第28話「ライトレア家」
ライトレア‥中級貴族ライトレア家。
思い出した。
どこかで聞いたことがあると思ったら、国立ライトレア魔法学園、そこのカタカナの文字がそれだったな、と思う。
中級貴族と聞いて、上級貴族の下なら何も問題ないかな、と思ったが、国一番の学校に名前が入っているとなると、結構な大貴族に思える。
いや、おそらくそうなのだろう。
貴族と聞くと、権力者のイメージが浮かぶ。
権力‥‥
その力は刃となって俺を脅かすのだろうか。
そんな気がするから、『権力』という言葉は嫌いだ。
おっかない。
※※※※※※※※※※※※※※
開けられたドアの向こうには、恐らく応接室と呼ばれるであろう部屋。
その奥の椅子に座るのは、中級貴族ライトレア家当主、アーレン・ライトレア。
「お入りください」
左右に構えるメイドに促され、部屋に入る。
「ただいま、フェイ様を呼んで参ります」
ん?フェイ様?
話の重要人物だろうか。
「早く座ると良い。話を始めよう。
それと…君はこの前の護衛の人だね。
また当家の者が世話になったようだ。礼を言おう。」
「あ、ありがとうございますっ!! あっ…でもあれは…」
アーレンの言葉にユウが同じく感謝の言葉で返すが、その後に続く言葉を飲み込んだ。
ユウはスケルトンの襲撃をひとりで切り抜けることは不可能であった。
故に素直に喜ぶべきなのかの判断に困る。
「ジュリアスがまた君に会いたいと言っている。そのうち来るだろう。待っているといい。」
「それでは」と言葉を更に続ける。
「話を聞かせて貰おう。無論、殺戮者クロウのことをな。」
アーレンの表情が一瞬にして真剣になったとき、ジュンの頭に電流のようなものが走った。
目を見開くが、この感覚には覚えがある。
カリスマ性だ。
人をまとめ上げるときの京介のものと似ている。
スイッチを切り替えるように、オーラを出すようにカリスマ姓をコントロールするとか、本当に只者じゃない人だ。
ま、京介もそんな感じだったけど。
「私がいないのに先に始めてしまうとは、少し酷いんじゃないですか?」
そのとき、ジュンの意識外から声がした。
「うぉっ!」
慌てて振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。
アーレン様(?)と同じ金髪で白くてカッコいい制服を着ている。
‥‥‥イケメンだ。
…じゃなくて、この人いつからいた!?
「やぁ、シン君、よく来てくれたね。それと話に聞く兄弟の人と…あれ、この前の護衛の人じゃないか」
「フェイさん、どうも」
「あぁ、僕はフェイ・ライトレア、騎士だよ。」
どうやらシンさんとは知り合いのようだ。
しかし、ユウを除く三人はこの人がどこから登場したのかが不明であるため、少し戸惑う。
「だ…団長さん!!」
また次にこの中に飛び込んできたのは、一人の少年だ。
ライトレア家はみんなこうなのかと思わせる金髪の、10歳に満たない幼い少年だった。
少年は走って部屋に入ってきて、ユウの前でぴたりと止まった。
「あ、ジュリアス坊っちゃん」
団長…は、ユウのことなのか。
まだリリと同じ歳と聞いていたけれど、護衛団の中ではめっちゃ出世してるんだな。
「良かった!また会えた!」
さっきアーレンさんの話に出てきたジュリアスは、ユウに会えてとても嬉しそうだ。
「団長さん!剣の稽古つけて下さい!!」
「ええっ、ボク?今?」
「はい!!」
ユウは一瞬困った顔をしつつも、周りを見てから
「あの…ボク、話に入ってもあんまり分からないし…ごめんだけど…」
「行ってくると良い。ジュリアス、失礼の無いようにな。」
「や、やったー!団長さん行こう!」
アーレンに促され、ユウとジュリアスが部屋を立ち去る。
なるほど、人は幼くして命を助けられると助けた相手に対してあぁなるのか。
「さて…」と再びアーレンが前置きをし、
「これから話すことは、かの殺戮者を殺し、世界の驚異が一つ消えることに繋がる。どんなことでもいい。奴のことを教えてくれ。」
「打倒クロウは我ら騎士の悲願でもある。シン君の姉様の仇も、必ず。」
フェイの言葉に、シンはぴくりと表情を歪めた。
「当家の方で、ある程度情報はまとめてある。一から十まで全て話す必要はない。
しかし、謎が多すぎるもので、それは本人たちにしかわからないこともあるだろう。
ここは、こちらの質問に答えて欲しい。」
「‥‥‥」
ここで、ふと、思ったことがある。
クロウは、何故殺しをするのか。
それを、疑問に思った。
裏路地でのこと、宿屋でのこと。
何か、何かが引っ掛かる。
『――――見事だった。』
そう、戦いが終わったときのクロウが頭に浮かんだ。
あれは、裏路地のスキンヘッドとは違う、戦士の顔だ。
吸血鬼、殺戮、魂‥‥‥。
クロウに関するワードが頭の中をぐるぐると回る。
ダメだ、わからない。
「まず、ジュン、といったか。奴の鑑定結果が『半吸血鬼』であったことは、間違いないのか?」
思考に浸っていたら、こちらに問いかけが飛んできた。
『半吸血鬼』?そうだ。
クロウは人間と吸血鬼のハーフだったな。
「間違いないです。確かに、『半吸血鬼』と」
鑑定は日本語表示だったから見間違えるはずもない。
「そうか…実はな、吸血鬼という種族は今から約800年前に滅びた種族なのだ。
つまり、クロウは少なくとも世界大戦の頃からこの世界に生きている。」
「なっ…」
俺から言わせてもらえば、800年生きている、だから何だ、という感じなのだが、周囲の反応は大きい。
「これだけ生きているのなら、色々なことに説明がつく。
不可解なのは、クロウの名が出てきたのは、ここ70年のことなのだ。」
「これなら、規格外のLVも納得できる。」
確か、あれだけのスケルトンを倒しても、俺のLVは30程度だ。
90を超えるのにどれだけ時間がかかるか…
「まず、奴の持っている『禁断魔法』の一つは、君らの姉が受けた魂を奪い取る術という認識でいいな?」
「あぁ」
なるほど。
禁断魔法、怖いな。
っていうか、リリは話についていけているのか‥‥?
「『禁断魔法』は発動に何らかの代償が伴う。
シン。君にしかわからないことだ。使う前と使ったら後、奴に何か違った点はあったか?」
シンさんが考える体勢に入った。
確かにこれは、途中から参戦した俺やリリにはわからない。
「――――――!!」
シンの目が見開かれる。
「何か、心当たりがあるようだな。」
アーレンが問いかけるも、シンからの反応はない。
シンの顔に浮かぶのは、戦慄だ。
ジュンにはわからない。
そう。
それを使う前のクロウは、シンを圧倒していた。
クレアがやられてからは、全力を振るったが、善戦できたのは、本気を出したからではなくて――――
「あいつは、私を全く相手にしていなかった‥‥。それを使った後で変わるとしたら、その『代償』は…能力に何らかの制限がつく…?」
シンは、幾白もの騎士が何度もぶち当たり死んでいった壁。
殺戮者クロウという『悪』の本当の驚異を、シンは思い知った。




