表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

【薄幸少女】逃走と交渉

サブタイトルにある【】は視点の主を示しています。

今回は【薄幸少女】です。

「だ……大丈夫だよ、きっと。


 あ、あのサイズだから……大広間から出てこれないって……そ、そうだよね?」


 フェリシーさんが、先ほどまで私たちを守っていた『門』を指さしながら、震える声で呟く。


 しかし。


 暗がりからじっと私たちを見つめる昏い双眸……それに不意に怒りに満ちる。


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 いかなる言語にも当てはまらない獣の咆哮。 それでも、怒っていることは十分伝わった。 それはもう、これ以上ないくらいに。


「!! 身体が……動かない!!」


 大鬼が発した『大鬼の咆哮』に……私たちは『数十秒間行動不能』になった。 それはその場にいた四人すべてに適用された。


 その間に……大鬼は門に突進した。


 岩同士がぶつかり合うような、大音量の破壊音。


 そして……信じられないことに、大鬼は完全に門を破壊し、こちら側の小部屋に侵入を果たしていた。


 ただし……その大きく崩れた瓦礫に完全に埋まっていた。


 そのまま埋まってしまえばよかったのに……瓦礫は、少しだけ動いている。


 それは卵から鳥のヒナが出てくるようなさまを連想させた。


 誰が見ても、逃げるなら今だった。 先ほど私たちが防衛のかなめにしていたほどの門を、一撃で瓦解させるような相手……逆立ちしたって勝てるわけがない。


 そして……その破片が飛んできたのだろうか。


 フェリシーさんの身体を、大量の血が滴り落ちて行く。


 しかし……皆、動けなかった。


 それほどまでに、私たちと大鬼の技能レベル差が大きいのだ。


 卵の孵化ふかのような、大鬼の瓦礫からの脱出。


 それが進んでいくさまを……私たちは眺めるしかなかった。


 その孵化が終わってしまったら私たちはどうなるのか……精神衛生の為、私は考えるのをやめた。


 その孵化が終わる前に……意外にも、真っ先に『行動不能』から回復したのは私だった。


 その次にニューさん……彼我の距離と効果に関係があったのかもしれない。


 実際、クレマンさんとフェリシーさんはまだ『行動不能』のままだった。


 私は早速、クレマンさんのもとに駆け寄った。


「クレマンさん、逃げますよ」


 有無を言わさない進言。 立ったまま動けないクレマンさん、しかし横目でわずかに頷く。


 意思疎通は出来そうだった。


 だから……私は交渉を開始した。

「まずは……ドロップ品は諦めて下さい。 いいですね?」


 耳元で言う私の言葉に、クレマンさんは静かに頷いた。 私は続ける。


「あと私の全財産……と言ってもこの荷物袋だけですけど、これを補償してください。


 でないと、お二人を担いで逃げる事が出来ません。


 御了承いただけますか?」


 私の言葉、『お二人を担いで逃げる』と言う部分に、クレマンさんは怪訝そうな表情を見せたが……しばらくの沈黙ののち、やがて小さく頷いた。


 それに私は笑顔を見せる。


「では……交渉成立ですねっ!」


 元気に言うと私は……今まで背中に背負っていた荷物袋を勢いよくおろした。


 ずがっしゃん!!


 今まで背負っていた……一〇〇キロ近い私の全財産は、大きな音を立ててその間に落下した。


 そのまま私は、クレマンさんとフェリシーさんの身体の前に立ち、二人の身体を二つに折る。


 そして左右の肩で担ぐ。


 同時に、孵化が終わった大鬼が、怒りの咆哮を再度上げながら追撃を開始する。


 だけど私は……案内役ガイド荷物運びポーター


 普段の荷物さえ降ろしてしまえば……人間二人運ぶだけなら、空荷と変わらないほどの速さで走ることができる。


荷物運びポーターを……舐めるなぁぁぁぁ!!」


 そして私は……驚いた表情を凍らせたままのニューさんとともに、全力疾走を開始した。

「……驚きました……エメさん、『肉体強化』のスキル持ちだったんですね……」


 ニューさんが、走りながら私に問いかけていた。


 そんな場合じゃないんだけど……まあ私にも体力的に若干余裕があったので、応じることにした。


「……はい。


 だって私、物心ついた時から荷物運びポーターやってますんで。


 いつの間にか身についた感じです。


 ……たまに人間を運ぶこともあるので……まあ、慣れてますよ」


 成人男女を両肩に担ぎ、かつ全力疾走する成人男性と並走しながら、私は応えていた。


 全く『肉体強化』さまさまである……胸とか胸とか胸も強化してくれたらいいのに。


 ……なお……人間を運び慣れていると言っても、主に人間の死体だけど。


 冒険者相手の荷物運びポーターなんてやってたら……たまにある。


 戦闘中に死亡してしまう事がある冒険者……野垂れ死にするのはともかく、そのまま放置してしまうのはかわいそうだし。


 その搬送……まあ、当然特別料金は貰うけど。


 さすがにそんな余計なことは口にしなかったが、私の言葉に得心した様子でニューさんは頷いた。


 その表情が、再び怪訝そうに変わる。


「でもそれって……ブースト☆☆ダブルブースト級ですよね。


 失礼ですが、荷物運び以外に、もっと適職はあるでしょう。


 騎士どころか、近衛兵……いや、師団長にだってそれほどのスキル持ちはいませんよ!?」


 ……うっ、痛いところを突かれた。


 私は少し恥ずかしくなって……声を小さくさせながら、ニューさんに応じる。


「い、いえ、その……剣技とか盾術とか……そう言うのが全く身に付かないもので。


 現状じゃ、これしか他に適職がないんです……」


「………………………」


 信じられない、と言う顔をしながらニューさんは私の顔を見た。


「……教育というものの……重要性を再認識しましたよ……」


 よく聞こえなかったが、ニューさんは静かに呟いていた。


 ぎらり……その目の奥が一瞬、昏く輝いたような気がした。


 問い返そうとした時……不意に前方から光が差した。


「お、おい!! 中はどうなってる!?


 今朝から誰も上がってこないんだが……っ!!」


 この声は、聞いたことがある。 何人かいる、一号ダンジョンの門番の一人の声だ。


 その声を聞いて、私はやっと安心した。


 そのまま全力疾走し、私たちは……開け放たれた門まで走り抜け、久しぶりに太陽の光を全身に浴びることができた。


 弾けるような解放感。


 ……その中でよぎった、「あれ? ニューさんが『照光☆』を解除するだけで良かったんじゃあ……」と言う疑念を……私はあえて消し去った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=111133599&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ