【吾輩】大いなる団の円
サブタイトルにある【】は視点の主を示しています。
今回は【吾輩】です。
「令嬢の顔に傷をつけてしまったからな。
だったら、俺が責任を取るしかない。」
「「「ええええええええええええ!?」」」
潔い、潔すぎるクレマンの身の振り方に、フェリシーとエメとニューが一様に動揺を見せる……と言うか、完璧なハモりだ。 仲いいな、君ら。
「そ、それは……随分とまあ、思い切り思い切りましたね……」
「そ、そっかぁ……ず、ずいぶん年下のお義姉さんが出来ちゃったなぁ……」
「「ともかく、おめでとうございます」」
またも見せる、フェリシーとニューの完璧なハモり。
それにクレマンは満足そうに頷く。
「うむ」
「ちょ……待ってくださぁい!!
何ですかそれ!?
わ、わたし……今日初めて会った人たちに、初めてあった人との結婚を決められちゃってるじゃないですか!?
わ、わたし……未成年、というかまだ未成年にもなってませんよ。
未・未成年というか……そ、それに。
だ、駄目ですよ……わ、私には、養わないといけないミケちゃんが……」
エメの絶叫に、吾輩は……実はこっそりフェリシーのパーカーの頭部分の中に入っていたのだが、そこからにゅっと顔を出しながら、エメの言葉に応じた。
「ねうー(呼んだ?)」
「ひいっ!! 既にミケちゃんまでNTR?」
その光景に……エメは絶望的な表情を見せる。
うんうん、NTR……街中で猫好きの人間が良く感じる感情だよね。
自分ちの猫がよそで餌貰ってたり、仲のいい野良猫が違う人に撫でられてたりするのを目撃したら、そういう感情になるよねえ。
それに……クレマンが応じた。
額が触れ合う程の距離で、クレマンは静かにささやく。
「なんだよ……全財産とやらと俺、どっちが大事なんだ?」
「う、え、そ、それは………」
「俺の顔がそんなに気に入らねえか……?」
そう言いながら、さらに顔の距離を縮めるクレマン。
たまらず、エメは顔を反らす。
「そ……そういう訳ではありませんが……」
反らして見せたエメの顔は真っ赤っかになっていた。
「じゃー文句はないな。
エメ、お前は今から……俺のヨメだ」
「……は、はぅぅ……アスペじゃなくって、『俺様』だったんですね……」
意外と押しに弱いエメは、顔を真っ赤っかにしたまま、完全に押し切られようとしていた。
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その時だった。
ざざっ!!!!
四人の周囲を、不意に殺気と人影が取り囲んだ。
反射的に臨戦体制をとる冒険者たち。
そこにいたのは……兵士たちだった。
一号ダンジョンの入口を守る、王都から派遣された精鋭の兵士たち。
彼らは一様に無言のまま、クレマンたちを完全に包囲していた。
そのまま……数秒の対峙。
やがて兵士たちの口から、膨張した内容物が器から溢れ出すように……静かに言葉がこぼれる。
「我らの」
「心の」
「癒しを」
「奪う事」
「あたわず」
「「「「「「「「「「以下同文!!」」」」」」」」」」
そう言って兵士たちは、クレマンの腕にあるエメの姿を眺めながら……静かに抜刀していた。
……何やってんの、このロリコン兵団!??
だが、応じたクレマンもまたロリコンの極意を知る者だった。
「おもしれえ!! 嫁は戦って奪い取れという事だな!??
全員まとめてかかってこいや--!!」
「「「「「「「「「「「「「「「応!!」」」」」」」」」」」」」」」
そして……吾輩たちの目の前で、乱戦が始まった。
まさしく乱戦……なんだか、兵士同士でも戦闘が始まっていた。
ロリコンとは、業の深い漢たちを指すのだと……吾輩は初めて知った。
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ついでに、もういっちょ『その時』。
一号ダンジョンの入口の門……そこからこちらの様子をうかがう者がいた。
「……?」
大鬼の姿をしたシノニムが、こっちを見て不審そうにしていたのだ。
もう出てもいい? そう言っているようであった。
正義の合体ロボの合体バンクを待っている悪役のようであった……なんて律儀なシノニム。
だが……こちらは取り込み中だった。
仕方ない……吾輩が相手をするか。
「あゥん、マスター、変なとこ踏まないでください」
抗議するフェリシーを放置したまま、その肩(および胸)に乗ったまま、吾輩は網膜投影されたスキル一覧の中から……『雷獣』を選んだ。
なん十年前に連載が開始され、近年になってアニメ化された少年漫画の金字塔である作品に登場する妖怪……名前は伏せるが、その妖怪のモデルの一つと言われる、日本の妖怪だ。
スキルを行使した瞬間……吾輩の体躯は、正しく「とら」のように巨大化……はしなかったが、尻尾が七本に分かれた。 教科書に出てくる『七支刀』。 まさにあの姿だ。
そしてそのまま……七本の稲妻を、大鬼に叩きつける。
すると……大鬼は、その一撃で消滅した。
ドライアイスのように黒い霧を放ちながら……最後に立派なアイテムをドロップした。
それは槍だった……まさか『獣の』って名前の槍じゃなかろうな?
その攻撃は「バァン!!」という大騒音を引き起こしていた。
当然、その場にいた全員の注目を集める。
その視線の先は、吾輩……ではなく、フェリシーに向けられていた。
……吾輩はさっさとパーカーの後ろの部分に潜ってしまったからだ。 ハンモックみたいで気持ちがいいんだ。
「な……何という強力な一撃……」
「ま、まさか……第五層の階層主か!?
なぜこんなところに……ま、まさか階層主ではなく、浅層エリアの主だったのか!?
誰も倒すことができなかったシノニム……それを一撃で!?」
「あの主が倒されたとすると……ダンジョンの攻略はずいぶん進むぞ!!
この町は………さらに発展するぞ!!」
兵士たちの口々から驚嘆の言葉が漏れる。
そんな視線を感じ、吾輩は静かに命じた。
「ねうー(お前がやったことにしといて)」
「むえっ!? わ、私ですか!?
う、あー、はー、はい、すみません、私がやりました」
謝罪会見のように、深く頭を下げて見せるフェリシー。
ずいぶん誠意が見えないお辞儀だった。
賞賛の為の絶叫が、数秒遅れた。
ただしそれは、熱狂的なものになっていた。
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