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OVAの聖騎士様~終わりから始まる英雄譚~  作者: 天野ハザマ
3章:竜殺譚は遥か遠く
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滅びた町にて5

「……え? あっ!」


 朝。馬車に差し込む光に、シェーラは目を覚ます。

 あれからどうなったのか、それすら見届ける事無く気絶してしまったが……助かったのか。

 それを確かめるかのように慌てて馬車の外に出ると、そこでは火を起こして干し肉を焙っているアルフレッド達の姿がある。


「起きたか」

「あ、アルフレッドさん……? ということは、私達は……」

「ああ、君の魔法で全てのモンスターは消滅したようだ」


 そんなアルフレッドの言葉にシェーラは安心したように座り込み……ほふう、と息を吐く。


「……よかった」

「確かに凄かったけど、無茶しすぎよ。アンタ、あれからずっと気絶してたのよ?」


 焼いた干し肉を差し出してくるヒルダに、シェーラは思わず視線を泳がせる。


「え、えっと……あの時はあれしかないかな……と思ったもので。確かにちょっと無茶はしちゃいましたけど」

「アルフレッドに任せときゃ、大体は片付くのよ。出来る範囲でやらなきゃ命が幾つあっても……」


 足りない、と。そう言いかけたヒルダの肩を、立ち上がったアルフレッドが叩く。


「無茶を、俺は咎めない。咎められるべきは無謀の方だからな」

「似たようなもんでしょ……」

「違う」


 ヒルダの言葉を、アルフレッドは明確に否定する。


「無茶は勝算がある上で行う行為だ。無謀は称賛も無しに行う無為だ。そして仲間が無茶をするというのであれば、俺はそれをサポートしよう。それで「無茶」は無茶ではなくなる」

「アンタはまた、そういう事を……」


 ヒルダは呆れたように溜息をつくが、シェーラはそんなアルフレッドをじっと見上げる。


「でしたら……」

「ん?」

「でしたら、無謀でもやらねばならない時に私がそれに挑んだならば。アルフレッドさんは、私を止めますか?」

「止めない」


 止めると言うだろうと思っていたヒルダは、そんなアルフレッドの返答に目を丸くする。


「やらねばならない時なのだろう? ならば俺は、共に無謀に挑もう。そうすれば、無謀が無茶程度には変わるかもしれない」

「……変わらないとしても?」

「それでも、やらなければならないのなら」


 迷いのないアルフレッドの答えに、シェーラはぎゅっと拳を握る。

 それは、シェーラが放浪神官として旅を続ける理由でもある。


 誰かが、やらなければならない。

 何処かで誰かが泣いていて、救いの手が届かない場所が何処かにある。

 それを救いたくて、シェーラは旅をしている。

 今回だって、ドラゴンが相手だろうと救いを諦めたくなかった。

 でも、誰も話を聞いてくれなくて。

 シェーラの手にある力は、あまりにも小さくて。


「……やっぱり、私は」


 だから、求めていた。

 放浪神官と共に世界を巡る相棒を。

 生活を、運命を。あらゆるものを共有し共鳴し合う、聖騎士を。


「貴方が、欲しい。アルフレッドさん、貴方が欲しいです」

「……それは」

「分かっています」


 否定される前に、シェーラはアルフレッドの言葉を遮る。

 教国の教義にアルフレッドが従わない事など、分かっている。

 そんなものでは、動かない。


「貴方の正義を縛ろうとは思いません」


 この場において。少なくとも、動かない教国よりもアルフレッドの方が正しい。

 そして、シェーラは教国の教えを広める為に動いているわけではない。

 その行動規範は、常に救いの為に。その為であれば。


「私が、教国を捨てましょう。貴方が私に寄り添うのではなく。私が貴方に寄り添いましょう。私の出会った聖騎士……黄昏の聖騎士アルフレッドに、神官シェーラは付き従います」

「どう違うのよソレ……」

「大違いです。私の信ずるものではなく、アルフレッドさんの信ずるものを私も信ずるのです。いわば改宗ですね」


 うわ……とヒルダは嫌そうな声をあげる。

 いい事を言っている風だが、より重くなっただけに聞こえる。


「つまり自由神官ってことでしょ? アルフレッドが信じてる神とかいるわけないし」

「あー……いや。神の実在は一応知っているが」

「なんと! それは教国が信じる神ですか!?」


 目を輝かせるシェーラに揺さぶられ、アルフレッドは「あー……いや」と答えてしまう。

 女神ノーザンクには自分の事を言うなとは言われていないし、いいか……とも思う。


「女神ノーザンクだ。この世界でどういう位置づけかまでは……」

「では私も女神ノーザンクを信じましょう。御姿をご存知なら、後で教えてくださいね」


 やる気になったシェーラにアルフレッドは無言でシェーラに干し肉を渡すが……シェーラがそれに齧りついた隙にヒルダはアルフレッドを引っ張って馬車の前……馬が干し草を食べている辺りに連れて行く。


「……どうすんのよ。あの神官女、あの調子だとこの先ずっとついてくるわよ」

「別に問題はないだろう。彼女がどうするかは彼女の自由に任せるべきだ」

「教国絡みの面倒事を一つ抱えたって分かってんの? 世界で一番関わりたくない面倒事じゃないの!」

「だが彼女は教国とやらを抜けるんだろう?」

「こっの単純正義バカ……!」


 それでめでたしで終われば、教国はウザがられていない。

 たぶん今回の件が無事に終わろうと終わるまいと、アルフレッドはきっと何処かで目を付けられる。


 ……だが、まあ。考えてみれば遅いか早いかだけの差でしかない事にもヒルダは気づいてしまう。

 シェーラの有無など、誤差でしかないのだ。


「……いや、まあ。うん、いいわ。これもきっと運命ってやつよね」

「よく分からんが、達観するには早いと思うぞ」

「誰のせいだと思ってんのかしらね……!」


 久々にアルフレッドの非常識さを痛感したヒルダではあったが……やがて諦めて肩を落とすと、食事に戻るのだった。

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