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OVAの聖騎士様~終わりから始まる英雄譚~  作者: 天野ハザマ
2章:蒼き海の凱歌

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世知辛い話

 商人と交渉を終えたヒルダ達は盗賊の死体から装備品を引っぺがし、山のように積み上げていた。

 ついでに財布の類も取っていたが、これはもうアルフレッドは見て見ぬふりをすることにしている。

 積極的に手伝おうとは思わないし死体から奪うのはどうかという思いはあるが、ヒルダ達がやらずとも他の誰かがやるだけだと分かっているからだ。

 それがこの世界の決まり事であり、それに何かを言うのはもはやエゴでしかない。

 ……勿論納得いかない部分は多々あるが、スレイプニルを撫でて溜息をつくに留めている。


「ま、予想はしてたけど質が悪いわねえ」

「こんなものでしょう。ただ二級品ではありますよ。何処かで盗賊をやってて移動してきたんでしょうな」


 周囲を警戒しているアルフレッドや護衛に守られながら、ヒルダと商人は戦利品の品定めを手早く終えていく。

 合同でやっているのは「相手に出し抜かれてたまるか」という実にシンプルな思いからであり、それ故に二人の鑑定結果は至極妥当なものに落ち着いていた。


「確かに。そもそもバッサーレから「来る」馬車を襲うなんてアホでしかないから素人かもと思ってたけど、それにしちゃ装備がいい……」

「手入れされてますしね。うちの護衛が圧されてた事といい、組織としての形が整っていたのは間違いないかと。とするとあいつ等が移動する原因になったのが何かってのは気になりますなあ」

「縄張り争いなのは間違いないでしょうけど。そうなると何処かに面倒なのがいることに……」


 言いながらも全ての戦利品の鑑定を終え、ヒルダと商人は互いに向き合い微笑む。


「……さて。それでは全部で26万イエンが妥当なところと思いますが。如何です?」

「ええ、私もそんなところかと思います。ではお約束通り、そちらに18万イエン分をお譲りするということで……こちらの取り分としては、あの革鎧を頂ければ」

「あはは、ご冗談を。アレ弱いけど魔道具ですよね? 一つで10万イエンは硬いし、出自を隠しちゃえば上手くいけば倍額はいきますよ」

「いやいや。何処から流れたかも分からない品にそんな高値はつきませんよ。精々5万イエン程度と私は見込んでいますよ? 貴方達へのお礼を考え遠慮をしてですね」


 再び何かを議論し始めたヒルダと商人を尻目に、商人達の護衛の一人がアルフレッドへと近づいてくる。


「なあ、騎士の兄ちゃん」

「……俺の事か?」

「おう。アンタ、まだ若ぇのにカード持ちなんだろ? 一体何やったんだ?」


 男の言い様に、アルフレッドはカードがギルドに貢献した者に与えられる類のモノだと言われたのを思い出す。

しかしアルフレッドとしては戦士ギルドに貢献とやらをした覚えはない為、具体的な答えを出しようがない。 


「たいした事はしていない。やるべき事をやっただけだ」

「ほー、ストイックだねえ」


 故にそんな返答をするしかないのだが、男は何やら勝手に納得してしまったようだ。


「俺もカードは欲しいんだけどな。こういう仕事をしてると中々……な」

「商人の護衛なんだろう? 物流に貢献していると思うが」

「ハハッ、俺もそう思うけどな。ギルドはそうは見ねえ。依頼の達成数だけでいえば、俺達は近場で依頼を済ます連中よりも少ねえわけだ。しかも行きと帰りの依頼の発行が別ギルドなら、それぞれのギルドでの達成数は実際にこなした依頼の半分ときたもんだ」


 これはつまり、情報の共有の問題だ。戦士ギルドはそれぞれ依頼などを管理しているわけだが、全国的にそれをリアルタイムで共有しているわけではないし「依頼の達成情報」などというものを使者を行き来させて確認するわけでもない。

 つまるところ一か所に留まって依頼を達成し続ければ評価が高く、流浪の身であれば新人並みの評価しか与えられない構図が自然と出来上がる。

 男のように長距離を行き来する護衛を請け負う者であれば、そうなってしまうのもある種当然と言えた。


「……世知辛い話だな」

「おうよ。とはいえ誰かがやらなきゃいけねえ仕事だ。その辺りの貢献がいずれ商人ギルドから伝わればと思ってるんだがなあ」


 中々上手くいかねえよ、と笑う男にアルフレッドは苦笑で返し……そんなアルフレッドを、男はジロジロと眺めまわす。


「しかしこうして見てみると、本当にすげえな。あんたの装備品、ほとんど魔道具だろ」


 男は魔法の才能は無いに等しいが、魔力を感じる程度の才能はあった。

 そんな男からしてみれば、アルフレッドの装備品はその全てが強力な魔力を放つ魔道具であるのが一目で分かる。

 それ以上にアルフレッドから相当な魔力を感じる為余程注意しないと紛れて分からないのだが、こうしして近づいてみれば嫌でも理解できる。


「……さてな」

「隠さなくてもいい。その若さでカード持ちの人間っつーのがどんな奴か知りたかっただけだしよ」

「知れたのか?」

「ああ。たぶん本気出したらあんなもんじゃねえだろうなってことくらいはな」

「あら、何してるの?」


 アルフレッドが男に何かを返す前にホクホク顔のヒルダが二人の間に顔を突っ込み、男はヒョイと両手をあげてアルフレッドから離れる。


「男同士の話し合いってやつさ。んじゃそっちの話も終わったみたいだし、俺も護衛に戻るとすっかね」


 そう言うと、男は商人の元へと戻ろうとして。


「あ、そうそう。分かる奴には分かるけどよ。場合によっちゃカード持ちってのは面倒に巻き込まれる。精々注意しなよ」


 妬む奴も多いし何かと面倒な奴も多いからな……と、そんな事を言いながら男は去っていく。


「……そんなもん気にして金稼ぎが出来るかっつーの」


 まあ、ヒルダに一言で切って捨てられてしまっていたのだが。

 

「さ、行きましょアルフレッド。バッサーレまではまだ遠いわよ」


 もう一回か二回くらい何かあれば結構稼げるわね、と。そんな物騒なヒルダの願いは叶う事無く、アルフレッド達は数日後に港町バッサーレへと到着するのだった。

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