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盗賊少女と仁義

 アルフレッドの手の中の七支刀は、役目を終えたとでもいうかのように元の剣へと戻っていく。

 そして完全に元に戻った事を確認すると、アルフレッドは剣を軽く一振りする。


「す、すご……」


 明らかに何かのマジックアイテム。しかし、あんなものは見たこともない。

 一体値段をつけたら幾らになるのか……などとそんな事を考えていた少女は、自分の方へと振り返っていたアルフレッドの姿に飛び上がりそうになる。


「え、えーと……流石騎士様! これなら私も安心です!」

「そうかな? 君があの盗賊の仲間なのは俺にも分かるぞ。ヒルダ……というのか?」

「う、うぐっ……」


 あのバカ、死ぬならあたしを巻き込まずに死ね。そんな事を考えながら少女は……ヒルダは後ずさる。

 

「あの女性……アンデッド、だったか? どうしてそんなものになったかは想像するしかないが、あの盗賊共の言葉を聞くに、原因は君達にありそうだが?」


 剣を抜身のまま一歩を踏み出そうとするアルフレッドに、ヒルダは本気の冷や汗を流す。

 基本的に盗賊はあらゆるものが自己責任だ。

 盗賊ギルドというものもあるし、「まともな仕事」をして大通りを歩いている盗賊もたくさんいる。

 勿論、大っぴらに盗賊でございなどと言う馬鹿もいるはずがないから世間的には「罠士」などと名乗ってはいるが、そういった連中だって裏の仕事をすることはある。

 ヒルダだって、最近はたまたま「そういう」仕事が多かっただけなのだ。

 標的だって殺してないし、ちゃんと逃がしている。

 今回だって、ちょっと身ぐるみ剥いでやろうと思っただけなのだ。


「え、えーと。待って! そ、そのー。あたしはほら、ちょっと副業的にっていうかその。本当はまっとうな罠士なのよ! でも最近はそれだけじゃ生きていけないし、ほら。分かるでしょ?」

「分からないな。人を騙して殺す。それは間違いなく悪だ。裁かれるべきと思うが?」

「それはケースバイケース……じゃなくて! えっと、あたしは殺してないし! そもそもあの人って本当ならちゃんと生かして帰してたはずの人よ!? あいつらが勝手なことしたんだと思う! あたし関係ないわよ!」


 必死で言い繕うヒルダをじっと見て、アルフレッドはふうと小さく息を吐く。


「関係ないという言い方はどうかな。仲間だったんだろう?」

「そ、そりゃ一時の仕事仲間ではあったけど、仁義に反したらもう仲間じゃないわよ!」

「仁義とは?」

「約束は守る、余計な殺しはしない、仲間は裏切らない! あいつ等全部破ってるもの!」


 その言葉に、アルフレッドは考える。

 言っている事は一応筋が通っている……気がする。

 まっとうな罠士云々というのは分からないが、必要にかられて盗賊行為をしていたというのは理解した。

 ヒルダの言い分を聞くに、この場で盗賊の仲間だと処断するには弱い気もする。

 ……何より、この世界の常識をアルフレッドは知らないのだ。


「……君の言い分は理解した」

「え、そ、そう? じゃああたし、帰っていいか、なひいっ!」


 自分の真横に突きつけられた剣に、ヒルダは思わず悲鳴をあげる。


「理解はしたが、許すかといえば話は別だな。君が盗賊である事実に変わりはないのだから」

「だ、だからあたしは罠士なんだってば! ちょっとお金持ってる人から貧乏人に分けてもらってただけで!」

「金という意味なら、俺もこの世界の金など持ってないが」

「げっ、貧乏人!?」


 思わずといった風に叫んだヒルダの顔の横で、アルフレッドは剣をカチャリと鳴らす。


「……余裕じゃないか」

「ごめんなさい! でもほら、えーと……ちょっと盗賊やってたからって殺したら、世界の半分くらい殺すようなもんだし……そのー……見逃して? ね、お願い。あたし夢叶えるまで死ねないの」

「夢?」

「うん。ね? ほら、ここで逃がしてくれたらめっちゃ感謝するし。いつか恩返しするかもだし」


 どうにも胡散臭いが、そこまで殺さなければならないか……というと、そこまでの理由はない。

 アルフレッド自身の件だって、未遂なのだ。

 ならばどうするか。考えて、アルフレッドは少女に一つの提案をする。


「……見逃してもいいが。一つ条件がある」

「え、なになに! なんでもする!」


 瞳を輝かせるヒルダに苦笑しながら、アルフレッドは剣を引き鞘に収める。


「その君が「協力」していた盗賊のアジトに案内してもらおうか」

「げっ!?」

「どうした、なんでもするんだろう?」

「ムリムリムリ! 絶対無理! だってそれ超裏切りだし! バレたらあたし盗賊……ごふん! 罠士ギルドからお尋ね者になっちゃう!」


 盗賊ギルド……もとい罠士ギルドは裏切り者には厳しい。特に横の繋がりがあるわけではないが、裏切り者は賞金首として手配されてしまう。そうなれば、安心して眠ることすらできない。

 なにしろ、連中の中には殺しを専門にする暗殺者までいるのだ。

 だが、アルフレッドはそんなヒルダを見て首をかしげる。


「……そうかな?」

「そうよ! 今殺されるか今夜殺されるかの違いなんて」

「いや、君の話を信じるなら……その盗賊団は仁義に反した連中なんだろう?」

「え? それは、まあ」

「なら……「粛清」したところで、特に咎めは受けないんじゃないのか?」


 アルフレッドの発した「粛清」という言葉。

 それを頭の中でグルグルと回して……ヒルダはポン、と手を叩いた。

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