第7話「宿屋三兄弟との団欒、そして悲劇は突然に‥」
設定と後の展開に大きく関わる部分が多かったので、すごくゆっくり書きました。時間が空いてすいません。私は生きています。
自分のユニークスキルの恐ろしさに驚愕し、とりあえずお腹がすいたということで、下に降りることにした。
「おはよーうジュン君、よく眠れたかい?」
「はい、おはようございますっていうか昼ですね、起きたらお昼なんてぐうたらしすぎで笑っちゃいます。」
「まぁ、死んでなくて良かったよ、リリがすっごく心配してね、何度か死んでないか見に行っ‥」
「お姉ちゃん!?ちょっと!!」
「あははは~ジュン君お腹すいた~?」
絶妙今話そらしたろ、どうしたんだよ気になるじゃん!
お昼ご飯を食べる時に、リリとシンさんとクレアさんになんか謝られてしまった。クレアさんは「夜になる前に帰ってこいといってなかった」と、リリは「夜練習するなら‥場所用意するのに‥」と、シンさんは「止めるか一緒に行くかするべきだった」と‥。
悪いのは俺なのに‥3人とも超がつくいい人だからなぁ‥。
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「ん~、な~るほどね、いや、全然君が持ってていいけど?」
「え、あっ、いいんすか?」
「荷物置いてけって言われて絡まれて殺されかけて、その上で反撃して得た物なんでしょ?」
「まぁ、そうですけど‥‥‥」
得た物って‥投げられたんだけど‥
「まぁ、返す義理もないし、戦利品でいいんじゃないかなぁ。」
「そうですか、ありがとうございます。」
俺は昼を食べてから冒険者ギルドに昨日の不良共の荷物をどうするか相談しに来たところだ。返さなくていいみたいだ、正直お金もけっこうあるし、特に、低純度らしいが鑑定魔石がおいしい。
「そういや今日の朝、西区の裏通りで9人の男の死体が見つかったんだとよ。」
ふと、1つのパーティの会話が耳に入った。
西区‥クレアさんの宿屋があって、昨日俺が殺されかけたところもガルド市の西区だ。
「全員に首にざっくり切り傷があってな、特に禿げ頭の大男は足の骨が原型を留めてなかったそうだぜ。」
――――――――!!!
間違いない、昨日の不良共だ。
‥‥‥死ん‥だ‥。
このとき、俺はあからさまに動揺していたんだと思う。
赤髪だ。恐らく、あの赤髪が全員を殺したんだんだ‥
「最近ガルド市にいるみたいだぜ‥あの最悪の殺戮者‥クロウがね‥」
「くろ‥‥‥う‥?」
「なんだ兄ちゃん、知らないのか?細身の長身に、長い赤髪、夜に現れて人を殺す‥今ではこの世界でも最悪の殺戮者、クロウだよ。夜道は気を付けな、ナイフで首をこうだぜ。」
親指で自分の首を斬る動きをする男、俺は無意識に首の後ろ、昨日ヤツにつけられた傷を触っていた。今は治療されていて、傷跡の感触が指に伝わる。
「ジュン君、用事が済んだ、帰ろう。」
「は、はい、お疲れ様でした‥シンさん」
後ろから話しかけられたが、応答がはっきりしない。
それにしても、9人だ。9人も死んだというのは日本なら大問題だ。ニュースで報道され、戦後最悪とか、犯人の心理がどうとか、国をあげて怒りを蓄積させる。命を奪う行為は許されることではない。
この世界の命の価値は‥安い。
生き方次第では確実にこれから人を殺すだろう。
逆に俺はスキルがなければ余裕で死んでいた。
死にたくないし、殺したくない。
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「今日‥教える魔法は、魔盾‥無属性の‥魔法で、盾を作り出す魔法‥お手本見せるから‥」
異世界ライフも5日目、ここまで適応できた自分を褒めたい、今はリリにまた魔法を教えてもらっている。
無属性魔法は全ての魔法の基礎らしい、頑張るぞ!
「‥魔盾」
リリの右手の延長上に縦長の楕円形の白い盾が形成される。大体1メートルくらいだろうか、けっこう大きい。
「ジュン君、魔弾‥撃ってみて‥」
「えぇ、マジで??大丈夫なの!?」
「まじだ、問題‥ない‥」
いや、多分盾で防げるんだろうけど‥女の子に攻撃魔法ぶっ放すってどうなのよ‥まぁ詠唱するけど‥
「‥魔弾!」
安定していい感じの大きさに出来るようになった俺の魔弾はリリの盾に当たり消滅する。
「おぉ‥」
「耐久力は魔法力に依存するから‥過信はしたらだめだけど、盾として‥優秀‥」
「すごい!!」
めっちゃ使えるやんけ、頭脳派の俺には手札は1枚でも多く必要だ。防御手段は大きい。
「それに‥魔力を操作することで‥形‥自由に変えられる‥」
と言い薄桃髪の少女は魔盾を引き延ばしたり、傘みたいにしたり、ねりねりと形を変えていた。
「おぉすごい!!」
「えっへん、半年で‥身につけた‥」
「半年!?」
まじかよそんな高等技術かよ、鍵作って手錠とか外すとか手錠外すとか手錠外すとかそういう無双したかったのになぁ‥
実に惜しい‥努力次第か‥
「では‥ジュン君‥実際に使って‥みて」
俺はリリに教わった詠唱で魔法を構築する、イメージと集中、体の中の魔力をコントロールする感覚‥‥‥
「魔盾」
右の掌をかざしたところにB5サイズくらいの円形の‥盾ができる。小さい‥
「おぉ流石‥ジュン君‥ちょっと、それ置いてどいてて?」
「お、おう?」
「魔弾」
リリの手から放たれた特大の魔弾は俺の初魔盾を消し飛ばした。
おいおい、酷くね??
「さっきも言ったけど‥耐久力は魔法力に依存するから‥過信は‥しないこと‥痛い目‥みる」
実演込みで忠告をしてくれるリリ、真剣な表情が可愛い、しかし、かなり重要な忠告のようだ。
これは飲まねばならん、魔盾でケガをしたらリリに怒られるだろう、ここまで考えるのに0.5秒‥多分だけど
「気を付けます。」
魔盾は信用し過ぎない、と心に刻んだ。
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「賑やかだな~」
異世界ライフ10日目、ゴブリン狩りにも慣れて冒険者ランクがEランクに上がった。
今日は生きていく上で欠かせないショッピングに来ている。
必要な物を買い込むのと、相場を知っておきたい。
えっと‥これは‥えっと‥
「リン‥ゴ‥??」
「おっ、どうした兄ちゃん?リンゴが珍しいのか?」
「いや、リンゴって赤くなかったっけなと思って‥」
俺が見ているのはリンゴの形をした真っ青な果実、リリに作ってもらった50音表が書いてある元・数学ノートをみる限り、これはリンゴだ。
「赤いリンゴ?リンゴは青いもんだろ?」
「そうなんすか、これ、いくらですか?」
「鉄貨8枚だよ」
鉄貨8枚か、さてさて、思考モードに入ろう。
クレアさんに教えてもらった貨幣価値では、
銅貨1枚=鉄貨10枚だ。
因みに銀貨1枚=銅貨100枚
金貨=銀貨10枚
このようなレートになっている。
銅貨1枚ならクレアさんの宿でいも料理が頂ける、芋はお安いらしい。それに対して‥青リンゴ‥ガチで青いやつだ。
きっと果物は高級品だろう。
ちょっと高いな‥しょうがない、人件費だ。
そうだな、買っていって皆で食べよう。
「1つ、お願いします、えっと銅貨1枚ですので、お釣りを‥」
「はいよ、まいどあり!」
手にもって見ると普通に青い、品種改良でこうなったりするのかなぁ‥‥‥
あとは、回復薬を買うのと、武具と服の相場を知っておきたい。
リンゴをカバンに入れる、回復薬はどこにあるんだか?薬屋か?アイテムショップとかあればわかりやすいが。
冒険者ギルドの近くは商売がとても盛んなようだ。冒険者が多いので、依頼で遠くに行くときの携帯食料、回復薬、武器などなど‥‥‥必要なものはここで揃えられるようになっていそうだ。
「あの‥上級の回復薬ありますか?」
「おうよ、ここにあるぜ、1つ銅貨35枚だが、30枚にまけとくぜ。」
おっちゃんがたくさんの香水っぽい瓶を差し出す。どれも中の緑色の液体は輝きを放っている。不味かったなぁあれ。
銅貨30枚、高いな。恐らく高ランクでない限り中級や初級の回復薬を使うのだろう。
ふふふ、ここで俺は必殺技があるのだ‥‥‥
必殺!鑑定!!
《「上級回復薬」
致命傷を無くすことができる回復薬、上級回復魔法と薬草、魔物の魔核から合成可能》
俺は鑑定魔石を持っている、バレないように鑑定すれば、粗悪品も掴まされないし、悪い買い物はなくなる。
だいたいは上級のようだが、いくつか中級が混ざっている、ハズレはもちろん引かない。
鑑定魔石での鑑定は正直やりずらい、自己鑑定では思う通りに使うことができるが、鑑定魔石だといちいち鑑定結果をキャンセルしないと次の鑑定ができない。
バレないように鑑定するのに結構意識を使ってしまう。
「ところで、これの調合は誰が?」
「あ?そうだな、初級は俺がやってるが、中級と上級の合成はギルドに依頼を出してるから、その道の冒険者がやってるんじゃないか?」
「なるほどです」
いくつか中級が混ざっていることは、伝えた方がいいんだろうか?それより、中に1つ、超上級を見つけてしまった。
「じゃあえ~と、上級のこれと、これとこれ、それと中級のを二つお願いします。」
「はいよ、全部で銀貨1枚と銅貨20枚な。」
「はい、これでちょうどです」
おっちゃんにお金を渡し、瓶の入った紙袋を受けとる。超上級もある、すごくいい買い物をしたが、使い過ぎかもしれない。
今日はゴブリンと戦って帰ろう。
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「じゃあなぁ、姉ちゃん!ありがとよぉ!」
「おうよ、またこい。」
今日は団体で泊まりに来ている商人が別の街に拠点を移すということで、今日で宿を去るのだと。
ジュンは商人たちともそこそこのコミュニケーションをとっていた、宿屋の三兄弟と一緒に全員を見送る。
こういう精神は日本に似てていいなぁ、日本の旅館もこんな感じだった気がするよ。
「ジュン!リリちゃん!クレアさん!シン!じゃあなぁ!ありがとよ!また来るぜ!」
「おう、商売繁盛することを祈ってるよ。」
「みんな‥また‥来て、ね」
「また来てくれ、そのときは歓迎しよう。」
王都の方にいくらしい、王都には早いうちに行っておきたい。
生活の基盤も3人のおかげでできた、ここ20日でスキルも獲得したし、レベルも上がった、魔法もそこそこ使えるし、魔物とも戦える、でも‥3人のいるこの街からは、まだ離れたくない。
宿泊客は居なくなってしまったが、酒場の収入だけで生活は問題ないらしい。酒場の手伝いもそろそろ3週間になると思うと慣れたものだ。
シンさんは空いた客室の掃除をすごい手際でやっていた。風の魔剣や水の魔剣の応用で作った道具が最強らしい。
商人たちがいないので、夜の酒場から人がいなくなるのがいつもより早い、4人揃って夕飯を摂ることができた。
「今日から4人暮しやね~」
いや、まぁ、そうなんだけど‥俺だけ血縁じゃないですよ‥
いいんだろうか?三兄弟に割り込んで
「いや、俺の場違い感ありますね」
「いや、気にするな、ジュン君」
「そうだよ!っていうか行くあてができるまでっていう話だったけど、もういっそずっと家にいなよ!!」
「クレアさん‥」
泣いてしまうとは情けないぞ俺‥
嬉しい、なんて優しくていい人たちなんだろうか‥
「ありがとうございます‥」
俺は「ちょっとだけお待ちください」と付けたして、自分の部屋に戻る、持ってきたのはケータイだ。
「俺の古郷の話を聞いてくれませんか?」
ケータイの画面を点灯させる、充電があと26%だ。今この話をしなければ、きっとする機会はなくなってしまうだろう。
「これ、スマートフォンっていいます、俺の古郷の‥‥万能道具‥みたいなものです。」
「なにそれ!?魔道具!?初めて見るな!」
「知らない‥字がいっぱい」
「ジュン君、いろいろ聞きたいことがあるんだが‥?」
やっぱりこうなるよね‥この中世にも似たこの世界で現代の超文明の道具なんて見せたらこうなるよね‥
「うーん‥魔道具‥みたいなもの‥かな、字は俺の古郷のもので‥‥‥あはは‥」
この後も質問攻めがえげつなかったが、異世界から来たことは理解してもらっていたので、向こうの世界では魔法が使えない、その代わりにすごい道具を使って生活していると言ったら、3人とも納得してくれた。
「これがうちの弟と妹で、親友の京介‥これが‥」
話は家族や兄弟、親友の京介のこと、俺をとりまく大切な人の事だ。この人たちには知ってほしい、そう思った。
写真や動画を見せたときは、とんでもない質問攻めが開始されたが、説明が難しすぎた。
一瞬で精巧な絵を描く‥写真の説明になってるかな‥
しばらくして、ケータイの画面にシャットダウンしていますという表示が出て、まもなく光が消えた。
「充電なくなっちゃったな‥」
「充電‥?」
「あぁ、動かすためのエネルギーみたいなものかな。」
電気‥これが得られるまで、思い出は頭の中にしかない。
でも、本当の思い出はきっとそういうものだ、現代人は記録に残すことを重要視している気がする。写真に撮って残すより、記憶に残す、これが大事!!
「まぁ、言えたことじゃないけどな‥」
「ん‥どうかしたの?」
「いいや、何でもないよ。話、聞いてくれてありがとね。」
きっとこの三兄弟にはこれからもお世話になるだろう。それこそ命の恩人というやつだ。絶対に‥
この恩は絶対に返す。
「みんなありがとう。図図しいかも、ですがこれからもよろしくお願いします。」
頭を下げる、ジュン自身の心からの感謝だ。家族や友人に恵まれつつも、彼が残した足跡はどれも平凡なものだ。平凡に人に感謝しつつ、平均的に人に頼って生きてきた。
そんな彼の心からの感謝、異世界に来てから何度目だろうか、少なくともこれまでの人生で、最も濃密な20日だったろうか。
「いやいやいいのよ、最近は注文とったり料理運んだりってのはリリ並みにできるようになって、こっちも助かってるしね!」
「いいの‥最近‥ジュン君に魔法‥教えてたら、魔法‥上達した。」
「そういえば私はよくゴブリンと戦うおかげでレベルが上がったな。」
―――――――いい人過ぎるんだ、こうやって‥
「あっ、ジュン君が泣いた!」
「なっ、泣いてないですって!!」
泣いてはいない、と思われる。
この話の後、魔法の特訓をしてから寝ることにした。
夜に練習するのがいいのは、昼は太陽から魔力が世界に供給され、夜は月や星から魔力が供給されるのだという。故に闇よりの魔法適性を持つ俺は夜に魔法を使うと適性が発現しやすいらしい。月が出ていない日はどうなるとか、昼間の月はどうなのかとか、疑問はあるが、なんかしらの理屈があってのことだろう。
確か、図書館も学校もあるらしい。この国だと、国立ライトレア魔法学園というのがすごいらしい。教育から研究まで、魔術から剣術までなんでもやるらしい。
「そういや、俺まだ学生だったなぁ。」
完全に忘れかけていたが、この世界に来る前は普通の高校生だった。10代のうちに学校には行きたいと思う、失われし青春を取り戻そう。
もちろん、夜の魔法の練習は禁止されている、死にかけたし仕方のないことだ。
そこでリリが、シンさんの工房のある地下室に練習場を作ってくれた。「危ない‥から‥離れて」といい、土魔法で岩に大穴を開けながら増築を進めるリリには開いた口がふさがらなかった。
階段に差し掛かり、シンさんの魔道具に魔力を込めて階段を明るくする。慣れたものだ。
「あっ‥‥忘れ物した‥」
俺は魔法の練習の記録や魔法の性能、使い方、実践投入の考察などを元・物理のノートに記録している。
最近でかなり強くなった。リリに風と土の魔法を教えてもらい、その二つは別として、無属性はそこそこ強い。ゴブリン狩りのおかげでレベルは7まで上がり、「剛力」や「堅牢」のスキルのレベルも上がった。身体能力が上がり、今ではSA⚪UKEをクリアできそうだ。
忘れ物だが、元・物理ノートは部屋に置いてきてしまったようだ。
「まぁ、いっかな。」
階段を引き返す、今日は雲1つない星空に、満月が浮かんでいる。綺麗だなぁ。
酒場の裏口からリリが出てきて走ってくるのが見えた。
――――――おかしい。
なんだか様子がおかしい。
「リリ?どうかしたのか?」
「‥‥‥っ!!ジュン‥君!」
表情でなんとなく察した。クレアさんが落ちたとき、俺の首が斬られたとき、そのときと同じ、青ざめて、目からいつもの落ち着きが消えている。
しかも、恐怖に似たものが感じられた。今までと、何かが違う。
「なにかあったのか!?」
わからない、けど、何かあった。これは間違いない。
酒場のドアを開ける。
壁には刃物の痕のような大きな傷が付き、棚に置いてあった食器が床に落ち、破片を散乱させていた。
―――――それよりも
「クレア‥さん‥‥‥」
「‥‥‥‥お姉‥‥ちゃん‥」
ジュンとリリを動揺させたものは、
床に広がる血で、その体とピンク色の髪を赤く染めて倒れる
クレアさんの姿だった。
3月14日誤字直しました。すみません