超竜王
すなわち、ヴォードの攻撃ならば通じる。
そしてそれはヴォードと超竜王が同じ世界の住人だからというヒロイックな理由ではない。
「超竜戦記ヴォード」では、こう語られている。
超竜王を唯一倒せる希望の光は目覚めてはいない。今はまだ……と。
これはヴォードの事を示しており、そしてこの設定が現実となった時、超竜王を倒せるのはヴォード一人……そして、超竜王が如何に強くともヴォードであれば倒す事が可能であるという事実もまた決定づけられる。
故に、ヴォードの攻撃は超竜王に通じるのだ。
無論、アルフレッドはそこまで知るはずも無いがヴォードの攻撃が通じる事だけは理解できた。
だからこそ、アルフレッドはレヴィウスを操作し超竜王へと掴みかかる。
「ぬっ……!?」
超竜王はレヴィウスへと炎を吐くが、レヴィウスとて「英雄の力」の一つ。
最強の矛に近い超竜王の炎とて、それを焼き尽くす事は難しい。
ジリジリと装甲を焼く炎の中、レヴィウスは超竜王を抑えつけ押し戻そうとする。
「ぐ、う……この……!」
だが超竜王とてただで押し返されはしない。
この先に戻ってはならないと。
そう分かっているからこそ、レヴィウスのパワーに全力で抗う。
アラートの響くレヴィウスの中で、アルフレッドはしかし何も言わない。
此処で何かを言うべきではないし、他に気を向けるべきでもない。
それが、アルフレッドの出来る最高の援護だからだ。
「この……いい加減に離さぬか、不敬者め……!」
超竜王から更なる力が加わり、レヴィウスの計器がスパークする。
「ぐっ……!」
響くアラートがレヴィウスの限界が近い事を伝えてくる……が、まだレヴィウスを壊されるわけにはいかない。
そうなれば、超竜王が思い出してしまうからだ。気付いてしまうからだ。
だからこそ、アルフレッドは全力でレヴィウスに魔力を流し耐える。
「ぬ、がああああああああああああああ!!」
そして、超竜王の腕がレヴィウスを砕き押し返す。
部品を散らばらせ消えていくレヴィウスの中から飛び出したアルフレッドを見つけ、超竜王は巨人の正体を悟る。
こんな小さな人間が自分の邪魔を。
怒り狂う超竜王は炎を吐こうとして。
しかし、アルフレッドは「その言葉」を唱える。
何故なら……レヴィウスを呼ぶ為の鍵が星斬剣であるのと同様に。
ソレを呼ぶ為の鍵が、すでに其処に在るからだ。
「来い……ヴァルガアアアアアアド!!」
巨獣機ヴァルガード。
人類を遥かに超えるサイズの「巨獣」達に対抗する為の超パワーを持つ兵器。
ティタンシステムをその内に内蔵した超力の巨人が、アルフレッドを中心に顕現する。
そう、それは獅子にも似た頭部を持つ巨人。
レヴィウスと比べると鈍重な印象を持つヴァルガードは、しかしレヴィウスを遥かに超える力で超竜王へと組みつく。
「別の巨人……だとお……!?」
「うおおおおおおおおおお!」
背中のブースターを全開にしながら、ヴァルガードは超竜王を砂嵐の向こうへと押し込んでいく。
そう、ヴァルガードは人類を遥かに超える「巨獣」に力で対抗するべく生まれた巨人であるが故に。
直接のダメージは与えられずとも、力であれば超竜王にも勝る。
「ぐ、お……ふ、ざけるなあああああ!」
だが、超竜王とて負けられはしない。
押し込まれたら負けだと。そう理解しているから、全力でヴァルガードのパワーに抗う。
ヴァルガードの腕を掴み、押された分を押し返そうと踏ん張り獅子をイメージした頭部へ向けて炎を吐く。
それはレヴィウス程には炎への耐性が無いヴァルガードには効果的で、ヴァルガード内部のアルフレッドへと緊急アラートを伝えてくる。
「たかが人間の操る鉄屑如きに……この我が、超竜王が! 負けるかアアアア!!」
「……!?」
超竜王の全力の炎が、ヴァルガードの装甲を溶かす。
それは致命的なダメージで……ヴァルガードの中に居たのが本来のパイロットであれば死も逃れ得ないような、それ程の。
けれど、中に居たのはアルフレッドだ。
大きく破損したとはいえ、アルフレッドの身体にはまだ風霊鎧装がある。
そして、それは。「精霊機甲エレスティア」の風霊鎧装も……また。
「精霊機甲システム、スタンバイ! エレスティア……起動!」
叫ぶ。風霊鎧装をそのまま巨大化したような巨人がアルフレッドを呑み込み、超竜王の炎を風で裂きながら突進する。
―ウォーターブラスト―
エレスティアから放たれた渦巻く水流が超竜王を直撃し、その身体を再び砂嵐の中へと押す。
「つ、次から次へと……! どれ程の武器を持っているのだ!」
「決まっている。俺に託された願いの数だけだ」
「訳の分からぬ事を……!」
ウォ―ターブラストの連撃が超竜王を押し、超竜王の炎は防がれる。
これもまた、設定の通り。
精霊機甲エレスティア。自然界に存在する元素と精霊の力を魔導科学によって利用し作り上げた精霊機甲は、超竜王の炎にも僅かながらに干渉している。
それ故に、直接組み合うような事態に陥らねば有利。
無論サイズでもパワーでもレヴィウスやヴァルガードに劣るエレスティアでは、超竜王の腕に殴られれば全壊は必至。
けれど、そんな事態にはならない。
……何故なら、上空では。自分の限界を超え力を溜めていた、もう一人の「英雄」がいるからだ。
「ぬ、おおおおお……」
その両腕の間には、真っ赤に輝く太陽のような炎の珠。
超竜王の息子としての……英雄ヴォードとしての力を限界を超え注ぎ込んだ炎の珠は今、ヴォード本人をも焼き尽くす勢いで赤熱している。
「く、らえ……」
集められた力が、超竜王へと向けられる。
その恐るべきパワーに、この時点で超竜王は……ようやく気付く。
アルフレッドに足止めされていた事実に。
ヴォードが自分を倒す為だけに力を限界を超えて注ぎ込んでいた事実に。
だが、もう間に合わない。
「メ・ギ・ドォォォォ……」
「やめよ……」
「ブラスタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「やめよ、ヴォードォォォォォ!!」
放ったヴォードの身体すら焼きながら、メギドブラスターは超竜王を覆い尽くす。
砂嵐から出ていた超竜王の身体を、砂嵐の向こうにある超竜王を召喚した何かを。
その全てを焼き尽くしながら、ヴォードのメギドブラスターは城壁山脈へと巨大な穴を穿つ。
それは、戦いの終結を奏で……この城壁山脈に生まれ語り継がれていくであろう、新たな伝説の証拠を刻む一撃であった。