第22話「はじめてのむそう」
死ななかった。
ユニークスキル『不屈』は機能したみたいだ。
そして一瞬遅れて身体能力が強化されたのがわかった。
脳が焼き切れるような痛みも今はない。
「まず‥‥‥」
小さく呟き、自分を落ち着かせる。
前回、つまり最初に発動したときは、なんとなく力加減ができていたと思う。
しかし、その感覚を覚えているわけでもないし、逆に全力を振るったらどうなるかも分かっていない。
でも言えることは、『死力の解放』により、俺の攻撃力は3万を超えている。
慎重に動かねば。
右腕、そしてその指先までに力を込め、空気を切るように振るう。
剣は使わない。
ほんの少し前、自分で開いた喉の傷を癒すために、治癒の魔剣の能力を使ったが、魔剣がその魔力の奔流に耐えられなかったか、塵となって崩壊し、ジュンの手から失われた。
故に防御の魔剣は抜くことはない。
「―――――――あ」
もし、普通の人間がいきなり自分の能力が100倍になったら、それを制御できるだろうか、
答えは否である。
宙を切る手は、ジュンが思い描くものよりも数段速く、そこを中心に狭い範囲で、しかし強烈な爆風をその場にもたらした。
攻撃の対象であったスケルトンの残党―――ついさっきまで自分と戦っていた魔物が木っ端のように吹き飛ぶ。
(あっぶねぇ~‥‥‥)
もし攻撃の対象があのスケルトンの大軍であったなら、俺はもっと強い攻撃を放っただろう。
敵は殲滅したけど馬車は吹っ飛んでましたーとかなったら嫌だもんな。
あぶないあぶない。
(物理攻撃は怖いし、魔法でいくか)
「魔の力の―ッ」
俺が魔弾の詠唱を始めた瞬間、全身のエネルギーの流れをはっきりと感じた。そしてそれを制御し、使うことも出来るだろうという直感。
「魔弾―――――――!!」
詠唱を端折り、魔力の感覚を操作してそれだけで魔弾の発動を実現させる。
(でかっ!)
出現した魔弾はいつもの手のひらサイズのものとは比べ物にならない―――直径1メートルはあるであろう巨大な弾丸。
あっ、やべぇ、どうしよう。
もしこんな物をぶっぱなしたら、どうなるか分からない。
もしかしたら弾が通った道の地面が抉れるとかそういうパターンだよね!?
撃ったらだめだー!!
しかしジュンの魔法力は攻撃力と同様に3万超えだ。自身の魔力を粘土をこねるよりも容易く操ることができる。
この破壊兵器の扱うことだって難しいことではない。
1メートル級のものを通常サイズの魔弾に分解する。はじけるようにしてそれはは大量の魔弾に分割された。
100、いや200を超える魔弾がジュンの周りで開放の時を待っている。
「はぁ!」
一斉に発射された魔弾は、1発1発は骸骨に傷をつけるだけに留まるが、それが重なり、次々に着弾。
大軍のの表面に位置するスケルトンを削りきった。
「―――――――――!!!」
護衛の人たちのものであろう、声が聞こえた。
〈経験値が一定に達しました。7LVから8LVになりました。〉
〈経験値が一定に達しました。8LVから‥〉
俺の頭の中はシステムボイスによって支配され、魔弾の着弾した後の音も合間って、その護衛たちの声は届かなかった。
そっか、俺が戦うだけで危険に晒される可能性があるのか。
身の危険を感じてるんだな。スケルトンのときより‥‥‥
「土壁」
俺は土魔法、土壁を詠唱。地面から土の壁がせり出す魔法だ。
リリに教えてもらったとはいえ、あまり得意ではなく、踏み台程度の壁ができる程度だったが、今はそうではない。
魔力を操作し、馬車を中心としたドーム状の壁をつくる。
ズゴゴゴ‥という音とともに壁が地面から出現する。
自分でもびっくりの魔法使いぶりだわ。
ドームが完成する直前、あの少年がドームの外に飛び出してきた。何か言っているが、なんかスキルがどうとかで聞こえない。
まぁ、彼なら大丈夫か。
よし、いっちょ暴れますか。
踏み込みをきめ、ほぼコンマのレベルでスケルトンまでの距離を詰める。
「ウィンドカッター」
そして高い、高すぎる魔法力を活かした魔法攻撃。
それは風の基礎魔法であるウィンドとなんら変わらない力しか引き出せないジュンのウィンドカッターの威力を爆発的に高めた。
吹き荒れる風は集り刃となり、不可視の刃が魔力によって振るわれる先でスケルトンが両断される。
その風による魔物の蹂躙は驚くほど速く、鮮やかで、人智を超えたものを感じさせる。
ものの一瞬で、ジュンの魔法の効果範囲からスケルトンは消え、大量の骸骨が地面を埋め尽くした。
「やっべ、強い」
その魔法を使った本人すら、己の強すぎる力を理解していない。ステータス100倍、その力は見る者全てを驚愕させる力を発揮する。
足でスケルトンを凪ぎ払う。
普段はやらない動きだが、この際どうでもいい。
俺が見たいのは威力、そして結果だ。
直接当たった骸骨はその部分が消し飛び、その後方の何体かが吹き飛んだ。
ん?もしかして動き方次第で風を起こさず動けるのか?
上がった疑問を解明する、難しいことではない。戦いの中で試せばいい。
拳に蹴り、単に腕を振るうだけ。
一度の攻撃ごとにスケルトンがごっそりと減っていき、最後―――風を抑えた動きができる頃には最後の1体が倒れた。
終わった。
「はぁ‥終わった‥‥‥」
思ってみればあっという間、というか、死力の開放の効果時間は1分間だけ、その間に終わったのだ。
レベルアップやスキルの通告が終わるとほぼ同じタイミングで体がずっしりと重くなる。
いや、これが元々の重さだ。
1分間のステータス100倍は俺の感覚を狂わせたかもしれない。
「あーー‥‥‥」
ユニークスキル使っちゃったよ‥
使わないのが目標ではあったが、使ったからこその収穫も多い。
とりあえずはすごいものを見られたから、なんだか護衛の人たちと絡むと面倒なことになりかねない。
ここを立ち去ろう。
「ねぇ!!?」
あ、しまった。
「ねぇってば‥‥‥」
話しかけてきたのはあの少年だ。灰色の髪に、伸びた前髪が左目にかかっている。左目は閉じられているが、何かしら事情があるんだろう。
「あ、土壁ならちゃんと霧散させるので問題ないですよ。じゃあ俺は失礼‥‥‥」
「ねぇ?キミ何者??」
軽く言って帰ろうと思ったが、こっちの話を聞いてはくれないみたいだ。
「いやぁ、名乗る程の者じゃないですよ」
「いやいや!さっきのあれ!あんなの初めて見たよ!?」
「‥‥‥‥‥」
まずい。言葉が見つからない。
「もしかして、世界の柱の五柱の人?」
‥‥‥んえ?‥‥‥???
「だって、五柱の能力は超パワーなんでしょ?」
‥‥‥‥‥‥。
なるほど、昨日アレスさんに聞いた世界の柱の話か。世界を守ってる人なんだっけか。
でも五柱の能力は超パワーなのか。
なるほどさっきの力と同等か。
チートじゃねぇかよ流石だな。
「‥もしくはその弟子‥とか?ね?そうでしょ?」
少年は唯一開かれた右目を輝かせて言っている。
あ、これ、個人的なやつなのかな?
忘れてると思うけど俺けっこうスケルトンとギリギリの勝負してたんだけどなぁ‥‥‥
しかし、違うと言えばそれこそ面倒なことになる。
「ノーコメントってことにしときます」
「えぇ、でもちょっ‥待っ!」
それだけ言って去ることにした。
追ってくると思ってたが、そんなことはなかった。
遠隔で土壁の魔法を崩し、馬車を守っていた壁が魔力となって大気に消える。
さて、すごい人助けもしたし、町に帰ろう。




