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盗賊団のアジト

 遠めに見えるのは、掘立小屋とテントの群れ。

 おそらくは森の中を勝手に切り開いて作ったのだろう。村と呼ぶには粗末だが、いざという時に捨てて逃げるのも惜しくないような、そんな作りだった。

 

「なるほど、あれが盗賊団のアジトというわけだな」

「……どういう目してんのよ。あたしにはほとんど見えないんだけど」


 ヒルダの目には「なんかあるかもな」程度にしか見えない距離だというのに、横にいるアルフレッドは一人、二人……と数まで数え始めている。


「見える範囲にいるのは四人だが、全部で何人かは分かるか?」

「流石にそこまで知らないわよ。別に潜入してるわけじゃなくて単なる一時雇いみたいなもんだし」


 罠士ギルドの紹介……勿論「裏」の紹介だが、仕事で手先の器用な人材が必要だということで依頼を受けて来ていたのだ。

 まあ、実際行ってみればつまらない鍵開けだとかそういうのばかりで、ここらで一つ大きめに稼いで終わりにしちゃおうか……と、そう思った矢先のアルフレッドだ。

 こんなの引っ掛けなければよかったが、今更ではある。


「……大体、アジトなんか襲撃してどうすんのよ。言っとくけど連中、たいして溜め込んでないわよ?」

「まるで見たような事を言うんだな」

「見たもん」

 

 警戒もザルだし、セクハラも酷いしで迷惑料でも貰ってやろうかと覗いたのだが、ロクなものが無かったので盗っても盗り損だと手を出さなかったのだ。


「……確か盗賊の仁義で仲間を裏切らないとかどうとか……」

「セクハラする奴は仲間じゃないわ、女の敵よ」

「いや、まあ……いいんだが。彼等がどれだけ財宝を搾取していようが、そこには興味がないな」


 キッパリと言い切るアルフレッドに、ヒルダは疑問符を浮かべる。


「え? ならどうするの? 何も実入りがないってことじゃない」

「どうもなにも。彼等を殲滅することで、あのアンデッドになった女性のような人が減る。それで充分だろう?」

「あー……」


 なるほど、正義バカだとヒルダはアルフレッドを評価する。

 この手の人間はたまにいるが、勢いだけの半端な実力の奴が多い。

 しかし、アルフレッドはどうだろう。身体能力も先程のマジックアイテムと思わしき剣も「只者ではない」という評価に繋がるが、そういう人間に限ってアッサリ死んだりもする。

 ……しかしまあ、それはそれでマジックアイテムを戴いて売り払うというのも良いと。ヒルダはそこまで計算して満面の笑みを浮かべる。


「さっすが騎士様! あたしも協力するわ!」

「……なんだか邪悪なものが見え隠れした気もするが……とりあえず騎士様というのはやめてくれ。俺にはアルフレッドという名前がある」


 黄昏の騎士。そうとだけ呼ばれていた男には今、女神ノーザンクから授かったアルフレッドという名がある。

 アルフレッドにとっては何よりも大切な名前。騎士様と呼ばれるよりは、そちらで呼ばれたほうがアルフレッドには嬉しい。


「そう? じゃあアルフレッド。どうするの? 一応言っておくと、連中は誘拐と襲撃専門だからそれなりに腕が立つわよ」


 暗殺専門の連中程ではないが、護衛と戦う関係上戦闘技術に長けた者も多い。

 特に集団戦闘もお手の物で、アルフレッドのマジックアイテムが強力であっても発動する時間を得られるとはヒルダには思えなかった。


「一応聞くがヒルダ、君は戦闘は?」

「短剣と弓なら少し。でも、あたしは基本的には罠と鍵専門だから期待しないでくれる?」


 そもそも弓は今回持ってきていないし、戦闘は専門外だ。

 アルフレッドに言った通り、ヒルダはちゃんとした罠士なのだ。


「そうか。まあ、それなら君は此処で待っていてもいい」

「え? そう?」

「ああ。俺一人で片づけて来よう」


 そう言いながらアルフレッドは歩き出すが……少し考えて、ヒルダもその後ろをつけるように歩き出す。

 直接戦闘に関わるつもりはないが、万が一ということもある。

 それに……アルフレッドがもし盗賊を倒してしまうようならば、ヒルダとしても少々考えがあった。


「ん? ついてくるのか?」

「えっと……一応ね。でも仁義の事は置いといて見つかると面倒だから、こうして姿は隠すけど」


 木陰に隠れながら進むヒルダに「そうか」と頷いてアルフレッドは進み……やがて正面から堂々と、盗賊達のアジトに姿を現す。

 ダラダラとしていた盗賊達は、あまりにも堂々と現れたアルフレッドの姿にポカンとした表情を見せ、アルフレッドはそんな盗賊達に堂々とした声で宣言し剣を抜き放つ。


「聞け、悪党共! 俺はアルフレッド! お前達を征伐しに来た男だ! 大人しく縛につけばよし、そうでなくば剣の錆となると知れ!」

「な、なんだあこの馬鹿は!」

「真っ赤な鎧なんか着やがって、何処のお貴族様だ!」

「やっちまえ!」


 斧、剣。手に武器をとって立ち上がる盗賊達に向けて、アルフレッドは剣を構える。


「……ならば是非もなし。かかってこい!」

「死ねオラァ!」


 斧を振りかぶって飛び掛かる盗賊は、恐れる様子もなく踏み込んだアルフレッドの一閃で斬り倒され地面に転がって。


「んなっ……」


 いきなりやられてしまった仲間に驚いた別の盗賊も、次の瞬間には斬られている。

 重たい鎧を着ているとは思えぬアルフレッドのスピードに翻弄され、その剣が振るわれる度に盗賊が斬り倒されていく。

 疾風怒濤。そんな言葉がピッタリなアルフレッドの剣技は、あっという間に盗賊を最後の一人まで減らしてしまう。


「な、なんだ……俺達が、こんな! 何処かの国の騎士か!?」

「……一応、黄昏の聖騎士と名付けられてはいたらしいがな」


 ザンッ、と。

 振るわれた剣が最後の一人を防ごうとした剣ごと斬り倒す。

 あまりにも一方的。そう評するしかない戦いを……ヒルダは、ポカンとした顔で見ていた。

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