第18話「カコ市とその外れ」
目が覚めたとき、ジュンは車やバス、電車で目覚めたときのような目覚めの良さを全身で感じていた。
―――明るい。
まだ早い時間みたいだ。朝日が窓から射し込んでいる。
「――――――――」
ジュンはかすかに重い体を起こす。
周囲を見渡して状況を確認。
リリはまだ寝ているみたいだ。
窓の外で、アレスさんがこっちに気がつき、小窓を開けた。
「ジュンさん、おはようございます」
「アレスさんも、おはようございます‥‥それと‥お疲れ様です‥‥‥」
アレスの顔は見たまま疲れきっており、目の下にはくっきりと隈ができていた。
確かに、一晩とはいえあのスピードを制御するのは精神がもたないだろう。疲れて当然だ。
「ははは、大丈夫ですよ。もうすぐ町に着きますので。」
「え?町?」
ベッドから起き、窓の外を見る。遠方に小さな建物の集まり―――町が見えた。
ガルド市に比べると小さい。小規模な町なのだろう。
「はい。文化の町、カコ市ですよ!」
遠方に小さく、と言っても、馬車のこのスピードではすぐに辿り着くであろう。アレスさんと話をするが、疲れているのはアレスさんであって、馬は疲れを感じさせない走りを見せていた。
「あ、そろそろ着くので‥あー‥‥リリさんは着いてから起こすで大丈夫です。」
と、言いアレスさんが手綱を操作する。
「それと、カコ市では自由行動で構いませんので‥僕は寝ます‥」
街が近付くにつれて馬車が減速してきた。ゆっくりになってきたので、リリを起こす。
「ん‥‥?あ、ジュン君‥おはよう‥」
リリが体を起こし、むにゃむにゃとばかりに目をこする。
彼女とは1カ月弱ほど一緒に暮らしていたが、寝起きを見るのは初めてである。
やばい。かわいい。死ぬ。
「んん~‥ゆっくりになってるね‥」
悶えるジュンを尻目にリリが伸びをし、現在の状況を確認する。
既に街がすぐそこまで迫り、馬車は門をくぐろうとしていた。
「あ、リリさん、おはようございます。あの、これから検問なんですけど、普通にしててくれれば大丈夫です!」
リリが起きたのに気付いたアレスさんがリリに話しかけた。リリもアレスのひどい疲れ顔に驚いたが、「おはよう‥ございます‥」といつもの調子で返した。
当然だが、馬車が市内に入るのには検問をくぐり抜けなければならない。検問をするのは防犯上の理由からだ。
少し分かりにくい話なのだが、検問を行うのは馬車の通行のみで、人の出入りはほとんど自由だ。
何でも、犯罪をした人に「負の称号」というものが付くらしい。「殺人者」や「盗人」というようなものだ。
これらは、鑑定で一発で分かるらしい。更に、普通なら名前を見るのが限界の最低純度の鑑定魔石や鑑定スキルのレベル1でもくっきりと「負の称号」は表示されるらしい。
よって人だけに対する警戒よりも、入ってくる物資に重点を置きましょうってことらしい。
「馬車の積み荷は何だ?確認したら通らせてやる」
門にいる衛兵はなんだか微妙に喧嘩腰というか、多分イライラしてんだなって思えた。
「あっ、はい。どもども、積み荷は大事なお客様ですよ~。
なんせこのシド中央商会第八柱のアレス・ユーロが‥‥‥」
アレスさんがわざとらしく名乗った瞬間、衛兵の態度が一変、アレスさんにペコペコ頭を下げ、荷物の確認をスルーして街に入ることができた。
アレスさんは強キャラだった‥‥。
程なくして馬車は宿屋に到着する。ガルド市で過ごしたのと同じ、木造2階建ての宿だ。
「あ、お部屋はとってあります。お休みのときは201と202を使ってください。‥‥‥それじゃ‥僕は寝ます‥」
と、言ってアレスさんはフラフラと部屋のある二階へと上がっていった。
「‥‥‥‥‥‥」
そこに2人が取り残された。
「‥‥リリ、今日どうする?」
俺は別に何をしようとも思わない。気楽な旅に思えても事の裏ではクレアさんは意識不明なのだ。
いくら不動心のリリとはいえ、対クロウ戦では怒りを露にしていた。この状況で観光する気にはなれないだろう。
「‥‥‥‥‥‥うー‥ん‥」
リリは難しい顔をして考えている。
今、リリが傷付いているのなら、俺は力になってあげたい。
「リリに行きたいところがあれば、一緒に行こう」
リリを頼む、とシンさんに言われたのだ。絶対に、リリの力になってみせる!
と、いうジュンの決心は
「‥お風呂‥入りたい‥‥‥」
予想外のリリの発言により効力を失った。
この世界にも、風呂という文化と習慣はある。しかし、そこまで頻繁に入るものではなく、入る派、入らない派、のように分かれる。
この世界にも、銭湯という施設はある。しかし、日本のようではなく、1つの銭湯に男湯と女湯があるわけではないのだ。
男湯オンリーの銭湯、女湯オンリーの銭湯、混浴オンリーの銭湯に分かれるのだ。少ないプライベートを守る‥とかいうのかな‥?
よって、リリについて行くことなど出来るわけもない。
そして、ジュンはなんとなく、そう、なんとなく歩き、街の外れまでやってきた。
これはもはや習慣や癖に近い。魔法の練習として、ほとんど毎日ガルド市の外れに行っていた。魔弾や魔盾といった基本的な魔法はそれにより上達したと言っていい。
「‥‥‥ほう‥」
カコ市の外れ、というよりも街の外だ。それは彼が今まで見てきたガルド市のものとは雰囲気が違った。
ガルド市の方では岩が多く点在しており、よく魔弾の的になっていた。しかし、カコ市ではそれは無く、広大な草原が広がっている。
「‥‥平和だな‥」
心地よい風が吹き、草がさらさらという音を立てる。
絶景‥という訳ではないが、いい景色だ。
「さて‥」
やるべきことをやろう。これからも、世界を生き抜く強さを身につけるために。
「って‥」
ジュンは腰の剣のうちの一振りを抜き、ゆっくりと、その刃で左腕をなぞる。
きれいな一直線状に皮膚が切れ、針を刺したような鋭い痛みとともに、一筋に血が流れた。
ジュンは痛みに悦びを感じるような趣味ではない。ちゃんとこの自傷には意味があるのだ。
数秒前に己を傷つけた―――治癒の魔剣に魔力を込める。
「お、けっこう治るの早いな。」
彼の左腕からは傷が消え、痛みも無くなった。
流石シンさんの魔剣といったところだろうか。優秀だ。
戦いながら傷の治療ができるのは大きい。
「さって、検証も済んだことだし、いつものいくかー!」
ここでいう「いつもの」は、魔弾の練習だ。
魔弾は攻撃魔法の基礎にして、極めればリリのように使うことができる。汎用性も高い。
「‥魔弾!」
まず、俺には基本属性の適性がない。しかし、無属性はそこそこあると言っていいそうだ。適性がないので、無詠唱で使うことはできない。
しかし、ある程度なら努力次第でいけるってのが俺の勝手な見解だ。
俺の現在のステータスはこんな感じだ。
《人間 名前 ジュン LV 7
ステータス
HP:185/185
MP:182/185
攻撃力:335
防御力:335
魔法力:335
魔法抵抗力:235
スキル
「剛力LV3」「堅牢LV3」「魔力LV3」「魔耐性LV1」「月魔法適性LV1」「痛覚軽減LV1」「自己鑑定」「ユニークスキル」
称号
「異界からの来訪者」》
転移してきた時に比べるとかなりステータスが上がった。
一般的なDランク、Cランク冒険者といったレベルだ。シンさんはCランクだが、Bランク以上の依頼をやらないので上がっていないだけらしい。
―――ん?なんじゃありゃ?
魔弾には魔力のコントロール次第で威力、弾速、射程を変えることができる。カッコいいので狙撃の練習をしていたら、奇妙なものを目撃してしまった。
止まっている馬車の周りで‥‥何か踊ってる‥‥‥。
「‥‥‥?」
明らかに人っぽい数人が馬車を中心とする輪の内側におり、それを取り囲むように白い集団が踊る。
‥‥かなり遠くなので良く見えない。
何の儀式だろうか?
「――――!?」
白い人が内側の人に近付く。すると、近付かれた人から血飛沫が上がった。
―――――違う。これ、襲撃だ!!
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