第15話「魔剣と思い出」
頑張って更新してますよー!
旅立ちはその日に。
いろいろな事情が重なり、決まった王都への旅の計画はこうだ。
クレアを乗せた竜車にシンが乗り、後から向かう馬車にリリとジュンが乗り、別々に王都に向かう。
まず、クレアの状態を考え、逸早く治癒術師のところへ送った方がいいと考え、竜車で先に王都に送り、シン、リリ、ジュンの3人はその後に出発する馬車で王都に向かう。
しかし、シンがそこで竜車に乗ることを強く希望し、現在の計画になった。
「リリ、ジュン君、悪いが私は先に行く。荷物を準備してから後から来てくれ。それと、工房の剣は売ってしまっても構わないし、欲しければ自分の物にしていい。最後に地下室を塞いでおいてくれ。」
シンさんはそう言い、続けて俺たち2人に別れを告げた。
シンさんのカバンからは剣の鞘が2本とびだしている。
「兄さん‥後から行くから、お姉ちゃんを‥お願い‥」
リリが言う。2人は姉の状態を知らされて尚、目から希望が消えることは無かった。
王都に行けば姉は助かる、そんな希望からなのかなど、ジュンにはそれがわからなかった。
「ジュン君、リリを頼む」
「は、はい!任せてください!」
シンさんの言葉は強く、俺を奮い立たせるようだ。限界突破の戦いの後の徹夜だ。普通なら限界がくる。
でも頑張れそうだ。
こうして、シンは先にガルド市を去った。
「リリ、早いとこ準備しようか」
「‥そうだね」
リリの目はいつもにも増して眠そうで、薄桃色の髪にも埃がついている。
「疲れたなら、休んでていいよ?」
「ううん、大丈夫‥ありがとうね‥ジュン‥君‥‥‥」
リリはこう見えてなかなかタフだと思う。まぁ、クレアさんとシンさんの妹だと思えば当然な気がするが、きっと俺以上に心が強いんだろう。
ボロボロになった宿の2階部分から荷物を持ち出す。埃だらけになってはいたが、日本での思い出の品であるスマホにカバン、高校の制服は無事だった。
「なんだか高校に行ってた頃が遠い昔のようだなぁ」
俺も普通の高校生だったな。そう、普通のだ。
朝起こされて学校に行き、ダルがりながら授業を受け、飯を食い、友達と遊び、帰ってケータイ弄って、ちょっと夜更ししてから寝るような生活だ。
「ケータイは‥あ、昨日死んだんだった。」
黒い画面に貼り付く埃を布で拭き取る。この画面に光が戻ることがあるのか疑問だ。もう一回思い出の写真を見たいなぁ。
「来て1週間ぐらいからホームシック‥いや、ジャパンシック‥?ん?地球シック‥気味だったしなぁ」
でも適応したし、こっちも楽しいし、頼れる人もいる。今は大変だけど、前の世界よりも明らかに頑張れている。
制服もケータイも、カロリー⚪イトの空箱ですら、全て残さず持っていく。
酒場や冒険者での稼ぎで3人には結構な貯金があったみたいだ。
俺は家賃分はクレアさんを手伝っていたと思うし、今の所持金でやっていけるから、そのお金にお世話になることは‥多分、ない‥と思う。
「おわ、すげぇ‥」
降り下ろされるその剣からは刃の描く弧をなぞるように水流が出現する。
また別の一振りは、刀身の周りに風が吹き荒れる。
今はリリと2人でシンさんの魔剣を物色しつつ、これらをどうするか考え中だ。
どれもすごいと思うが、荷物にもなるし、俺には既にシンさんの作ってくれた防御の魔剣がある。
「もらってもいいかぁ‥あんまり欲張り過ぎるのも良くないよなぁ。」
もらって一本‥‥?二刀流?
予備の剣として持っとくか?うーーむ‥邪魔かなぁ‥‥‥
「やあ!はあっ!おら!!」
攻撃力の上がる魔剣を振ってみるも、そこまでしっくりこない。何故だか防御の魔剣の方が圧倒的な使いやすさがある。
疑問に思っていたら、リリが説明してくれた。
「あのね‥ジュン君、兄さんの魔剣はね、普通の魔剣とは違うんだよ‥」
「と‥‥いうと?」
「普通の魔剣は、鋼に魔力を染みつかせて作るんだけど‥兄さんのスキルで作る魔剣の素材って何だかわかる?」
確かシンさんは何もないところから魔剣を作っていた。
「えーっと‥シンさんのMP?」
「そう‥魔力だけで作られた魔剣なの。それに、使い手の魔力を注ぎ込んで‥魔剣の力を使うと、その使い手の魔力が少しずつ染み込んで、そのうち体の一部みたいに使えるようになる‥‥‥らしい‥」
「体の一部‥」
剣に魔力を込めるのは意識しないと難しい。でも次第に自分の体のように扱えるようになったら自由に操れるようになるわけか。
シンさんの炎刃とかはそういう年月で習得したした凄技なのかな‥
「‥てやっ!!」
――――ボゥッ!!
手にした炎の魔剣から放たれたのは紛れもない炎だ。
でも違う。シンさんの炎刃には程遠いものだ。
まず、斬撃になっていない。シンさんの炎刃はちゃんと炎で物を切っているのだが、これではガスバーナーを振っただけ、みたいなもんだ。
サーモンを炙るのが限界な火力で何ができようか。シンさんすごい。
「魔力100%の魔剣なんて兄さんにしか作れないから、売ったりしたら‥すごい値段になると思うよ‥」
まじかよ。確か普通の武器の相場はだいたい剣で銅貨30枚前後ってところだ。魔剣の相場なんて知らね!
異世界知識不足に考えることを止めたジュンにリリが畳み掛ける。
「それにね、魔力だけでできてるから‥こんなことも‥できる‥‥」
そう言うリリは剣を一振手に取る。軽さを追求された剣だ。刀身が薄く、受け太刀には向かなそうだ。
「‥‥‥魔弾」
「―――――――え?‥‥‥!!」
リリは特大の魔弾を連射する。かなりの凄技である。そして剣の刀身を吹き飛ばした。
えぇぇぇぇ!!なぜにぃぃ!!
「ちょ、え、リリ!!?」
リリは慌てるジュンに短くなった剣を差し出す。
その剣は上部分がなくなり、薄い断面を晒していた。
「ふふん、ジュン君‥落ち着け‥‥この魔剣はな‥再生するのだよ‥‥‥」
リリは得意顔で刀身に手を当てる。魔力の緑色の光が静かに2人の間で輝く。
「再生‥‥?」
「‥ほら」
リリの手の下で、光とともに少しずつ、刀身が戻っている。
「すげぇ‥」
すごい。これなら砥石も要らないし、折れて買い換えたり打ち直したりしなくてもいい。
「鋼を使わないなんていう‥常識はずれの武器だからこそ‥‥こんなことができるの。すごいよね‥」
シンさんの魔剣は本当にすごい。既にこの工房に見えてる分だけで40本以上の剣がある。
これ‥売るのだろうか?無駄にしたら駄目だよなぁ。
「ん‥そうだ。あれだけ‥もらっとかなきゃ‥」
リリが手を伸ばしたのは工房に見える剣の中でも特長のない剣だ。剣というより、短剣と言う方が正しい。何故か、同じものが何本も置いてある。
「これは魔力剣って言って、MPを貯めておけるんだよ。」
と、言ってどんどんそれらを回収し、鞘に入れて、荷物の袋に入れた。
俺もいい感じのを見つけた。魔力を込めると使い手の傷を癒す治癒の魔剣だ。回復魔法が上達しないうちは、これを使いたい。
旅の荷物にこれから売る魔剣を持ち、リリが地下室を土魔法で埋めた。
リリの生活していた家であり、俺がお世話になった宿をほんの一瞬だけ眺めた。
こうして2人はこのガルド市に別れを告げるのだった。




