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OVAの聖騎士様~終わりから始まる英雄譚~  作者: 天野ハザマ
2章:蒼き海の凱歌

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その夜に

 夜。ベッドが四つ詰め込まれた部屋は、この綿毛の羊亭では一番広い部屋だ。

 といっても、二階建ての綿毛の羊亭に存在する客室は三部屋だけであり……一人用の部屋が二つ、そして贅沢な三人から四人用の部屋が一つ。

 そのうちの一部屋はセレナが借りていて、残り一部屋は空き部屋となっている。

 

「……なんていうか。分かってたけどアンタ、女と一緒でも気にしないわよね」

「何がだ?」


 鎧を脱いで床に置いていたアルフレッドにヒルダが問えば、そんな風に返される。

 その顔は誤魔化しとかではなく本気の……「何を言ってるんだか分からない」という空気に満ちていて、ヒルダは思わず苦笑する。


「いや、ほら。普通男って女と同じ部屋とかって何かしら思うところがあったりするでしょ?」

「ん……?」


 言われたアルフレッドは何かを考えるように顎に手を当てると、更に首を傾げてしまう。


「……同じ「人」だろう? 大体此処に来るまでも散々一緒に夜を過ごしただろう」

「その言い方も語弊があるわね……つーか、うん。昼間の話からするとその反応も納得できるんだけど」


 物語の中の英雄。アルフレッドを見るに、恐らくは理想の英雄を描いた英雄譚か何かだったのだろうとヒルダは想像している。そんな物語の主人公であるならば、アルフレッドに邪念の類が無いのは当たり前とも言える。

 ……まあ、隣でベッドで跳ねているノエルはどんな英雄譚だったのか全く想像できないのだが。


「そういえば前に会ったアスカとかってのは結構早い時間で帰ったけど……アンタはどうなの?」

「ボク? うーん……あまり無茶したわけじゃないし、結構居残れるかな? でもまあ、そろそろ帰ろうかなとは思ってるよ」

「あ、その辺自由なの?」

「というわけでもないんだけど……」


 今此処にいるノエルは、アルフレッドの能力と魔力によって仮の身体で顕現した存在だ。

 アルフレッドに余裕が無くとも動ける程度には自立しているが、無茶をして魔力を使い切れば消えてしまう存在でもある。

 ただ、余裕があるうちに消えればその分の残った魔力はアルフレッドへと戻る。そういうものでもあった。


「このまま居ても明日の夜くらいまではいける気もするんだけど、戦闘を考えるとそういうわけにもいかないしね」

「ふーん……もう少し色々話せると思ったんだけど」

「ボクも出来るならそうしたいけど……」

「それなら」


 ヒルダとノエルの会話に、アルフレッドが割り込んでくる。


「明日また呼び出せばいい。魔法使いとしての能力も、あの三人の相手役としても充分に対応できるだろうしな」

「あ、いいわね」

「駄目だよ」


 同意したヒルダとは別に、ノエルはそう言って首を横に振る。


「いざ戦闘となったら、ボクは大して役に立てないよ。そもそもボクの話は他の皆と違って暴れん坊じゃないしね」

「え、でも……英雄なんでしょ?」

「一応ね」


 疑問符を浮かべるヒルダに、ノエルはそう言って笑う。

 そう、ノエルを主人公とするOVA「永遠のフローランド」はバトル中心のアニメではない。

 そういう要素はオマケ的なものであり、ジャンルでいえば「ほんわか系」に属している。

 それでもノエルが「世界を救う英雄」として召喚術式に選ばれた理由は勿論存在するが……それを加味しても、ノエルは戦闘向きの英雄ではない。


「アルフレッドも分かってるはずだよ。ボクが戦うくらいなら、君がスタッフオブノアを使った方が余程戦える。海に潜む敵がどんな奴かは知らないけど、明日は戦う事に長けた人を呼ぶべきだ」

「……」


 確かに、ノエルの力の一つである「スタッフオブノア」はアルフレッドが「伝説解放(オープン)」を使う事で使用可能だ。

 その能力は杖に秘められた魔法の力の行使であり、ノエル自身の身体能力は並だ。

 船上という不安定な場においてノエルとヒルダの両方をサポートしながらアルフレッドが戦えるかといえば、答えが否になってしまうのもまた事実。


「戦う事に長けた者……か」

「うん。だから、ボクは今回はここまでかな」


 寂しそうに笑って、ノエルはスタッフオブノアを抱えて立ち上がる。


「アルフレッド、ヒルダ。一緒に冒険出来て楽しかったよ。今度は本物のボクで会えたらいいな」


 そう言い残すとノエルは金色の魔力の光を放出し、その中へと溶けていく。

 光はそのままアルフレッドの中へと戻っていき、その光景を見守っていたヒルダは「本物、か……」と呟く。


「ノエルとか、アスカとか……そういう「英雄」が後どれだけいるのか知らないけど。そんなにたくさん来たら、それこそ世界なんて何回でも救えそうね」

「ああ」


 アルフレッド達は、その誰もが「救えなかった」者達だ。

 それだけたくさん居ても、ただ一つの世界すらも救ったことはない。

 だからこそ、世界を救いたいという妄念に誰もが駆られている。

 ノエルですら、其処に違いはない。それでも、ノエルは自分以外の誰かを呼べと言った。

 それは「今度こそ世界を救いたいから」という意思の表れに他ならない。

 だからこそ「今度は本物で」と言い残したのだ。

 今はダメでも、必ず来る。任せきりにはしない。だから、今だけは任せる。

 そう託していったのだ。


「……救ってみせるさ。何度だろうと、何が相手であろうとな」


 そう呟くアルフレッドの瞳には……確かな決意が、宿っていた。

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