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OVAの聖騎士様~終わりから始まる英雄譚~  作者: 天野ハザマ
3章:竜殺譚は遥か遠く
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城壁門の町ラグレット3

 罠士ギルドの中は明かりが灯っていないせいか真っ暗で、埃臭かった。

 いや……埃臭いどころか、実際に薄く埃が積もっている。

 しばらくの間誰も出入りをしなかったのだろう、歩く度に埃が舞い上がる。


「けほっ、けほっ……えーと、明かりは……っとそうだ。アルフレッド、ドアはちゃんと閉めなさいよ?」

「ああ」


 アルフレッドがドアを閉めると罠士ギルドの中は真っ暗になってしまうが、ヒルダがカンテラに火を灯した事で仄かに明るくなる。

 そして……同時に、罠士ギルドの中の惨状が照らし出される。


「ひっ……!」

「これは……」

「あーらら……」


 そこにあったのは、乾いて黒くなった大量の血。

 壁に飛び散り、あるいは床に流れ……尋常ではない「何か」があった事を示している。

 死体がこの場に無いのは片づけられたのか何なのか……どちらにせよ、此処にいた人間が生きているとは思えなかった。


「一体何があったってのかしらね、此処で」


 こう言ってしまってはなんだが、盗賊ギルドや暗殺者ギルドとしての側面を持つ罠士ギルドを恨んでいる人間は空の星の数程にいる。

 襲撃事件も決して珍しい話ではなく、しかしその全ては秘密裏のうちに襲撃者を処分することで処理されている。

 町のいたるところに目と耳があり、隠密行動と戦闘に長けたプロを多数擁している以上、アルフレッドのような問答無用で全員葬れるような実力者でもない限りは必ず返り討ちにあう。

 プロの暗殺者相手に襲撃を仕掛けるというのはそれ程に恐ろしい事だ。


「鍵がかかっていたが……此処で何かがあったなら、鍵をかけたのは誰だ?」

「さあ。ひょっとすると内輪揉めがあって緊急閉鎖したのかもしれないわね」

「あるんですか? そんなの……」

「珍しい話でもないわよ」


 何しろ、戦士ギルドと違ってお行儀の悪い連中の集まりだ。

 いや、戦士ギルドも結構チンピラじみてはいるが、罠士ギルドは裏世界に全身で浸かっている。

 当然権力争いも血生臭い話になったりする。


「だとすると、此処では何も情報を得られないんじゃないのか?」

「そうでもないのよねえ」


 もし何かがあってギルドを緊急閉鎖しているのであれば、此処に入ってこれるギルド員に向けた暗号が準備されているはずだ。


「と、その前に」


 言いながらヒルダはアルフレッドとシェーラの横を通り抜け、扉の鍵を閉める。


「な、なんで閉めるんですか?」

「念のためよ」


 何もないとは思うが、余計な邪魔が入ってはたまらない。

 ヒルダは周囲をカンテラの明かりで照らしながら歩き回り始める。


「んー……」


 血の跡はとりあえずどうでもいい。此処で何があったかの検証など然程意味はないだろう。

 そんなものを調べるよりも「此処で何があったか」を示す暗号があるかないかの方が重要だ。


 周囲の机、椅子、壁、絵の裏。

 カウンターの後ろへと入り、引き出しもゴソゴソと探り始める。


「あ、金貨」

「駄目ですよ」

「分かってるわよ」


 シェーラにそう答えながらも、ヒルダは金貨を眺めまわす。

 罠士ギルドに硬貨が放置されている。これは、明らかな異常のサインだ。

 基本的にがめつい人間しか居ない罠士ギルドに硬貨が放置されている事など、たとえ引き出しの中だろうと有り得ない。

 硬貨の一枚くらいと思うかもしれないが、罠士ギルドに関しては銅貨の一枚だろうと絶対に有り得ないのだ。

 その有り得ない事が起こっているというのはつまり、これは緊急時のサインということだ。


「……」


 カンテラの光の中でヒルダは金貨を確かめる。

 何の変哲もない金貨。それに触れるヒルダの手が、恐怖に僅かに汗ばむ。

 金貨の存在。それは最大級の警告のサインなのだ。

 そんなヒルダの異常に気付いたのだろう、近寄ってくるアルフレッドに「なんでもないわ」と告げる。

 流石に罠士ギルド内での暗号をアルフレッド達に教えるわけにもいかない。


 金貨が示しているのは「文書に残る形での暗号は残す事不可能。最大級の問題発生、当該地域での全業務停止。各自、あらゆる全てを疑え」だ。

 

 こんなものが残されているということは、想定していた以上に状況は最悪だ。

 つまり……この町の罠士ギルドが、実質上「潰されて」いる。

 公的権力が相手という程度であれば、銅貨や銀貨での警告になる。

 少なくともヒルダの知る限りでは金貨が使われた事など無い。


「……」


 金貨を引き出しに戻すと、ヒルダは考え込むように黙り込む。

 罠士ギルドを潰せるような相手。それは想定していた通りに何らかの組織で間違いないだろう。

 罠士ギルドに対抗するような組織の話は聞いたことが無いから、今回の事件に関わっている何かであるのは恐らくだが間違いない。

 しかしそれは、裏に潜って活動している罠士ギルドの活動全てを潰せるような相手ということになる。

 それは……非常に拙い。


「……アルフレッド、シェーラ。よく聞いて」


 どのあたりまで説明するべきか迷った後に、ヒルダは静かな口調で語りだす。


「たぶんだけど……この町、ヤバいかもしれないわ。確実に何かが潜んでる。ひょっとすると、今すぐ出た方がいいかもしれないくらいよ」

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