【薄幸少女】ガイド兼ポーター
サブタイトルにある【】は視点の主を示しています。
今回は【薄幸少女】です。
「ええと……私、エメって言います!!
ガイド兼ポーターとしてしっかり頑張ります!!
今日一日……よろしくお願いします!!」
そう言って私は、二人の冒険者に頭を下げた。
それはもう、ぶんっと音が出るくらい勢いよく。
心なしか、声も踊っていたと思う。
だって嬉しかったんだもん。
昨日は誰も雇ってくれなかったし……今日も、時間的にも危うく仕事からあぶれてしまうところだったから。
やったねミケちゃん、今夜はごちそうだよ!
……基本的に料金は後払いだから、まだ報酬が貰えるかどうかは分からないけどっ!
私の最大限の謝辞に、目の前の冒険者二人が、困惑顔のまま立ち尽くしていた。
名前は確か……クレマンさんとニューさん。
成り行きで私の今日の雇用主になった二人。
ダンジョンの町、いいかえればダンジョンしかないこの町に冒険者がいるという事は、その目的もまたダンジョンしかない。
……はずなのに……目の前の二人は困ったように立ち尽くすだけだった。
「あの……? どうしたんですか? ダンジョンの探索に向かわないんですか?」
私の素直な問いかけに、二人はもう一度顔を見合わせた。
「い、いやその……まだ、メンバーが揃ってないんですよ」
躊躇いながら、周囲を見渡しながら、ニュー神官が答えた。
そう言われて私は改めて二人を見た。
なるほど、この二人がどれほどの手練れかは知らないが、確かに二人だけのパーティと言うのはあまり聞かない。
ニューさんが回復系、クレマンさんが戦士か剣士……そう来れば、後は魔法系のメンバーが一人くらいはいてもおかしくないだろう。 欲を言えば、罠解除や危機察知のサポートにスカウト系やレンジャー系の人が一人欲しいところ。
さらに言うなら、回復、戦闘、魔法のどれかにももう一人ぐらい欲しい……まあこれは、そのパーティの思想によって配役が変わってくるので何とも言いにくいけど。
まあもちろん、頭数が増えれば報酬分配の分母が増えるので、多ければ多いほど良いというものでもない。
大事なのは安全と収支のバランス……これもそれぞれのパーティの思想によるし。
やがて、一人の大柄な女性冒険者の人がやってきた。
「ご、ごめんなさい……遅くなっちゃった……」
身長だけじゃなくって……うっ、いろいろと、なんだか、大柄の人。
でも、なんだか少し、力ない小声。
おっきなおっきな胸元、それをあからさまに隠すようにしながら、その女性は走ってきた。
そのしぐさに、私は違和感を覚えた。
いやまあ、たしかに女性にとって胸元は周囲の視線を一番感じるところ。
男性は気付かれていないと思っているようだけど……女性にとって、男性の『視線』は本当に『刺さる』のだ。
『見られている』というのは、本当に感覚でわかってしまう。
それは、まだまだ子供である私でさえ時折分かってしまうレベル……なんでだろう、私なんてぺったんこなのに。
それはきっと、女というものに生まれつき備わった固有スキルなんだと思う。 あえて名前を付けるなら……『視線感知』。
そのスキルが過剰反応しているのか、その女性は相変わらず胸元を隠しながら、息を整えている……心なしか、表情が沈んでいる。
……恥ずかしがり屋の人なのかな?
「遅いわ、フェリシー!! いつまで寝てやがったんだよ!」
クレマンさんの遠慮のない罵声に女性、フェリシーさんのいろいろ大きな体がしゅん、と縮こまる。
「うぅ……ごめん、クレマン兄さん。 ちょっと……いろいろあって……」
気まずそうに視線を落とし、そのまま少し横に反らすフェリシーさん。
……ていうか、ご兄妹だったんですか!?
何というか……フェリシーさん、お気の毒に。 私は素直にそう思った。
消え去りそうにもじもじするフェリシーさんの姿に、クレマンさんは躊躇を見せる。
「お、ぉおう。 ……随分素直じゃねえか。
それになんだよ、そのしぐさ。
バカでかいチチをそんなに隠しやがって。 誰もお前みたいな大女のチチなんて見やしねえっての!!」
本当に、本当に遠慮のない言葉を叩きつけるクレマンさん。
対してフェリシーさんは、ますます身を縮める。
「うぅ……ひどいよ、兄さん……」
クレマンさんの言葉に反抗せず、消え去りそうな口調で抗議するだけのフェリシーさん……その言葉が予想と違ったのか、クレマンさんはさらに躊躇を見せる。
「……お前、大丈夫か? なんか、悪いもんでも食ったんじゃねえか?
それとも、持病の爆乳が悪化したのか?」
「た、確かにまたちょっと大きくなったけど……それはそれでひどいよ兄さん……」
……なにこのバカ兄妹。
ていうか……フェリシーさんはここまで言われてなんで怒んないの!?
「まあまあ、お二人とも……兄妹コントはそれくらいにしてください。
それよりも、フェリシーさん。
どこかお加減でも? よろしければ私の回復魔法で……」
意外と神官らしいことを言いながら心配そうに手を差し伸べるニューさん……しかし。
「に、ニュー!! い、いいから!! 大丈夫だから!!」
フェリシーさんはさらに胸元の何かを隠しながら、戦闘中のバックステップのような勢いでニューさんから距離を取る。
それに驚いた表情を見せてから、ニューさんは苦笑を見せた。
まあ、あまり無理はしないでくださいね、と声をかけて素直に引き下がるニューさん。
それに、フェリシーさんは無言のままこくんと頷いた。
「ああ、なんだフェリシー、アレか、アレの日だったか」
横からバカでかい声で、納得したように言うクレマンさん。
……フェリシーさん、代わりに私が殴っていいですか?
だいいち、アレと胸には何の関係も……あ、でもサイズが少し変わるっていう人もいるらしい。
まあ、どちらも私には関係ない話だけれども。
「ま……いいや。
今日は下調べだけの予定だったんだがな。
話のながれで、ダンジョンに入ることになっちまったんだよ、フェリシー」
話の流れ、と言うところで私の方を見ながら、今までの暴言などなかったかのように平然と話を続けるクレマンさん。
それにフェリシーさんが険しい顔を見せる。
「ええっ!? 大丈夫なの、兄さん」
「深層までは行かねえよ。 ただの様子見だ。
とりあえず全員揃ったことだし。
あまり大したことはなさそうだが……とりあえず、この町のダンジョンを拝見させてもらおうじゃねえか」
やはり先刻の暴言などなかったかのように、クレマンさんはそう言った。
……まあいいや、スルーしてあげよう。
クレマンさんのそれは私の仕事開始の宣言とも言える。
私は、私自身の気合を入れなおすことにした。
「はいっ!! 道案内はお任せください!!」