんなに青い顔をして」

「…ごめんなさい。実はおじいちゃんが大切にしていた花瓶を壊しちゃったんだ」

 おじいちゃんの部屋に着くと、花瓶の破片を広げて壊してしまったこと、一度逃げてしまったことをありのまま話した。


 おじいちゃんは話をしている最中は何も話さなかった。すべてを話し終えたとき、おじいちゃんは嬉しそうな顔をする。

「よく、話してくれたのう。とても勇気のいる行動じゃ」

「…ごめんなさい」

「確かにあの花瓶は先祖代々受け継いできたものじゃが、儂はあの花瓶が壊れたことよりも、お前さんが勇気をふりしぼってくれたことが嬉しいのじゃ」


「本当に感心しているのじゃよ、自分の失敗を自分の責任と受け止めることは、とても勇気がいるのじゃ。他人のせい、環境のせいと色々な言い訳をしたくなったと思うのじゃ。それを乗り越え、謝るという行動に移せたのはとても重要なことじゃ」

 確かにあの時お母さんのせいにしてしまった。

「そうじゃの、お前さんも来週で13歳になるじゃろ。少し早いが先祖代々オロナミン家があの花瓶を受け継ぐときに聞く話をしてやろうかの」

 コホンと一つ咳をして壊れた破片を一つ持ち上げた。


「この花瓶はどのような模様だったか覚えておるか?」

「地球の周りに手を繋いだ人がいる」

「そうじゃったの。じゃあのこれを見てくれ」

 それは花瓶の青い部分の破片だった。

「この破片を見て花瓶がどんな模様だったかわかるかの?」

「それは不可能だよおじいちゃん。だってそれだけならただの青い破片だもん」

「そうじゃの、ただ今回の謝るという行動でお前さんにこの破片を渡そう」

「どういうこと?」

「これからは、1つの行動をすると1つの破片を貰えると思うのじゃ。この破片には成功もなければ失敗もない。ただ、行動をすると一つの破片をもらえるだけなのじゃ。だから、行動をするときに何かを期待したり、失敗したりすることを恐れたりすることには何の意味もないのじゃ」

「その破片を集めるとなにかあるの?」

 僕が質問をすると、おじいちゃんはくしゃっとした笑顔を浮かべた。それから、大事なことを僕に聞かせようと低く落ち着いた声で話した。

「すべて集まったときには、お前さんが幸せをつかんでいるときじゃ。将来この破片をすべて集めた時に振り返ってみると、今回のことがどういう意味を持つのかわかるのじゃ」

「うん」

「だからこそ、この破片は大切に持っておくのじゃ。これから、お前さんには行動の結果いろいろなことが起こる。涙が出るほど嬉しいことも、許せないぐらい腹が立つことも、死にたくなるぐらい悲しいことも。ただの、それらは将来幸せになるための一つのピースにすぎないことを忘れてはいかんぞ」

「わかったよ、おじいちゃん。これからはいっぱい集めるよ。それで、絶対幸せになるね」


 40年後

 僕の部屋にはバラバラになった破片が積み重なっていた。

今日は息子が13歳の誕生日だ。

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