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OVAの聖騎士様~終わりから始まる英雄譚~  作者: 天野ハザマ
3章:竜殺譚は遥か遠く
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怪しげな金属板

 怪しげな金属板を持ち帰ったヒルダは、馬車の中でそれを弄くりまわしていた。

 最初はそっとしていたシェーラも流石に気になったのか、読んでいた経典から顔を上げヒルダの手元に視線を送る。


「なんですか? それ」

「ん? んー……よく分かんない」


 見た目は、普通の銅板に見える。

 厚みはそれなりで、形は長方形。

 表面に何かが描いてあるわけではなく、つるりとした磨きぬかれた表面を見る限り銅鏡のようにも思える。

 しかし、人攫いどもが鏡なんか使うとも思えない。

 ヒルダの仕事道具にも確かに鏡はあるが、使うなら銅鏡ではなくちゃんとした鏡を使う。

 逆に今の時代、銅鏡の方が探すのがめんどくさそうだ。


「ていうか、意外にツッコミ遅かったわね」

「いえ、お仕事道具だと思ったものですから。下手に口を出すものでもないかな、と」

「あー……」


 罠士ギルドにも顔を出していたくらいなのだから、罠士の仕事道具がどういうものかという何となくの知識はあったのだろう。

 その辺りを深く突っ込むと自称正義としては口を出さざるを得ない状況になる為自重していた……と、まあそんなところだろう。


「これはそんなんじゃないわよ。あの人攫いが大事そうに持ってたの。何かあるんじゃないかと思ったけど……うーん」


 こういう物の仕掛けには詳しくはないが、このつるりとした表面を見るに何処かが外れるとかいう仕掛けは無さそうだ。

 中に何かが入っているかとも思ったのだが、そういう仕掛けもありそうにはない。

 

「んー……絶対何かあると思うんだけど」


 表面をヒルダは撫でてみて……突如、その僅かな違和感に気付く。


「今、何か……」


 微妙に、おかしいところがあったような。

 もう一度慎重に金属板の表面を撫でて、ヒルダは「あっ」と声をあげる。

 ほんの僅かではあるが……微妙に、金属板の表面に歪みがあるのだ。


「いや、でもこんなの……」

「何かありましたか?」


 覗き込んでくるシェーラに、ヒルダは金属板を見せる。


「この表面、物凄い微妙だけど歪みがあるっぽいのよ。まあ、こんなもん誤差の範囲内でしょうしC級品と考えれば珍しくもないけど」

「え? 歪み?」


 ヒルダから金属板を受け取ったシェーラは傾けたり横から覗いたりと金属板を注意深く眺めまわすが、その頭の上には疑問符が浮いているようである。


「え? え? ごめんなさい、全然分からないです」

「あたしだって気付いたのは偶然に近いわよ。ていうか、難癖レベルのものだし。そんなもんが何かに繋がる、とは……」


 キラリと金属板の反射した光の先。そこに映るものを見て、ヒルダは「げっ!」と叫ぶ。


「な、何これ!?」

「は?」


 ヒルダの視線の先を追うようにシェーラが振り向くと、金属板に当たっていた光が遮られ「それ」が消える。


「ちょっと、その金属板返して!」

「はあ、どうぞ」


 シェーラから金属板を取り返したヒルダは馬車の外から差し込む光を金属板に当て、馬車の壁へと反射するようにする。

 そうすると……馬車の壁に、ドラゴンをイメージしたと思われる紋様が浮かび上がる。


「な、なんですかこれ!? ドラゴンの呪い……いえ、でも魔力は……!?」

「これって……そうか。鏡の凹凸か何か……よく分からないけど、加工でこういう風になるようにしてるんだわ。ちょっと見たくらいじゃそうだと気付かないようにしてある……」


 ヒルダのように、何も仕掛けが無い銅鏡だと判断して終わる事も多いだろう。

 まさか鏡ではなく、鏡が光を反射した先に答えがあるなど誰も思わない。


「何なのこれ。ドラゴンの秘宝ってこと……? いや、違うわよね……」


 ドラゴンがこんなチマチマした銅板など作るだろうか。

 いや、答えは否だ。となると、放浪神官を殺したであろう「何か」と繋がりのある道具と考えるのが自然だ。


「こんなもんを作る……作れる連中が居るのね。だとすると、どう考えても並の組織じゃないわよ」


 技術力、あるいは組織力。ドラゴンの紋章を掲げて、教国の神官や聖騎士を手にかけているのだ。

 恐らくは戦力だってそれなりのものがあるはずだ。


「一体、何者なのでしょう……まさか、ドラゴンを使役できるような何者かが今回の事件を?」

「モンスターテイマーってこと? 有り得ないわよ。ドラゴン使役できるなんてなったら、この世にほとんど敵が無いわよ」


 勿論、アルフレッドであればどうにかなるだろう。戦力という点ではヒルダはあまり心配してはいない。

 だが、組織相手ではどうだろうか?

 こんなものを隠し持つ組織相手に、アルフレッドという個人は対抗しきれるだろうか。

 恐らく、アルフレッドに勝てないと知れば罠だって仕掛けてくるはずだ。


「……間違いなく、相手は何らかの組織よ。ドラゴンを利用してるのかどうなのかは知らないけど……無関係は有り得ない」


 噂だが、人間の言葉を理解するドラゴンもいると聞く。

 ならば、そういうドラゴンと互いに利用し合っている連中がいたとしても不思議ではない。


「恐るべきことです。悔い改めさせなければ……」

「そういうのは任せるわ。ま、たぶん無理でしょうけど」


 何者かに送り込まれたという、異世界の悪。

 アルフレッドから聞いた話を思い出しながら、ヒルダは金属板を箱の中に入れ直した。

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