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OVAの聖騎士様~終わりから始まる英雄譚~  作者: 天野ハザマ
1章:再臨の聖騎士

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アルフレッドの目覚め

 ゆっくりと、アルフレッドは目を覚ます。

 時刻は……分からないが、辺りはほんのり明るい。

 森の中にぽっかりと空いたこの広場からは太陽が昇り始めているのが分かるが、恐らくは明け方だろうということだけは分かる。

 ……そして、遠慮がちに自分を覗き込んでいる顔も一つ。


「……ヒルダ、か」

「うん。おはよう、アルフレッド」


 身体を起こしたアルフレッドは周囲を見回すが、そこには明日香の姿はない。

 何処かに行っているのか、それともすでに帰ってしまったのか。

 答えを求めるようにヒルダを見ると、ヒルダは「彼女ならもう居ないわよ」と伝えてくる。


「よく分かんないけど「あとよろしく」って言って消えちゃったわ」

「……そうか」


 時間制限があることは知っていたが、予想したよりも短かったようだ。勿論、今回の戦闘が激しかったせいもあるだろうが、アルフレッド自身が倒れてしまっていたのもあるだろう。もっと魔力と力の扱いに慣れていけば時間も伸ばせるだろうし、その時間も調整できるはずだ。


「ねえ、アルフレッド……聞いていい?」

「なんだ?」


 いつになく真剣な表情のヒルダに、アルフレッドは同様に真剣な顔をする。

 明日香が何かをしてくれたのか予想よりも調子がいいが、その間意識が無かっただけに明日香がヒルダに何かを言った可能性も否定できない。

 その何かがヒルダを悩ませているのだろうか……などと考えるアルフレッドに、ヒルダは悩むような様子を見せた後……「あのアスカって子なんだけど」と切り出す。


「その。どういう関係だったの?」

「……ん?」


 飛んできた予想外の質問にアルフレッドは思わず首を傾げてしまう。

 どんな関係と聞かれても「力を託し託された関係」としか言いようがない。

 というか、何故そんな話になるのか。


「別に深い意味はないわよ!」

「あ、ああ」


 深い意味、というとビオレのような事だろうが、正直に言ってアルフレッドはヒルダに好かれるような行動をとった覚えがない。だからその線はとりあえず捨てていいはず、なのだが。


「そうだな……どんな関係かと言われると説明が難しいが、俺は彼女から大切なものを受け取っている。それが縁となった関係ではあるが、然程親しいというわけでもない。だから友……というわけではないと思うのだが、同志ではあるかもしれない」

「大切なもの」

「そうだな、恐らく「同志」でいいと思うんだが……どうだろうな。まだ何か違う気もするが」


 言いながら、アルフレッドはヒルダが目を閉じこめかみを指でトントンと叩いているのに気づく。

 まるで思考を整理するかのようなその動きをじっと見ていると……その瞳が開き、アルフレッドを見つめてくる。


「えーと……一応聞くけど、その大切なものって何?」

「君も見ただろう? 七支刀のことだが」


 言われて、ヒルダは七支刀とやらのことを思い出す。そういえば明日香もアルフレッドと同じような変な形の剣を使っていたが……そのことだろうか。


「親しくないのに、なんでそんなもん受け取ってんの?」

「そうせざるを得ない事情があったんだ」


 女神ノーザンクの事を話すべきかは判断がつかず、アルフレッドはそう誤魔化す。

 勿論話してしまえば隠し事もなくなるのだが、その伝えた真実がどうヒルダにとって重荷になるかも分からない以上は単なるアルフレッドの自己満足でしかない。


「ふーん……」


 一方のヒルダの方も、アルフレッドが全部を話していない事は分かっている。そもそも受け取ったも何も明日香も七支刀持ってたじゃん、とか。そもそも人間が何もないところから出たり消えたりするのは何故なのか、とか。色々とツッコミどころはある。あるが、アルフレッドが自分を不器用に気遣っているのが分かるだけにツッコミ辛い。

 とりあえず、明日香が消えるまでに散々からかわれはしたが……昔付き合っていた女性のゴーストだとか、そういう類ではなさそうだということだけは理解できた。


「……何か妙な事を言われでもしたか?」

「言われてないわよ」

「そうか」


 無いと言われてしまえば、アルフレッドとしてもそれ以上は言う事は無い。

 なんとも奇妙な沈黙が続く中……ヒルダから響く可愛らしいお腹の音がその静寂を破ってしまう。


「あっ」

「フッ」


 思わず吹き出しそうになってしまったアルフレッドだったが、真っ赤になったヒルダに睨まれ慌てて真顔に戻る。


「しょ、しょうがないでしょ! 夜からああだったんだから!」

「そうだな、仕方ない。言われてみれば、俺もすっかり腹が減っていた」


 朝の森からは、鳥の声すら聞こえない。

 ひょっとするとドーマのせいでこの森の生態系がどうにかなってしまったのかもしれないが……その肝心のドーマが滅びた以上、ゆっくりとではあっても森は元に戻っていくだろう。

 ドーマやデルグライファが何をしようとしていたのかは分からないままだが、恐らくはその野望を砕けたと……今だけは信じたいとも思う。

 勿論、ドーマやデルグライファといった恐らくは異界からの侵略者達が二人であるなどと考えるのは愚かだ。その背後に何が居るのかも分からない。

 けれど今は、今だけは。


「……朝、だな」

「何当たり前の事言ってんのよ」

「そうか?」

「そうよ。夜が来るんなら朝も来る。当然でしょ?」


 そう、当然だ。だからこそ、アルフレッドはその「当然」を守らなくてはならない。

 この世界を邪悪が狙っているというのであれば打ち砕き、光を取り戻す。

 それこそが自分の使命なのだと……そんな事を、アルフレッドは考えていた。

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