表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
OVAの聖騎士様~終わりから始まる英雄譚~  作者: 天野ハザマ
1章:再臨の聖騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/132

原因は

「う……」

「気付いたか」


 ヒルダが目を覚ました時、そこは自分の家のベッドの上だった。

 心配そうな顔をしているアルフレッドをぼうっとした顔で眺めた後、覚醒していく意識の中ヒルダは頭に触れる。

 そこにはすでに夜叉金冠は無く、周囲を見回してもやはり無い。


「あれ? あたしのサークレットは?」


 そう冗談めかして聞いてみるが、アルフレッドの顔がより深刻なものになっただけだった。


「え、まさか無くし……」

「……すまない。君が気を失ったのは、夜叉金冠が原因だ」

「へ?」


 無くしたのか、と聞きかけたヒルダにアルフレッドはそう告げる。


「この夜叉金冠……いや、他の道具もそうだが、かなりの力を使う事が分かった」

「えーと……?」

「俺の感覚で考えていたから気付かなかったのだが、夜叉金冠に君の力……魔力が凄まじい勢いで吸い取られていたのを見て確信した」


 言われて、ヒルダも「あー」と頷く。つまり、先程意識を失ったのは魔力切れだったのだ。

 恐らくは限界まで一気に魔力を吸い上げられてしまったが故に意識も途切れてしまったのだろう。

 あの短い間で感じた自分ではありえない反応を考えると、当然のようにも感じてしまう。


「なるほどねえ……使いこなせたら便利そうだけど、使えて数秒じゃねえ」

「本当にすまない。能力にばかり目が行って、君自身の事を考えるのを疎かにした」


 頭を下げるアルフレッドに、ヒルダは困ったように笑う。


「え、あー……いや。仕方ないでしょ。あんなアーティファクトの事を全部把握できてるわけないし、あたしの実力不足も……」

「いや、俺の責任だ。女神ノーザンクにも顔向けできない」


 自刃でもしそうな顔をしているアルフレッドをどうしたものかと考えながらも、女神ノーザンクとやらは何処の神様だろうともヒルダは思う。

 恐らくはアルフレッドの居た国の神様なのだろうが、聞いたことがない。

 しかしまあ、とりあえずはアルフレッドだ。


「じゃあさ、一つお願い聞いてくれる?」

「俺に出来ることであれば」


 迷いもせずに即答するアルフレッドに「じゃあ悪事働いてこい」って言ったらどうすんのかな……などとヒルダは考えるが、やった後に自刃しかねないので言わないようにしようとゴクリと台詞を呑み込む。

 とはいえ、いつまでもこの空気が続いても疲れるので何か冗談にして明るい空気に戻してやろうと考え、ヒルダはニヤリと笑う。


「じゃ、キスして」

「分かった」


 くいと顎を持ち上げてくるアルフレッドにヒルダは思わず「今のなし!」と叫んでベッドの上を壁際まで逃げる。


「何今の! なんかすっげー慣れてる奴の動きだったわよ!」

「いや、そんなことはないはずだが」


 何しろアルフレッドは人間関係の経験自体が少ないのだ。

 慣れているなどあるはずもないが……。


「……何か作法が違ったか?」

「作法なんかあるかバカ! もう、冗談だって気付きなさいよ! 家出る前にあたしからかったのはなんだったのよ!」

「いや、しかし」

「終わり、反省終わり! この空気疲れるのよ!」


 ベッドから跳び起きると、ヒルダは腕をグルグルと振って元気アピールをする。

 事実、魔力量の少ないヒルダは少し寝れば全快するし、そうなってしまえば元通りだ。


「……君がそう言うのであれば」

「もう、調子狂うわね」

「俺の浅慮が君を傷つけそうに……ああ、いや。やめるんだったな」

「そうよ。やめないと罪悪感に付け込んで悪事するわよ」


 ヒルダが冗談めかしてそう言うと、アルフレッドはクスリと笑う。


「そう言われては、やめるしかないな」

「あ、でもそしたら敵の財布抜いても見逃してくれる?」

「いや、見逃さない。絶対にだ」


 即答するアルフレッドにヒルダは「お、戻ったわね」と笑う。


「アンタに調子崩されたら、本気で私が死んじゃうもの。戦力にはなれそうにもないって分かったし、しっかり守ってもらわないと」

「ああ、それは請け負う。元よりあのラボスとかいう男の蒔いた種。こんな形で復讐を成そうなど、許されるはずもない」

「その調子、その調子。さ、ご飯にしましょ」


 パンは買い損ねたが、買ってきた食材でもそれなりの食事にはなるだろう。

 言いながら、ヒルダはもう何もついていない頭部に軽く触れる。

 結局鏡は見なかったが、あの綺麗な金のサークレットは少しもったいなかったかもしれない。

 そんなガラにもない事を考えながら歩きだし……アルフレッドに、その頭にポンと手を載せられる。


「なによ、アルフレッド」

「いや、なんでもない……そうだな、なんとなくだ」

「は?」


 部屋を出て階段を下りていくアルフレッドを見送りながら、ヒルダは疑問符を浮かべる。

 なんとなく。アルフレッドにはおよそ似合いそうにない事を言ったのを不思議に思いながら、ヒルダもその後を追う。

 ……しかし、実を言えば。本当に「なんとなく」だったのだ。

 空っぽの心に使命だけを詰め込んだアルフレッドの中に生まれた、「なんとなく」という行動。

 それは設定されたものでも与えられたものでもなく。

 アルフレッド自身が手に入れた、そんな小さな心の欠片なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ