第29話「対殺戮者戦考察」
―――――――!?
どういうことだ?
ジュンにはシンの戦慄と言葉の意味が解せない。
クロウはシンさんを圧倒していた?
何を言っているんだ?
クロウとの戦いではシンさんが炎刃を使えなかったというハンデが大きかったから劣性を強いられていたが、魔力を使えばほぼ互角に戦えていたぞ?
能力の代償?
つまり、クレアさんの魂を奪い取った『禁断魔法』を使う時に負う代償が能力の制限である。
ということだ。
「そうだ。私たちはその魔術の『代償』はステータスの低下、それと一部のスキルが使えなくなるものと考えている」
「つまり‥?」
「君らが鑑定したのは、『禁断魔法』を使った後のクロウで、本来の力は鑑定できたわけではない。」
「‥‥‥」
アーレンを除く四人に、一枚の紙がメイドによって配られた。
この改行の仕方と間の空け方‥
知っている。
ステータスだ。
くそぅ。
文字の解読スピードがくっそ遅くて話にならなかったらどうしよう。
「LV89なのに攻撃力1806、流石に、流石に弱すぎる」
そう言ったのはアーレンだ。
「スキルだって、800年を生きているのに少なすぎる、まるで最低限以外を切り捨てているみたいだ。」
確かにそうだ。
スキルが少ない。魔法系もほとんどない。
とんでもない時間を戦い抜いているはずなのに耐性系もない。
これなら、俺が短期間でスキル獲得をしただけで数は超えられそうだ。
「これなら、フェイ、お前でも勝てるだろ?」
「いやぁ~、勝てそうですけど、もうひとつの『禁断魔法』の正体がわからないので、なんとも言えませんかね」
アーレンの問いかけに、フェイが首をかしげながら答えた。
中級騎士‥。
下級騎士の1つ上の階級だが、実力は下級騎士とは比べ物にならないくらい強い。
ステータスだけで言うなら、下級騎士は900~、中級騎士は1500~だ。
もっとも、その上に上級騎士という化け物級の強さの騎士がいるらしいが。
中級騎士であるフェイは、勝てそう、と言った。
この人、シンさんよりも、強いのか‥
「あっ、そういえばシン君たちって、すごく強いんだよね?冒険者で、ランクは?」
「Cです」
「‥Cです‥」
えっ、俺‥Eランクなんですけど‥
「‥‥‥E‥です‥。」
答えると、フェイはきょとん、とした顔をした。
Eランクなんて駆け出しだし、シンさんたちだって強いけどランクはCだ。
やっぱりランクは判断基準になるのだろうか。
「フェイ、彼らは宿屋を経営しているんだ。一日で終わらない依頼を受けられないから、ランクが高くないのも無理はないだろう」
「聞きたいことがあるのだが」
「ん?言ってくれて構わないよ」
「あいつ‥クロウが殺戮を始めたのは70年前、と仰っていましたが、クロウの経歴を教えてはくれないだろうか」
「あぁ、そうだったね。そこを知らないと考えられるものも考えられないな。さっきも言ったが、奴が殺戮者として知られるようになったのは、70年前のこと、しかし種族は半分が吸血鬼。
それはつまり約800年前から生きているということ。」
アーレンは淡々とかの殺戮者について話した。
最初に名前が上がったのは、ある大きな盗賊の集団がたった一人の手によって全滅に追い込まれ、後からそれを調査しにいった騎士たちも惨殺された事件だということ。
クロウ、という名前は、惨殺された騎士の内の一人が鑑定の結果を紙に写している時に殺され、その紙が発見されることによって、人々にクロウの名が知られたこと。
その頃から、主に悪人を対象に殺しをした。
クロウが殺すのは次の三つの条件に当てはまる人だ。
1 盗賊や殺人者といった犯罪者
2 クロウと戦った者
3 クロウの情報を本人から知りすぎてしまった人
主に騎士は2、に当てはまり、俺は3、に当てはまる。
これを話すとき、アーレンさんは明らかな嫌悪を示していた。
基本的に狙うのは悪人というのが気に入らないのだろう。
クロウが殺す相手を選んでいたとは意外だった。
夜○月みたいな思想なのだろうか。
新世界の神を目指してるとか‥
なんとなく無さそうだ。
クロウによる被害は世界中で確認され、ここ二年ほどはこのシド王国で被害が出ている。
一年前に、クロウの討伐隊が組まれ、四人の中級騎士向かったが全滅。
「それに奴は『禁断魔法』を二つも所持している。つまり、Bランク以上の迷宮を二つ踏破しているということがわかる」
‥‥‥迷宮‥?
「‥世界にはね、お宝とかが眠っている迷宮っていう場所があるんだよ」
きょとんとしていたらリリがひっそりと教えてくれた。
宝が眠っているのか、恐らく俺のイメージで間違っていることはないだろう。
「あとは、なんとも言えないな」
「そうですか‥」
「700年も空白の時間がある。
何をしていたか考えることもできるが、あまりに長すぎる。
考えても仕方ないだろう。」
「これからクロウと戦うために、奴のもつもう1つの『禁断魔法』についても考えるべきじゃないですかー?せっかくシン君たちがいることだし」
新たな提案をしたのはフェイだ。
なんだろう‥緊張感がない。
「そうだな。悪いけれど、もう少し付き合って欲しい」
「いえ、問題はありません」
シンさんは極めて真剣だ。
この場では言ってはいないが、彼も打倒クロウを思う一人なのだ。
「戦闘中に、何か気づいたこととか、思い出せたりするかな?」
「‥うーーん」
リリが思考モードに入った。
彼女は対クロウ戦では最後に参戦したが、後衛として一番離れた位置で戦っていた。
何か気づくなら遠くから観察していたリリか、剣を合わせたシンさんだ。
俺は‥‥‥いや、俺も考えよう。
「いや、終始、姉さんの魂を奪った時を除いて、気づくようなことは無かった」
「本当か?もっとよく思い出してみてくれ」
確か‥‥クロウは、
シンさんと斬り合って、俺がナイフを止めて、リリが遠くから魔弾を‥
「一貫して、クロウに大きな変化は無かったと思います」
俺がそう答えると、アーレンは「そうか」と返した。
「そうだな。今日は、いや、このくらいにしておこう。
君らはどうするんだ?ガルド市に帰るか?
帰るにしても、王都にいるにしても、必要な文の資金は出そう」
「いえ、お金は要りません。
しばらくは王都にいようと思います。数日後の騎士・Sランク冒険者試験を受けようと思っています」
「おぉ、そうか。その試験には当家の者‥いや、私の従兄弟に当たる者も受けるのだ。そこで、また再開できるだろう」
「因みに、僕が試験を取り仕切りますよ~」
アーレンさんとフェイさんは嬉しそうにそう答えた。
何かあれば、そこで情報交換でもなんでもできるだろう。
「とにかく、これで打倒殺戮者に近づいたのは間違いない。情報の提供と話し合いの参加に、感謝する」
こうして、ライトレア家での話し合いは終わった。
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「もう夜だね。お疲れ様」
俺たちは、合流したユウと夜の王都を歩いていた。
彼は今までジュリアスとずっと剣の稽古をしていたのだという。
「‥お腹空いた‥‥‥」
「そうだな。ご飯食べなきゃな」
リリとそんな会話をして歩いているが、シンさんはずっと無言のままだ。
「ユウ」
シンに名前を呼ばれて、ユウがシンの方を向く。
「私は、もっと強くならないといけない。これから毎日、一緒に稽古をしないか?また、あのときみたいに」
「もちろんだよ!ボクでよければ。
またシンとかぁ、楽しみだなぁ‥」
ユウが笑みを浮かべながらそう言った。
「ねぇねぇ、みんな宿はとってるの?」
「あぁ、うん。とってるよ」
「今日からうちに住みなよ!?」
「えっ‥」
なんだか、こういうところは、全く日本とはかけ離れているんだな。
住まいって、なんか、こう‥
「ありがとう、今日から世話になるな」
「ユウと一緒なんて久しぶり‥」
「おー!みんなで一緒に住めるように家を大きく建てたんだよ!良かったぁ!」
って、二人はほとんど無遠慮だった。
すごくいい人で遠慮してしまいそうなところだけれど、ユウとはその辺は気にしない仲なのだろう。
「ユウ、ありがとう」
「じゃあ、荷物まとめてうちにおいで!」
こうして、王都での二日間が終わった。




