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OVAの聖騎士様~終わりから始まる英雄譚~  作者: 天野ハザマ
3章:竜殺譚は遥か遠く
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城壁門の町ラグレット7

「なんだあ、はこっちの台詞だっつーの」

「うおっ!? 誰だお前!」


 空也を見て更に驚いた男は、次にアルフレッドを見つけて縋りつく。


「き、騎士様!? なんです、この状況は! よく分からんですけど助けてください!」

「ふむ……」


 そんな男をじっと見て……アルフレッドは、男の正体に思い至る。


「そうか、お前は……馬車を預けた店の主人か」

「へ? 馬車を? 騎士様が?」


 そう、その男は広場前の馬車預かりの店の店主の男だった。

 その胸元からはドラゴンをイメージした紋章のペンダントが出ていたが……視線に気づいた店主の男は、ペンダントを見て首を傾げる。


「こんな変なもの……持ってたか……? あ、もしかして騎士様、これ何かヤバいものだったり? お、俺ぁ関係ありませんぜ!」

「いや……それを聞きたかったんだがな」


 店主の男がペンダントを投げ捨てるとチェーンがシャリン、と涼やかな音を立てるが……そのペンダントのデザインは、ヒルダが正体を看破した銅鏡の映し出した紋章と同じものだ。

 つまり、あの盗賊団とこの店主の男……そしてこの場に倒れる覆面の襲撃者達は何らかの関係があるはずだが、店主の男を見る限りでは記憶自体が飛んでいるように見える。


「……洗脳ってやつかもな」

「洗脳?」

「んー、なんて言やいいんだろな。本人の意思と関係なく動かす技術っつーか……」


 洗脳。なるほど、確かに洗脳されていたのであれば店主の言動も納得がいくとアルフレッドは思う。

 恐らくは町丸ごとが洗脳されていたとして、洗脳を解けばその間の記憶も無くなってしまう仕組みだとすれば、実に上手くできていると言えるだろう。


「そうなると、彼等から情報を引き出すことは不可能……か」

「このオッサンの反応見る限り、難しいだろなー」

「え、ちょっと。何の話を……?」


 オロオロとする店主の男を見て、アルフレッドと空也は顔を見合せ……やがて根負けした空也が仕方なさそうに店主の男の肩を叩く。


「あー……うん。オッサンはだな、最近この辺りを騒がしてる事件の関係者か何かに頭の中弄られて、町に来る連中を襲うようになってたんだ」

「は!? じゃあ、此処に倒れてるのがその……」

「いや、それはこの町の他の連中だと思うぜ」


 言われて店主の男が手近な襲撃者の覆面を剥がすと、そこからは輝く竜眼亭の店主の顔が出てくる。

 慌てて他の覆面も剥がしていくとそこからも店主の男の知り合いが出てきたらしく……店主の男はふいらふらと後退り座り込む。


「な、なんてこった」


 記憶にないといっても、怪しげな覆面を被り武器を手に持ったまま倒れている不審者の群れの中身が同じ町の人間。

 そんな状況でアルフレッド達を疑えるわけもない。

 しかも壁が壊れ、あちこちの家具も壊れて。知らないペンダントやら覆面やらまである。

 おまけにこの場で気絶するまでの記憶が無い。最後の記憶は確か、昼間だったはずだ。


「……あの、頭の中を弄られたって、その」

「大丈夫だと思うぜ? こっちのアルフレッドの力で何か消し飛ばしてたしな」

「そ、うなのですか?」

「ああ」


 頷くアルフレッドに、店主の男は安心したように息を吐く。

 だが、その直後……自分が何をしていたのか分からないという事実に気付き沈み込む。


「私は……いったい何をしていたんでしょう。町に来る者を襲うって、そんなことがお上に知れたら……」


 盗賊行為は問答無用で死刑と決まっている。人生が終わったと。そんな顔をしている店主の男に、空也は「大丈夫じゃね?」と気軽に答える。


「大丈夫って、何が……!」

「……いや。確かに大丈夫かもしれない。覆面をしていたからな」

「あっ」


 アルフレッドに言われて、店主の男は先程自分が脱ぎ捨てた覆面を見る。

 確かに、これで顔は隠していた。


「洗脳されていたのであれば、本意ではなかっただろう。罰されるべきはその洗脳を行った真犯人だ」

「で、ですよね……!」

「もし囚われた人間がいるのであれば、俺が救出しよう」

「だな。その間にオッサン達は口裏合わせときゃいいんじゃね? 真犯人に監禁されてたとか、さ」


 空也にそう言われ、店主の男は慌てたように周囲の人間を起こし始める。

 ザワつき始めた宿の部屋の中で、空也はアルフレッドをじっと見つめ……その視線にアルフレッドはジロリと睨んで返す。


「……なんだ?」

「いや、別に。そんな正義の味方っぽい格好のくせに、こういう悪巧みに乗るんだなと思ってよ」


 洗脳されていたとはいえ、このラグレットの者達の罪に変わりはない。

 それを言葉巧みに真犯人に押し付けるというのは、確かに「正義」ではないかもしれない。

 ……だが、アルフレッドはこうも思うのだ。


「正義とは、一つの決まりきった形があるものでもないだろう」

「へえ?」

「何事にも理由があって、過程と結果がある。それを何も考えずに「悪」と断罪するのであれば……その傲慢さもまた、悪に繋がる」


 そう答えるアルフレッドに、空也はしばらくの無言の後……「へっ」と笑う。


「意外に分かってんな、アルフレッド。俺も同感だ」

「そうか」

「ま、俺はこの事件にゃ最後まで付き合えねえけどよ。しっかり解決してこいよ」

「任せろ」


 拳を突き出す空也の、その拳にアルフレッドもまた拳を重ね合わせる。

 それは、違う「世界」の二人の英雄の……小さな、しかし大きな誓いであった。

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