間話「双子の中学3年生は受験から解放されたようです。」
場面が変わるときは※を使うことにしました。
眩しい。
目を開けたら知らない世界だった。
隣には姉の紫、准兄さんも京介兄さんも見当たらない。
中世ヨーロッパの様な町並み、2人の目の前を通っていく犬耳の少女。
目にはいる人々は黒髪がすくないくらいだ。
朝だったのに太陽は高く昇って明るい。
硬直する2人の頭のなかに1つの答えが導き出される。
「姉さん‥‥これ‥」
「日和‥もしかして‥」
この訳のわからない状況で、唯一と言っていい理解ができる確かな存在である双子の片割れに目をやる。
「「異世界ってやつぅ!!?」」
双子ならではのシンクロで現在の状況を言い当てる。
声が大きかったため、近くにいた衛兵っぽい鎧の男に2度見され、止まっていた小鳥が飛び立ち、周囲の人の視線が冷える。
彼らがそのことに気付くのはその直後のことだ。
2人で叫んだとはいえ、そんな非現実をすぐに飲み込むのは流石に不可能であった。
街を歩き、人と話し、読めない字とにらめっこしてからようやく現実であると確信を持てた。
「「はぁ‥‥‥」」
気づくと2人はため息を漏らすようになっていた。
無理もない。
状況が絶望的なのだ。
訳のわからない土地に姉弟で投げ出され、
文字も読めず、
お金も持っていない。
今日食べるもの、寝るところに困り、
頼れる人は双子の片割れ以外一切いない。
「どうしようか‥‥‥」
「いやいや、私に聞かれたってどうしようも‥‥‥」
声のトーンが落ちる。「詰んだ」という呟きが出そうになった。諦めてしまえば少なくともお昼、夜とご飯は無し、そして野宿が確定してしまう。
見えなくても希望は捨てちゃ駄目だ。
「‥‥‥この世界でも価値があるもの、持ってるかな。」
という姉の一言により、持ち物を売るという方針が定まった。
結果から言うと、作戦は大成功だった。
紫の持っていた手鏡がなんと金額2枚に銀貨50枚、銅貨20枚(銅貨はまけてもらった)という破格の値段で売れたのだ。
きっと鏡はこの世界じゃ高級品なんだろう。
なんにせよ、しばらくはお金に困ることはなさそうだ。
日が既に落ちていたので、宿を借りることにした。
「あーーー、えと、1番安い部屋をお願いします。ベッドは‥1つでもいいです。」
「そうだな、安いとなると大部屋で10人くらいと相部屋になるかもしれねぇが、1部屋の方がいいか?」
交渉(する程ではないが)相手は宿屋のおっちゃんだ。
正直、相部屋になるのは嫌だ。
ゆっくり眠りたい。
「なら、1部屋でお願いします。」
「1日銅貨4枚だ。」
「銅貨4枚かあ。お金は生命線だしなあ、もっと探せば安いとこあるかも‥‥‥しれないかもなぁ??」
姉さんが隣にいるこっちが恥ずかしい演技で強引な値下げ交渉を行う。
「悪いな。今はそこまで景気が悪くはねぇし、税金も高くねぇんだよ。その手には乗らねぇ」
「うーーーん、長期滞在するので、もーちょっとだけ、お安くできないですか??」
「ははは!食い下がるか!面白い!3日で銅貨11枚でどうよ?」
「ありがとございまーす!」
うおお。紫センパイまじ強いっす!
不出来な弟でゴメンね!!
こうして宿を手にいれた。
更に隣の料理店では、あのおっちゃん(ファードラコさんというらしい)の宿の部屋の鍵を提示するとお安く料理がいただける。
宿と酒場を一緒にするところが多いそうだが、ファードラコさんのは宿専門なので、客を提供する代わりに、振る舞う料理を安くしてくれてるらしい。
実に嬉しいことだ。
黒パンとスープを頂いたが、黒パンは固いし、スープの味付けが素朴な感じだった。
不味くはないが、日本が恋しくなりそうだ。
「姉さんベッド使ってよ。俺ここで寝るから。」
「は?一緒に寝るだろ?」
男の渾身の気遣いが粉砕された。
しかし、姉弟とはいえ、もう15歳。
一緒に寝るのは如何なものだろうか。
「疲れたでしょ?明日から働き口を見つけなきゃいけないんだし、疲れとれないよ。ほら。」
そりゃ俺だって疲れた。ベッドで眠りたい。
姉さんがベッドの右半分を空けるので、そこに潜り込ませてもらった。
こうして異世界ライフの1日目が終わった。
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「さぁ~て、がんばりますかぁ~」
この世界に飛ばされてから10日、2人は冒険者ギルドに登録し、Fランクで請けることのできる雑用をこなしていた。
飲食店でのバイトみたいな仕事だったり、商人の積み荷を下ろしたり、既に宿と食事の分を引いても収入ができていた。
「準備万端だな。今日はよろしく、えーと、ユカリ?」
「俺がヒヨリです。こっちがユカリ」
今日はファードラコさんのツテで1日だけパーティを組んでもらった3人組と一緒に初の討伐系の依頼を受けることになった。
そのために出費は痛かったが、装備を一式買いそろえた。鎧は動きにくそうなのでローブと剣を2人分、初級魔術書を1冊購入した。
「巨大蟻はDランクの魔物だ。初心者なら絶対ひとりになるな。」
このクルト市の南部の森で巨大蟻が大繁殖し、南区域で住民が避難する事件が起こった。そこで冒険者ギルドがランク関係なしに請けれる依頼として「巨大蟻の討伐」を出したのだ。
「「了解でーす!!」」
異世界に来たのだから、自分の能力がどんなものか見ておきたい。そんな動機で挑む初戦闘であった。
「おい、お前ら、可愛い後輩が2人いるからって集中乱すなよ。」
「もちろんっ」
「はいですニャ!」
彼らはCランク2人、Dランク1人のパーティ、ばっちり中堅というレベルだ。
「よし!ヒヨリ!僕についてくるのニャ!」
「私はユカリで、ヒヨリはこっちです‥」
「ニャ!!」
やはり間違えられる。双子の力は地球より強力だった。
「うおお‥‥‥」
森と街を挟む平野、そこには体長5メートルを超える蟻が何十匹も入り乱れて戦闘体勢をとり、それを迎えうつ形で冒険者が蟻と戦う。周りには蟻の死骸がゴロゴロ転がっている。
「地⚪防衛軍かよ!!?」
蟻がでけええええええ!
怖ええええええええ!!
気持ち悪!!
「はっはは!まるで戦争だな。いくぞ」
リーダーの男――ジャリルさんが先頭を走り、跳躍、回転するように手持ちの双剣をぶん回しながら蟻に躍りかかる。
「「モ⚪ハンかよ!!?」」
俺だけではなく、姉さんまで突っ込んでいたようだ。
そのシンクロした突っこみに、意味のわからなかった魔法使いと猫の獣人の頭に「?」が浮かぶ。
「あたしたちも加勢しなきゃ!」
いざ初陣。
なんちゃって。
蟻の突進を横に走って避けながら2人でサイドから切り崩す。
上級者は正面からガンガン行くのだが、巨大蟻は力が桁違いに強い。よって、横から攻撃するのが常識らしい。
「ほっ、はっ!やぁ!」
「とりゃ!」
余裕だ。
横に位置をとるのも簡単だし、立ち回れる。
皮膚を切り裂いたときの返り血を避ける余裕すらあった。
「‥‥‥?意外と楽勝?」
気づけば2人の間には大きな蟻の死骸が横たわっている。
楽勝。
そりゃそうだ。
俺たちのユニークスキルは、2人が近くにいると強くなるというものだ。まず、攻撃力、防御力、魔法力、魔法抵抗力のステータスは2人が近くにいる限り、2人の合計値になる。
更にバフ効果は2人に影響し、HP、MPも片方に分けることができる。
つまり能力は既に初心者の域を出ていた。
「えっと、この辺?」
姉さんが蟻の胸のあたりに刃を入れ、魔核を取りだし袋にいれる。
これで終わりならあっけないものだ。
「ニャニャ!?もう倒したニャ!?」
右手に剣を持ち、四足歩行で駆け回る猫の獣人――――シャルさんが驚きの声をあげる。
「姉さん、これいけるね。」
「そうだね、びっくりするくらいやれる。」
息ぴったりの剣と立ち回りで蟻を次々に葬った。
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「お疲れ様です~。ギルドカードです。」
「あっ、これ逆です。」
「あぁ、あれ?わかりませんよー!」
異世界ライフも1カ月、ユニークスキルの1つ「同調」の影響か、似ていた顔が更に似てきた気がする。
現に赤い制服の受付嬢さんも間違えたところだ。
くすくす笑う受付嬢さんだが、そんなにこっちは愉快じゃない。
あははは。
今日も冒険者ギルドの依頼で雑用をしてきたところだが、ラッキーなことに午前中で終わった。
これから別の依頼を請けてもいいが、帰ることに合意した。
相変わらず冒険者ギルドは人がいっぱいだ。なんでも、近くに迷宮があるらしく、それを求めて世界中からこのクルト市に実力者が集まっているらしい。
「誰か迷宮に潜らねぇかー!?」
「パーティ組もうぜ!!」
「おい!ガルド市で冒険者3人があのクロウを退けたって話だぞ!!?」
「レッドダイダロス!?無理に決まってんだろ!?」
「あぁ!?そんな装備で大丈夫かぁ?」
「隣のロア共和国で1週間でAランクに上がったやつがいるらしいぞ!!」
「回復薬のいいやつどこで売ってるかな?」
中は会話でごったがえしている。
(いつも通りうるさいなぁ~)
(そうね。はやくここを出よう)
俺たちはユニークスキルで念話ができるようになっていた。
できた、というよりは、発現したものだ。
1週間前くらいにベッドで2人で寝ようとしていたところ、急に心の声が伝わるようになった。最初はコントロールできず、心の声だだ漏れでお互い恥をかいたものだ。
(念話疲れるから普通に話そうよ)
(確かに、俺なんかこの感覚苦手かも。)
2人はギルドを出て賑やかな街を歩く。
「あたしなんかさ、料理の才能とかいうスキルついたんだけど?」
「ええ?俺そんなんねぇけど?」
いつも人数不足の料理店があって、そこによく依頼で行っている。そのうちに調理をいろいろ任せられるようになった結果だろう。
「そういや、前の世界でもけっこう料理してたもんね。」
「あーー!前の世界かぁ。テレビドラマに漫画の続きも気になるなー!」
「ぐあー!ゲームやりてぇー!」
叫ぶ程ではなかったが、既にこの世界の住民になってしまった2人は、未練を垂らしながら歩いた。
大きな声だったのだろう。何人かがこっちをチラ見する。
(変な人だと思われてるわ‥)
(そうだね、面白いね)
2人でテンションを保ったまま歩みを進める。
後ろから「ちょっとーー!!」という声が聞こえてきた。
そして、ドタバタという走る音。
俺たちが後ろを振り向く前に、2人の肩に手がぽん、と乗せられた。
「ね、ねぇ‥‥君たち、違う世界から来たでしょ?」
「―――――ぁ」
「―――――ぇ」
その女性は、わくわくという表情でそう言った。
動揺で言葉が出ない。
何を知っているんだこの女‥‥?
いろいろな疑念が頭を支配しているところで、女性の背後から「お嬢様ーー!!」と老人が走ってくる。
ビビる双子に目を輝かせるお姉さん、そして息を切らして走るおじいさん。その状況に俺は
「なにこれ」
とひきつった笑みを浮かべた。




