第9話「覚悟」
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「クレア‥さん‥‥‥」
ジュンの視線の先にあるものは、血の上に倒れる恩人の姿だ。ついさっきまで、元気な姿を彼に見せていた。故にそのショックはあまりにも大きく、彼の体を凍りつかせていた。
「お姉ちゃん!!」
酒場のドアを開けたもう一人の少女は、姉のクレアに駆け寄る。何度か顔色が悪い彼女を見たことがあるが、過去最悪で悪い色をしている。
部屋には割れた食器が散乱、壁には刃物でつけられたであろう鋭い傷がいくつかついている。
そして、2階から金属と金属がぶつかる鋭い音が聞こえることから、何者かの襲撃があったことは嫌でもわかる。
そして、その襲撃者がクレアさんに重症を負わせ、現在2階でシンさんが抑えていること、シンさんが建物の中で炎刃を使うほど相手は手練れだということが理解できた。
―――――恐い。
クレアさんは生きているのだろうか、襲撃者にシンさんは勝てるのだろうか、体が動かない、早くリリかシンさんのところに行かなきゃいけないのに、足が‥床に縫い付けられたみたいに動いてくれない。
落ち着け。身体能力も頭脳も平均、そんな平々凡々な俺は、取り乱さないのが強みだ。動揺するな、平凡な頭で考えた最善を辿れ‥‥‥
彼は実際に身体能力も普通、頭脳も普通の少年だ。この世界に来ても、獲得したスキルとラノベや漫画の意識によって、ようやく冒険者駆け出しを卒業した程度。
唯一持っているチートスキルであるユニークスキルも、1度死にかけた記憶から、使うのは避けている。
しかし、彼の歩んできた人生は、決して平凡、普通とは言えない。彼はいつも覇道を征く親友の隣を歩いていたのだ。そのなかでも、不良やヤクザ関係の物騒なことも多々あった、事実、数年前まで治安の悪かった地元は、京介の手によって平定されたと言っていい。その傍らにいた少年は、相棒に直接手を貸していた訳ではないが、いつくもの修羅場をくぐっている。
彼は平凡を自称するが、彼が平凡だとするなら、平凡な人はいなくなると言えるだろう。
――――――覚悟を決める。
「リリ!クレアさんは!?」
体は動く、声も出る、頭も動く。
「えっと、お腹が‥斬られてる、早く手当てしな‥きゃ‥」
かなり状態は悪いようだが、息はあるようだ。
俺はあるものをいつも身に付けているカバンから取り出す。
「これ、超上級の回復薬、使って」
「ん、ありがと」
超上級の回復薬があれば命を拾うことは難しくないだろう、リリは回復魔法の使い手としてもかなり優秀だ。
回復魔法は無属性と同様、誰でも使うことができる魔法だ。
ジュンもリリに回復魔法は教わったこともある、しかしジュンが使っても20秒でHPが1回復するという実践投入不可能にも程がある性能だ。
ここでジュンのとることができる行動は、大きく分けて2つある。
・クレアの処置およびリリの護衛
・シンに加勢する
俺は後者をとろうと思う。ぶっちゃけ、前者をとりたい、でもクレアさんの処置はリリ一人で充分な上、俺は回復魔法が使ったところで焼け石に水、更にリリは魔法使いとしてかなりの実力を持っている。近距離をカバーするためだけに残るのもよい選択とは思えない。
「はぁ‥腹くくれ‥‥‥」
シンさんでさえ仕留められない敵‥もしかしたらシンさんより強い使い手かもしれない、シンさん一人で手に負えるレベルであってくれと願う。
「これ、上級の回復薬、一応渡しとくから。それと、リリ、クレアさんを頼むよ、回復して安全な場所まで避難させてくれ、俺は、シンさんのとこに行く」
リリははっとしたような顔をして
「ジュン君‥敵多分‥強い‥危険、ここに‥いて」
シンさんと敵であろうものの金属音が鳴り響く、それがいかに激戦を繰り広げているのかを物語る。
妥当な判断だ、俺は別に強くない。でも、ここで行かなかったら絶対に後悔する気がする。
「でも、シンさんにクレアさんは助かるってことだけでも伝えなきゃ、気にして全力を出せてないとかありそうだし‥」
とっさに出てきた言い訳だ。最善はきっとリリの言うようにここにいることだ。でも‥
「やれることはやっておきたいんだ。回復薬を渡すだけでも、クレアさんの無事を伝えるだけでも。」
俺の言葉にリリはクレアさんの傷を癒しながらこっちを向き
「そういうことなら、わかった‥‥その気持ち‥私も同じだから、分かるよ。なんだか‥ありがとう‥」
真剣な顔でそれだけ言い、クレアさんの治療に集中するリリ、俺はリリに「大丈夫、絶対に上手くいくから」とだけ声をかけ、魔弾の詠唱を始める。
「‥‥‥我に力を貸したまえ‥魔弾!」
魔弾をいつも通り生成、魔力の集中を継続することでいつでも放てる状態にしておく、空いた右手で腰にある剣を抜刀する。
「さて、腹くくっていきますか」
警戒を緩めずに階段の下まで歩く、炎刃でつけられたであろう後が綺麗に残っており、階段の真下は焦げて黒くなっていた。
上からは足音と金属音が響くのが聞こえ、階段を1段上がるごとに緊張が高まる。
「シンさん!!」
シンさんが誰かと斬りあってるのが見え、残りの段を一気にかけ上がる。狭い廊下の全体像が視界に入り、シンと斬りあう男の特徴―――長身に、長い赤髪が見える。
―――――――ヤツだ。
「何で‥ここに‥?」
瞬間に理解した。あのときの赤髪、冒険者ギルドで聞いた殺戮者クロウ。俺の記憶では、シンさんよりも明らかに強いという認識だ。
「ジュン君!なぜここに‥‥‥姉さんは!?」
「クレアさんなら大丈夫です!頃合いを見て逃げましょう!」
シンさんは受け止めたナイフを弾き、続くクロウの斬撃を切り上げて攻防が一段落、両者距離を置く。
赤髪も俺が来たことに多少警戒するのか、こっちを見たまま仕掛けてこない。
「そうか、なら心置きなく戦える」
シンさんよりも、クロウの方がかなり強い、でも武器の違い、場所が狭いということ、戦い方の違いがシンさんの不利を相殺していると言えるかもしれない。
シンの太刀をクロウは小さなナイフで受け続け、短いリーチでシンの体を狙う、剣閃は絶え間なく、ナイフと剣の打ち合いとは思えない激戦を繰り広げていた。
超人的だ‥あの剣劇をあんなに小さいナイフで‥世界最悪も過言ではない、もしもう少し広いところだったら、クロウがナイフの使い手ではなく剣士だったら、シンさんは俺が来るまで生きていたか危ういと思う。
今戦えていても、勝てるかは別だ。ここは退いた方がいい。
「はっ!!」
シンが体を低くした瞬間を狙って魔弾を発射、フレンドリーファイアしそうなこの空間で援護するのは難しい、できそうなときにしておく。
1発ではクロウに何の意味も為さない、しかし、シンさんとクロウに距離ができた。
「シンさん!魔法で援護します、隙を見て退きましょう!」
「いや、私はこの男を倒そう。」
やっぱりだ、シンさんはクロウを倒そうとしている
「相手が悪いです、やっぱり逃げな‥」
「ごめんなジュン君、私の‥意地だ‥」
「――――――――」
その言葉に、俺は何も返せなかった。覚悟が感じられた。
この人は止められないとそのとき悟ってしまったようだ。
何か、何かできることはないか‥
その思考の結果として、回復薬を渡すという目的を思い出すとともに、あの赤髪―――クロウを鑑定してみようと思った。
距離的に鑑定できるかどうかはギリギリだ。
――――――――鑑定
《半吸血鬼 名前 クロウ・ランドロフ LV 89
ステータス
HP:2711/2964
MP:783/820
攻撃力:1806
防御力:694
魔法力:187
魔法抵抗力:921
スキル
「剛力LV10」「堅牢LV6」「魔力LV4」「魔耐性LV8」「禁断魔法」「禁断魔法」「魔闘術」「剣の達人」「吸血鬼」「立体機動」「思考加速LV7」「痛覚軽減LV5」「状態異常耐性LV7」
称号
「吸血鬼」「殺人者」「殺戮者」「龍殺し」「呪われし者」「魂を喰らう者」》
おい待て、強いぞ。特に攻撃力、1800!?シンさんは1100ぐらいって言ってた。魔剣で強化はされてるみたいだけど‥あかん!!
「シンさん!そいつはやばい!攻撃力が1800、レベルは90、「禁断魔法」とかいうやばそうなの持ってる!」
「なっ‥禁断魔法だと‥」
禁断魔法ってなんだよ!?絶対強いやつじゃん!?
知らないスキルいっぱいあるし、戦力が分析できない‥
「鑑定‥された‥‥か」
よく見えないクロウの表情が変化する。ちょっ‥なんかやばい‥多分クロウの標的に俺も入っちゃったパターンかな!?
まぁ既に入ってたろうけど。
「―――――――――」
クロウが踏みこみ激戦が再開される。速く、ジュンの目では捉えるのがギリギリのレベルだ。クロウのナイフにシンが鋭い剣技で応答する。
ナイフを刀身の上で滑らせるようにして剣を捌き、力が乗りきる前に剣を受けとめる‥
――――――おかしい。
さっきまでは、シンさんが武器のリーチの差を利用してクロウとの戦いを有利に進めていた。
少なくとも、俺の目にはそう見えていた。
でも今は、明らかにシンさんが押されている、さっきまで防がれていた攻撃すらも出来なくなっている防戦一方だ。
どうしたんだ?考えられる原因は2つ、シンさんの持久力が危ないか、クロウが本気を出していなかったか‥
しかし、その答えは出ないまま局面が進む。
「ぐっ‥」
シンさんの受け太刀が下からこじ開けるようなナイフの一撃で崩れ、バランスが崩れる。
「シンさん!!」
続いて降り下ろされるナイフを受けとめ、ガードが開く、クロウの蹴りが右から入り後退、追撃で踏みこみ突っ込むクロウのナイフを―――
シンの前に出て剣を構えた、ジュンが受け止めていた。




