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OVAの聖騎士様~終わりから始まる英雄譚~  作者: 天野ハザマ
3章:竜殺譚は遥か遠く
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城壁門の町ラグレット

 城壁門の町ラグレット。

 城壁山脈の登山口の前に作られたその町はそう名乗り、町を発展させる為の宣伝材料とした。

 竜殺しの英雄アダートの伝説発祥の地だとか聖地だとか、まあ色々と宣伝したわけだ。

 その中には各地に伝える為に吟遊詩人を雇ったり立派な本を作ってバラまいたりというのも含まれるが……その甲斐あってか、ラグレットは「城壁門の町」ラグレットとして有名になった。


 城壁山脈の登山口もラグレットの町から直接向かえるという事で人気になったし、その先に新たな竜殺しの伝説への道が開けるのではないかと信じる血気盛んな若者達がラグレットに集い城壁山脈の冒険に旅立ったりした。

 最近はそれも少し落ち着いていたのだが……そんな彼等も、こんな騒ぎになるとは思っていなかっただろう。

 この町がどうなっているかはシェーラの最大の懸念でもあったのだが、見えてくる町を見てシェーラは「え」と声をあげる。


「門兵が……いる……?」


 ラグレットの町を覆う石造りの立派な壁と、開かれた大門。

 そこに立つ門兵を見て、ヒルダも「へえ」と呟く。


「この騒ぎでも逃げてないってこと? やるじゃない」


 馬車は門前で門兵達が手を上げるのに合わせて止まり、御者席のアルフレッド達の元へと一人の門兵が走ってくる。


「随分と立派な格好の騎士様だな。そっちは神官様と……えーと」

「仲間よ」

「お、そうか」


 ヒルダが何なのか迷っている様子の門兵にそう答えれば、兵士は何かを察したかのように頷く。

 愛人か何かと思われているのかもしれないが、もしそうならヒルダはアルフレッドからもっと搾り取って色々儲けて豪遊しているはずだ。

 そもそもそういう軽い女と思われた辺りが不快でもあるのだが、アルフレッドが何も気にしていない……門兵が何を思ったかなど興味の範疇ではないのだろう、とにかくヒルダも気にしない事にする。


「で、今日はラグレットに何の用だ?」

「何の用って。何よ、随分胡乱な事聞くわね」


 観光でもっている町が聞くような事でもないだろうし、今の状況を考えればむしろ「おお、騎士様!」と諸手をあげて歓迎しそうなくらいだとヒルダは思う。

 そんなヒルダの視線に気づいたのだろう、門兵は困ったような笑顔になる。


「あー、すまないな。色々とピリピリしてるんだ」

「気持ちは分かるけど」


 ドラゴンが本当に出たともなればラグレットだってドラゴンの炎に焼き尽くされるかもしれない。

 変な奴がドラゴンを刺激するだけ刺激してラグレットに逃げてくればラグレットが焼かれるかもしれないという危惧だってあるだろう。

 だが、そんな事をせずとも焼かれている町だってあるのだ。


「此処に来るまでにドラゴンに焼かれた町や人の居なくなった村を幾つも見ました。この町は無事だったのですね」


 シェーラがほっとした顔でそう問えば、門兵も笑顔で頷き返す。


「そりゃそうさ。ラグレットはそんなにヤワじゃあない。てことは、わざわざ様子を見に来てくれたのか」

「ええ、それにドラゴンの件も解決したいと考えています」

「へえ……てことはそっちの騎士様が神官様の聖騎士ってわけか」

「はい!」

「はいじゃないでしょうが、こいつは……」


 ヒルダが手を伸ばしてシェーラを抓るが、シェーラの鉄壁の笑顔は崩れない。


「ははは、モテモテだな聖騎士様!」

「そういう関係ではないが……」


 アルフレッドの抗議を、門兵は聞いている様子もない。

「いい加減にしてください!」とアルフレッドを挟んでの抓り合いになったシェーラとヒルダを引き離すと、アルフレッドは溜息をつき……門兵は大笑いする。


「まあ、とにかくようこそ。ゆっくりしていってくれ」


 大丈夫という合図なのだろう、何かのサインをもう一人へと門兵が送ると、門前に残っていた門兵が持っていた槍で地面を叩く。


「よし、進んでくれ。宿は今ならあちこち空いてるからな。選び放題だぜ」

「お勧めはある?」

「全部お勧めさ。これ以上は言わせんでくれ。俺だって恨まれたくはない」


 門兵がうちを勧めなかった、癒着してるのか……などと言われてはたまらないのだろう。

 なんとも複雑な表情をする門兵にヒルダも察して「そりゃそうね」と頷き返す。


「ほらほら、進んだ進んだ!」


 急かされアルフレッドは馬車を門の中へと進ませ……それを見送った後に門兵も配置へと戻っていく。

 そうして入ったラグレットの町中はガランとしてはいるが……変わらず人の営みがあることが分かる。


「なんかこう……ほんと意外ね」

「そうですね……」


 旅人や商人の類が居ないから門前の広場は空っぽだが、子供達が平和に駆け回っているのも見える。

 なんとも普通なその光景に、ヒルダもシェーラも肩透かしをくらったような気分になる。


「い、いえ。何事もないのは素晴らしい事なのですが」


 慌てて取り繕うシェーラに、ヒルダも「そうね」と返す。

 

「何もないってんなら、今日は宿でゆっくり出来そうね。ドラゴンの事は、明日からじっくりやりましょ」


 どうせアルフレッドの事だ。城壁山脈に登るとか言い出しそうだし、それならせめて今日はゆっくりしたいとヒルダは思う。


「……そうだな。今日はこの町で様子を見るとしよう」

「お、アルフレッドも話が分かるじゃない……今日はちょっと良い宿にしましょ」


 言いながらアルフレッド達は、広場前の馬車預かりの店へと進んでいく。

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