決戦、竜神官グラート3
アルフレッドの剣が、一振りの巨大剣に変化する。
黄金色にも似た宝玉の嵌った巨大剣はそれ自体が凄まじい魔力を放ち、周囲の景色を歪ませる。
星斬剣。その名の通り真価を発揮すれば星をも斬る剣を構え、アルフレッドは飛ぶ。
「う……おおおおおおおおおおおお!!」
風霊鎧装を最大出力で動かし、アルフレッドは縦横無尽に飛ぶ。
目にも止まらぬ速度で振るわれる星斬剣は巨大な怪物達を切り刻み、あっという間に物言わぬ骸へと変えていく。
当然だ。如何に人理を超えた怪物とはいえ、星をも断つ剣に耐えられる道理はない。
「な……っ」
長い時間をかけて作った軍団が蹂躙されていくその光景に、グラートは目を見開く。
ヴォード相手でもかなりの時間を足止め出来るはずだった、自慢の「作品」達。
それが一瞬で消されていく。では、それでは。まさか、あれが。
「お前か。お前が、我々の真の敵か……!」
すでに、動く配下の怪物達は居ない。
空中に浮かぶアルフレッドを睨み、グラートは光線を放つ。
だが、それは星斬剣によって斬られてしまう。
歯軋りするグラートを、ヴォードが空から見下ろす。
「諦めな、グラート。もう終わりだ」
ヴォードから見ても、あの星斬剣という剣はとんでもない代物だ。
アレがある限り、たとえグラートが自分のメギドブラスターを防ごうと勝ち目はない。
何処の英雄の武器かは知らないが……恐ろしい武器もあったものだ。
あれ一つで、グラートの計画は水泡へと帰した。
「まだだ……! まだ、負けては……!」
そうグラートが唸った、その瞬間。
背後にあったグラートの神殿らしき建物から、巨大な闇色の柱が立ち昇った。
ガリガリと不快な音を立てるそれを振り返り、グラートは歓喜の声をあげる。
「おお、おお……! 間に合った! ははは……成功だ!」
「なんだと……グラート、てめえ何しやがった!」
「ははは、ハハハ! 分からんのか。いや、分からんだろうな……! 当然だ、異界の技術だ!」
異界の技術。
その言葉に、アルフレッドが反応する。
グラートもまた、この世界とは違う世界の者。
だが、そのグラートの世界でもこの世界でもない技術のことだろうと予測は出来る。
そして。ドーマとデルグライファが協力関係にあったように、グラートもまた何者かと協力していたとしたら。
「さあ、さあ! お出でくださいませ超竜王よ! 我等が偉大なる指導者、世界全てを支配すべき王よ!」
「なっ……!」
超竜王。『超竜戦記ヴォード』における悪役。
ヴォードが戦う前に止まってしまった「世界」の、最後の敵。
僅かなシルエットと設定のみが存在するだけであったソレを、グラートはこの世界に召喚しようとしていた。
だが、それは「存在しないもの」を引きずり出すに等しい。
言ってみれば幻想の中における幻想。有り得ぬモノを顕現させようという愚行。
だというのに。
黒い光の柱が……ザリザリという不快な音と共に、白と黒の砂嵐のような何かへと切り替わった。
「な、何。あれ……」
シェーラの張った結界の中で、ヒルダは呻く。
見ているだけで不安が増大するような、そんな何か。
この場に陽子が居れば「テレビの砂嵐みたい」と評したたかもしれない。
今はもうない、アナログ放送と呼ばれていたものが行われていた時代に存在したテレビの現象。
この世界ではそんなものを知る者が居るはずもないが……あの柱は今、それにそっくりな現象を引き起こしていた。
ザリザリと、ノイズの柱は音を立てて。
「アルフレッド……! なんかやべえ、アレを壊すぞ!」
「ああ……!」
ヴォードとアルフレッドが飛ぼうとして、グラートの連射する光線に遮られる。
「通すと思うか……!」
「押し通る!」
風霊鎧装を最大出力で起動させ、グラートの光線を避けながらアルフレッドはノイズの柱へと飛ぶ。
あれがどんなものかは分からないが、発生源を壊せば。
そう考え神殿を見下ろすアルフレッドを。
ノイズの柱から出てきた、巨大な腕が叩き落した。
「ぐ……っ!?」
「アルフレッド!」
「アルフレッドさん!?」
ヒルダとシェーラの声が響く。
だが、次の瞬間にはそれは小さな悲鳴のようなものに変わる。
ノイズの柱から出てきた巨大な腕。
竜鱗に覆われたソレに続いて、巨大な竜の頭部のようなものが出てきたからだ。
「おお、おお……超竜王様!」
「馬鹿な……アイツがこの世界に来るってのか……!?」
存在しないものは呼び出せない。
グラート以外の「超竜王の部下」達がこの世界に来ていないように、超竜王もこの世界には来られないはずだ。
明かされなかったアルフレッドの「設定」同様、超竜王もまた設定のみに等しい存在であるからだ。
だが、あれは間違いなく。
「人界を……我が手に……」
声が、響く。
聞く者を威圧するような、竜達の王の声。
「行け、我が忠実なる配下達よ……」
「超竜王様! グラートでございます! このグラートが貴方様をこの世界へとお迎えしたのです!」
「そして、裏切り者を……ヴォードを殺すのだ……」
強烈な違和感。
ギロリと見下ろす瞳がヴォードとグラートを睨みつけ、その顎が開く。
「超竜王様! このグラートこそが貴方様を誰よりも……」
「……やべえ!」
ほぼ直感で、ヴォードは遥か上空へと舞い上がる。
そして、次の瞬間。
グラートを超竜王の放った炎が焼き焦がした。