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OVAの聖騎士様~終わりから始まる英雄譚~  作者: 天野ハザマ
2章:蒼き海の凱歌

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バッカス号探索

 まずヒルダが調べ始めたのは、船の後方へと繋がる扉だ。

 階段の位置と船の外見から考えると前方へ繋がる扉は更に広い空間へと続いており、後方へと続く扉は恐らくは広めの一つの部屋に繋がっている。

 まずは狭い範囲から探すのは鉄則だし、あくまで勘だが……かなり「いい」部屋へ繋がる扉であろうという予感もあった。


「んー……」


 まずは扉全体を調べ、それから鍵穴へ。まさかこんな場所で鍵穴を覗いたら毒針が飛んでくるような類の罠が仕掛けてあるとは思わないが、念には念を入れて調べていく。


「……よし、普通の鍵っぽいわね。魔法鍵じゃなくてよかったわ」

「魔法鍵だと何か違うのか?」


 そんなアルフレッドの問いにヒルダは「全然違うわよ」と答えながら鍵穴へと鍵開け道具を突っ込む。


「魔力で扉自体を固定してるから鍵開け道具じゃ開かないし、無理矢理ブチ破ろうとすると電撃飛ばしてくるのもあるわ。ひっどいのだと……まあ、噂話なんだけど扉自体がゴーレムだったってのもあるわね」

「うわあ……」


 ノエルが想像したのか嫌そうな顔をするが、その間にもヒルダの手は止まらない。

 カチャカチャと鳴っている音の中にヒルダの「おっ」という声が混ざり……やがてガチャンと何かが回るような音が響く。


「よっし、開いたわよ! 流石あたし、天才!」


 言いながらヒルダはドアノブを回し、扉を開ける。するとその先には想像通りに少し広めの部屋があり……部屋の最奥に据えられた、たくさんの窓からは燦々と光が注ぎ込んでいる。

 大きめの机や固定されたベッドなどもあったが、ヒルダの目を引いたのは部屋の隅に置かれた宝箱、そして壁に貼られた海図だ。


「ここ……ヴァンの部屋だ」

「船長室ってことよね。うんうん、お宝の匂いするわー」


 言いながらヒルダは迷わず宝箱へと近寄り、鍵の有無を確かめ始める。


「む、生意気に鍵かかってるわね。でもこんなもの……」


 そんないつも通りのヒルダをそのままに、ノエルとアルフレッドも船長室の中へと入っていく。


「……あの三人が荒らしているかと思ったが、そんな事は無さそうだな」

「そうだね。時間の問題だったかもしれないけど」


 言いながらアルフレッドとノエルは、周囲を探し始める。

 アルフレッドは机、ノエルは物入れ。試しにアルフレッドは机の上に置かれた本のようなものを捲ってみるが、どうやらそれは航海日誌であるようだった。


「……ルミエールの14日、ついにフローランドへ出発する準備が整う。フローランドに眠る伝説の杖は俺様のものだ……」


 どうやらアルフレッドにも読める言葉で書かれているようだが、バッカス号がこの世界にやってきた時に「そういう風」になったのだろうか。アルフレッドと同じような境遇の者だけに通じる言葉で書かれているのではなく、この世界の標準言語で書かれている事はヒルダの家で読んだ本と同じ言語で書かれている事からも確実だ。

 ……となると、やはり「何らかの力」によってこの世界に呼び寄せられたのかもしれないが、まさか女神ノーザンクがやったというわけでもないだろう。

 となると、バッカス号は今回の事件だけではなく「この世界に干渉する女神ノーザンク以外の力」に関する大きなヒントとなるかもしれない。

 そのまま読み進めていくと、恐らくはノエルの冒険の舞台……「永遠のフローランド」のストーリーに沿っているらしい内容が書かれている。


 ルミエールの17日。フローランド付近の空域へ到達。空飛ぶ魔導船が珍しいのか、地元民がどっさり集まっている。流石にあれを全部敵に回すのは面倒だ。何か適当な理由をでっちあげるとしよう。


 ルミエールの18日。冒険家という言い訳は少し苦しいかと思ったが、村をあげて歓迎されてしまった。どれだけ純真なんだ。俺様が言う事じゃないが、少し心配になってきた。それはそうとしてドラゴノイドが村長とかどうなってんだ。超怖ぇ。


 ルミエールの19日。ノエルとかいう女がやけに外の世界の事を聞きたがる。逃げても先回りされるし、こうなったら杖の探索に利用できないだろうか?


「ふむ……」


 パラパラと捲っていくと、ヴァンという男の性格も段々と見えてくる。


 ルミエールの25日。ついに情報を掴んだ。第一の杖、スタッフオブノア。俺様は必ず杖を手に入れてみせる。それとノエルのことだが、どうしたものか。いつまでも騙しきれるものじゃない。最初からそういう目的だったはずだが、何故か罪悪感のようなものがある。


 ルミエールの26日。ついに明日、スタッフオブノアを手に入れる日が来た。ノエルのことだが、仲間に誘ってみようと思う。外の世界に興味があるなら、悪い話じゃないはずだ。


「……」


 日誌が書かれているのはここまでだ。ヴァンという男がこの世界に来ているのかは分からない。ひょっとすると来ていないのかもしれないが……もし来ていたとしても、恐らく悪人にはなりきれないような……そう、たとえばヒルダのような性格なのかもしれないとアルフレッドは思う。

 だとすると、外の惨状を造り出したのはヴァンという男ではない……かもしれない。

 それが分かっただけでも収穫だろうと考え、アルフレッドは日誌を閉じた。

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