第24話「前を向いて、次へ」
もぐもぐ‥
皿の上にある料理を口に運ぶ。
もぐもぐもぐ。
おいしい。
流石この国の王都なだけあって、料理がなんだかお洒落なお皿に盛られている。
うん。おいしい。
けど、ここにいる三人の気分は晴れない。
シンさんが「三人とも朝食がまだなようだし」と朝食を注文してくれたのは良いが、やはり会話が本題を避けている気がする。
今していた会話の内容は、シンさんの魔剣を売ったらどうなったか、という話題がちょうど終わったところ。
シンさんはその金額に驚きこそしたが、取り乱さない辺りリリの兄といったところだろうか。
「―――――――――――――」
そう。
本題は避けられている。
無論、意図的に、だ。
この話の主導権はシンにある。
シンが唯一クレアの状態を知っており、これを二人に伝えねばならない。
こうもクレアさんの話を先に送り続けているとなると、どんどんその内容が悪いものなのではないかと思えてくる。
少なくとも、クレアさんはここには来ていない。
不安が大きくなる。
この場に嫌な沈黙は起こらなかった。
それも、全てシンの手によって。
やはり、シンさんはこの場の空気が壊れないようにしている。
やはり彼は努力をするのだ。
きっと、いつもみたいに、全部上手くいくように。
そんなときだ。
今までやや口数の少なかったリリが、力のこもった声で言った。
「兄さん、姉ちゃんは‥どうなったの?‥聞かせて?」
「―――――――――そうか」
一瞬だけ、シンは目を伏せ、その後にリリ、そしてジュンの目を見た。
「姉さんは‥‥今は、封印されている。」
シンの口から発せられた言葉は、ほんの一瞬、二人から言葉を奪った。
「――――え?‥‥‥」
封印?
誰かが戸惑いの声をあげる。
そしてその声が自分のものだと気づかされる。
リリがギュっと拳を握り締めるのがわかった。
「大丈夫だ。姉さんは死んじゃいない。
封印魔法のLV5、別空間で封印するだけでなく、対象の時間も止める、と言っていた。」
封印魔法‥‥‥
別空間?
「‥それじゃあ‥」
「しばらくは‥姉さんとは、会えない‥」
リリの不完全な問い掛けに、シンが答える。
その顔に、悲痛さは感じられない。
きっとそこにあるのは、覚悟と、希望だ。
リリは拳を握り締め、震えていた。
「なん‥で‥っ‥」
それ以上は、言わなかった。
下唇を噛み、出てくる言葉を押し殺したように思えた。
きっと兄は、その現実に向き合い、答えを出しているのだと、自分もそれに続かなければ、と。
彼女は、とても強かったのだ。
「リリ‥」
今、リリに言葉をかけるのは、すごく不粋だと思った。
俺自身、クレアさんがこんなことになってしまったのは、すごく心が痛い。
仕方のない話、ではないと思うが、自分の中で、この出来事をどう捉えて、どう向き合っていくかも確定しているわけでもない。
その場に流されているのだ。
こうやって。
だからこそ、全力を尽くそう。
それが、ジュンの覚悟でもあった。
一方でリリも顔を上げ、シン、次にジュンを見た。
その時のリリの目は、さっき見たものとは明らかに違う。
「‥また‥会える、よね‥?」
「絶対に会える」
震える声の問いかけに、シンは即答した。
根拠がある、ない、なんて気にならなかった。
かっこいい。
流石、シンさんだ。
「姉さんのことは‥‥―――」
シンさんは、クレアさんのことを全て話してくれた。
まず、ここ――王都の治療術師でも、クレアを治すことは無理なこと。
ほぼ間違いなく、彼女からは魂が抜け落ちていること。
このままでは彼女の体が朽ちてしまうので、封印魔法を用いて延命をすること。
封印は、10年くらいなら延命できること。
そして、魂は、恐らくクロウが所持していること。
話が終わり、最後にシンさんが言った。
「私は、Sランク冒険者になり、クロウを追っていこうと思う。」
Sランク冒険者―――一言で言うと、国に認められた冒険者のことだ。Aランクまでの冒険者とは違い、信用の元に重要度の高い仕事をすることができる。
若干騎士に寄っているところがあり、きっとクロウも仕事として相手をできるのだろう。
「ん‥‥いいと思う‥」
「もちろん応援します!」
「そうか、良かった。」
シンは二人の賛成に短く答えて、更に短く前置きをして続けた。
「実は明日、午後から‥ライトレア家という貴族の家に呼ばれているんだ。間違いなく、あの時の話をしろ、ということだと思う。
気が進まないかもしれないが、二人もついてきて欲しい。」
「はい、わかりました」
俺は了解を示す。リリも「うん」と言って頷いた。
うわあ、ついに来たか‥‥‥
貴族!!
貴族と聞くと、庶民から税金とって、美味しいものを食べて、小太りしてて、なんかあったらとりあえずキレる‥みたいな。
そんなイメージを持ってたりする。
うおわぁ‥もしや、めんどくさいやつか?
内容が内容だからなあ‥‥‥
うーむ、ライトレア家‥どっかで聞いたことがある気がする。
「しばらくは王都に滞在することになるが、‥家でも買うか‥?」
「え、家?」
シンさんがここでなかなかの爆弾発言をした。
その言葉にリリが真剣な顔をして考える。
確かに、家なんて多分町レベルで建てられるであろう金はある。
シンさんの魔剣を売ったときのお金だ。
しかし、そういうものなのだろうか。
「うーむ、宿屋暮しは‥避けたい‥」
リリが言った。
あ、何となく、わかった。
クレアさんを含む三兄弟は、すごく衣食住への意識が高いのだ。
端から見れば、あまり贅沢もせず、物欲があるわけでもなく、向上心たっぷりで生活をしている。
恐らくそれは、衣食住へのこだわりによって成されているのかもしれない。
クレアさんに、シンさん、リリの着ている服は、他の庶民に比べればいいものだ。
宿屋を経営し、それぞれに落ち着く空間を持っており、リラックスできる時間もあった。
それに、毎日食べるクレアさんの料理はかなり美味しかった。
なるほど。納得だ。
秘訣は衣食住にあり。と。
「そういえば、リリ」
「‥ん? あ、そうだ!」
何かを思い出したようだが、俺にはわからない。
二人の目がとても輝いている。
心なしか、すごくわくわくしているように見える。
「今日は、自由な時間にして、それぞれの疲れを癒そう。二人とも、疲れたろう。私も疲れてしまった。」
「賛成です!」
「賛成」
そうだな。ゆっくりしたい。
今まですごくハードだった。馬車の中でとった睡眠も、スケルトン騒動の疲れで相殺されたようなものだ。
落ち着くと体がだるい。
シンさんだって大変だったと思うし、リリも馬車で体力を奪われただろう。
「明日から、活動開始だ。私のSランク冒険者試験は、騎士試験と一緒に行われる。2週間と少し、すぐそこだ。」
そのタイミングで、リリが荷物から一枚の紙切れを取り出した。
「明日は、ある人に会いに行こう。」
と、シンは笑顔で言った。




