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OVAの聖騎士様~終わりから始まる英雄譚~  作者: 天野ハザマ
3章:竜殺譚は遥か遠く
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対抗手段は

「どうする? この場に今日は留まる? ひょっとするとまたゴーストの一体でも出るかも分からないわよ」

「……そうなら倒しておきたいが……」


 アルフレッドの答えはもう予想出来ていたが、シェーラは意外にも考え込むような様子を見せる。

 だがそれはゴーストを倒す事を躊躇っているのではなく、この場に残る意味を考えているが故だった。


 この場に留まりゴーストが出るなら、それは村人が殺され埋められているという証明になる。

 それは同時にこの村から金目のものや金属類を持ち出したのが村人ではないという証拠にもなる。

 逆に何も出ないのであれば、物品を村人が運び出し何処かに持って行った可能性は高くなるだろう。

 

 だが、この場に留まるということはそれだけ事件の解決が遅くなるということでもある。

 もしかすると今この瞬間にもドラゴンの脅威に曝されている人達がいるかもしれない。

 そんな考えは、この場に留まる事をシェーラに躊躇わせていた。


「私は……進むべきだと思います」

「意外な答えね」


 実際、ヒルダはシェーラの出した結論が意外だと思っていた。

 シェーラはこの場に居るかもしれないゴーストを浄化したがると思っていたし、それは休息をとっておきたいヒルダの考えとも一致していた。

 次が城壁山脈の入り口の町……ということは、そこには間違いなく何かが待ち構えている。

 いや、それ以上に此処から先に進めば進むほど危険度も上がると思っている。

 ならばこの辺りが比較的安全に休憩できるポイントだと思ったのだが……。


「この先に、救いを求める人達がいるかもしれません。私達が足踏みすることでその可能性が減る事を許容できません」

「ゴーストは救いの対象じゃない、と?」

「意地悪な質問ですね」


 シェーラは苦笑するが、すぐに真面目な表情になる。


「生きている人間と死んでしまった人間であれば、当然生きている人間を優先します。それが最終的に全ての救いになると信じていますから」


 一切の迷いのないその目と言葉に、ヒルダは肩をすくめてみせる。

 なるほど、実にアルフレッド好みの答えだと思う。

 恐らくはこれも計算ではないのだろうが、聖国の放浪神官なんてものをやっていただけはあるということだろう。

 打算に満ちた普通の神官とは違って、実に模範的だ。


「……ま、そういうことならアルフレッドに判断を任せるわ。どうする?」

「進もう」


 当然アルフレッドからはそんな答えが返ってきて、ヒルダは仕方ないと気合を入れ直す。

 少しばかり強行軍になるが、意外と何もないかもしれない。

 そうである事を祈るばかりだが……。


「……ん?」


 何かに気付いたかのように、アルフレッドが剣に手をかけ空を見上げる。

 アルフレッドの動きに、まさかとヒルダやシェーラも空を見上げるが……そこには何もない。

 青い空が広がるばかりで、鳥の一羽すらもいない。

 その事実に少しばかりほっとした顔をしながらもヒルダが「どうしたのよ」と聞いても、アルフレッドは無言のままだ。


「アルフレッドさん?」


 シェーラが心配そうにアルフレッドの服の裾を掴んで問いかけて。そこでようやく、アルフレッドは剣にかけていた手を離す。


「何かに見られていると思ったんだがな……」

「え、やめてよ。怖いんだけど」


 ヒルダは気味悪そうにあたりを見回すが、アルフレッドに見つけられないものが見つかるはずもない。


「さっさと行きましょ。空から襲われたくなんかないわ」

「そう、だな」


 尚も警戒しながらアルフレッドは馬車の御者台に乗り、その横に詰めるようにヒルダとシェーラもアルフレッドを挟んで乗る。


「……どうした?」

「アンタが怖い事言うからでしょ! 何かあったらアタシはすぐ死ぬのよ!?」

「えっと……私はそのー。いざという時にすぐに動けるようにしておきたいなあと」

「そうか」


 二人の言い訳を一言で済ませると、アルフレッドは馬車を次の町へと向けて進ませ始める。

 この場でアルフレッドが何か言ったところで結果が変わらないのを分かっているからでもあるし、実際に守りやすいからでもある。

 

「つーか、空から視線とか……思いっきりドラゴンじゃないの。まさか透明になれるんじゃないでしょうね」

「ドラゴンが魔法を使うというのは事実らしいです。ひょっとすると出来るのかも……」


 ヒルダとシェーラは囁き合うと、アルフレッドを見つめる。

 ヒルダは、アルフレッドが非常識なのも強いのも知っている。たぶん空の敵にも何らかの手段があるだろうとは思っている。

 シェーラは、アルフレッドの事を信じたい。しかし空飛ぶドラゴンに対抗手段があるのかどうかが分からない。

 そんな二人の視線に耐えかねたのか、アルフレッドはふうと息を吐く。


「たとえ空から襲い掛かってきたとしても対抗手段はある」

「それでこそアルフレッドよね! で、何隠し持ってるのよ! 空飛ぶ船!?」

「へ!? 空飛ぶ船!?」


 ヒルダの言葉にシェーラが素っ頓狂な声をあげヒルダが「やべっ」という顔になるが、今更だったかと元通りの表情になる。


「どうなのよ。何持ってるの?」

「そうだな……」


 アルフレッドは馬車を操る手を止めないまま思案気な顔をして……やがて、フッと笑う。


「秘密だ」

「あ、コラ。教えなさいよ!」

「私も知りたいです! 空飛ぶ船って……まさか本当にそんなものを!?」

「揺らすな」


 左右から揺らされるアルフレッドは迷惑そうな顔をするが……そんな三人を乗せた馬車は、街道を賑やかに進んでいく。

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