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OVAの聖騎士様~終わりから始まる英雄譚~  作者: 天野ハザマ
3章:竜殺譚は遥か遠く
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城壁門の町ラグレット8

 翌日。ラグレットの町は一応の落ち着きを取り戻したものの、自分達の記憶のすっぽり抜けた期間と、その間にドラゴン騒ぎに関わる何者かの手先と化していた事で不安の声と……同時にアルフレッド達に対する感謝の声で溢れていた。

 ラグレットの町長の家に招かれたアルフレッド達は、応接室のソファに座り町長と向かい合っていた。


「この度はラグレットを救って頂きまして、ありがとうございます……!」


 町長自身、洗脳されていた間の記憶は無いが……あの夜の状況を見れば「記憶にない何か」が起こった事は一目瞭然だった。

 身に覚えのない覆面や装飾品、そして武器。

 これだけ揃っていて「自分達は何もしていない」というのは、あまりにも無茶が過ぎる。

 むしろ、自分達が何をどこまでしたのかという不安で押し潰されそうなほどだった。

 だからこそ、今回の事件を解決するというアルフレッド達がラグレットの町の住民には神の如く見えたのだ。


「気になさる必要はありません。全ては神のむぐっ」

「まあ、こっちは手練れ揃いですから。ドラゴンの件はお任せください。しっかり解決してみせますよ!」


 シェーラの口を塞いで、ヒルダは笑顔でそう答える。

 どうせシェーラは神の導きとか言おうとしたのだろうが、そんなもので財布も腹も満たされない。


「おお、そう言って頂けますと……! ありがとうございます、ヒルダさん!」

「いえいえ。今回の事件解決の為に、こちらも強行軍で来てます。誰に頼まれたわけでもありませんが……道中の町や村も荒廃していて、色々と大変でした」


 ヒルダがそう言うと、町長は何かに気付いたかのように控える執事へと視線で何かを促す。


「おお、それはご苦労されたことでしょう。そこにきて昨夜の騒動ともなれば……今日は我が家へ泊り英気を養っていってください」

「ええ、ありがとうございます。構わないでしょ、アルフレッド?」


 言われて、アルフレッドは「ああ」と答える。

 アルフレッド自身は昨夜の騒動で疲れる程ヤワではないが、ヒルダやシェーラは違うだろう。

 実際、今日も少しばかり眠そうで……山に連れて行くとなれば、静かな眠りも当然必要だろう。

 加えて言えば、本当に洗脳が解けたのか。洗脳が解けたラグレットの町人達に危険が無いのかも一晩見なければならないだろう。


「それと、些少ではありますが町を救って頂いた件とこれからのドラゴン退治への応援も兼ねまして資金を受け取って頂ければと……」

「いや、それは」

「ありがとうございます! そのご期待に必ず応えてみせます!」


 いらないと言いそうなアルフレッドの声を大声で掻き消した後、ヒルダは「余計な事を言うな」と言わんばかりにアルフレッドを睨みつける。

 アルフレッドが善意の正義漢なのはヒルダも分かっているが……前回も前々回も金が出ていくばかりだったので、そろそろどうにかしたいのだ。

 そしてアルフレッドもそれは何となく察したため、それ以上は何も言わない。

 金が大事なのは分かっているし、ヒルダの方から突いたとはいえ汚い金でもない……まあ、正当な報酬でもある。


「では、こちら200万イエン……金貨でご用意しました。どうぞお受け取りを」


 金貨で200枚。ドラゴン退治をさせられかねない報酬としては本気で些少だし、アルテーロで買った馬車の代金が300万イエンだったことを考えるとまだ赤字だ。

 赤字だが……此処であまり搾り取っても後々の利益に影響するな、と。

 ヒルダは一瞬でそこまで計算して笑顔を浮かべる。


「こんなに多額の……ありがとうございます。しっかりと必要な品を整えて城壁山脈へと旅立ちたいと思います」

「その件ですが……恐らく出発は明日になりますよね?」

「ええ」


 早く行けって話かな……とヒルダは僅かに警戒するが、町長の口から出てきたのは全く別の言葉だ。


「今、町に話を回しておりますが……城壁山脈の道行きに必要な物品に関しては無料でご提供したいと考えております」


 その言葉にヒルダの目がギラリと光るが、そんなものを相手には悟らせない。


「いえ、そこまでして頂くわけにはいきません」

「いえいえ。その程度の事しかできないのが心苦しい程です。受けていただかなければ困ります」

「そうまで仰るのでしたら……」


 一回遠慮してから再度勧められ、受ける。

 これで一応の面目はたっている。

 弱みに付け込んで搾取した、とか搾取された、とかいう噂はこれで互いに否定できるというわけだ。


「全てが終わったら、また必ずこの町に寄ってください。盛大な祝勝会を開かせて頂きますので!」

「ええ、必ず!」


 言いながら、町長とヒルダは固い握手を交わす。

 町長としては新しい伝説で今回の件をプラスに変えたいし、ヒルダとしては今回の件で更に良い話へと繋げていきたい。

 互いの利益に繋がる素晴らしい話……というわけだ。

 一方、正義漢なアルフレッドとシェーラは話に置いていかれ気味だ。

 まあ、話の綺麗さの割には裏に黒いものが見え隠れしていることは、当然勘付いてはいるのだが。

 それにあえて突っ込まないのは……まあ、黒くても悪じゃないと、そんなヒルダへの信頼もあっただろうか。

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