プロローグ
──ここは都内の某ライブハウス。メジャーデビューも間近だと囁かれていたバンドの解散ライブに、そこには多くのファンが駆けつけていた。
そんな中、ステージ上のスタンドマイクの前で、悲しそうな笑みを浮かべる、肩からギターを下げた女が一人。
先程までの激しいロックナンバーとは打って変わって、会場内はシンと静まり返る。
女はマイクの持ち手の部分に手を置き、哀愁漂う表情のまま、ルージュで色をつけた唇を小さく動かす。
「次は、ラストの曲」
色気のあるハスキーな低音ボイスは、聴く者を掴まえて離さない。クールな女はそれ以上何も語ることはなく、後ろのドラマーに合図を送る。
女と合図を交わしたドラマーは、こくりと頷き、頭の上でスティックを鳴らす。同時にギターの音とベースの低音、キーボードの音が共鳴し、イントロだけで会場内は歓声に包まれた。
ギターをさげた女は、マイク越しに客へ向かって、力強く歌をぶつける。
発狂したように歓声を上げる客、泣き崩れる客などで、会場内のボルテージは最高潮。
誰もがこの瞬間、この時が終わって欲しくないと心の中で願った。それでも、無情にも時は流れていく。
「今までありがとう!」
「ありがとう!」
「ありがとう……!」
早くも曲はエンディング部分。メンバーは口々に思いを口に出す。クールな印象の強かったグループだったが、最後は抑えきれずに、感謝の気持ちを口にした。
勿論、ボーカル兼ギタリストのクールな女も、最後には大きな声で感謝の気持ちを叫んでいた。