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第8話:ランスロット君が臭いの巻

 結局ランスロットが帰られる方法が見つかるまで、お店番として雇う事にした。

 といっても、三食仮眠付きで給与は発生しないんだけどね。

 お店番という名の、体のいい情報提供者兼、店舗周辺の見張り役。

 と思ったら、基本は朝夕の2食の生活らしいので2食+おやつで雇った。


「あの……ここはお店だったんですか?」

「ふーん……君の国ではこのようなインテリアの住宅があるのかね?」


 こいつはアルバイター、俺より立場が下だ。

 そう俺は上司!

 悪いが俺は部下には強いんだぜ?

 てわけでもないが、こいつはのっけからやらかしてきたからね。

 あと雇用契約を書面で交わしたわけでもない。

 さらにいえば色々と胡散臭いから、なるべく上下関係はしっかりした方がいいと判断。

 嘗められると、絶対にふざけたことをされそうだし。

 命の恩人に対して、平民から徴発とか口走るようなやつだ。

 格下認定されると、何を言われるか分かったもんじゃない。

 お調子者の雰囲気もあるし。


 基本的に前職で先輩や周囲に嫌な目に合わされたから、なるべくアルバイトの子達には優しく接している。

 結果……結構なめられてる訳だが。

 だってヤンキーとか怖いし……

 まあ度が過ぎた奴には立場を分からせることも大事だから、そこは勇気を振り絞るけど。


 でも、こいつは力も俺より下……

 命の恩人というでっかい貸しもある。

 そう俺は、こいつに対してのみ絶対強者なのだ!

 ふはははははは!

 と調子に乗ってみたが、本音はさっきので概ね間違いない。

 こいつに調子に乗せると、嫌な予感しかしない。

 ドッキリかなにか分からないが、封建社会っぽい設定を言ってたからな。

 

 じゃあ、上の立場に逆らった俺は、切り捨て御免の可能性もあるわけだ。

 その可能性が万が一も無いからの強気。

 彼の持ってた武器は、お店の外に放置されているし。


「いえ、このようなお店も見た事ありません。というか……商品も見た事のないものばかりですね」

「うん、そういえばこの辺ってお店っていったらどんな感じ?」


 俺の質問に対してランスロットが教えてくれた設定内容は、基本的に存在するお店は食材を取り扱うお 店、それも肉専門だったり、野菜果物専門だったり、魚専門だったりと全てを取り扱うお店は存在しないらしい。

 また調理済みの料理は、少ない品数を専門に販売する屋台と、貴族しか利用が出来ないお菓子を取り扱うお店、そして飲食店のみとの事だ。

 うんうん……文明度がかなり低く設定しているのが伺える。


 しかも冷蔵技術もそこまで発達していないらしく、基本は捌いたら当日に売り切るか、干して加工するくらいしかしない。


 魔道具屋があり、大手商店だと冷蔵の魔道具を利用して多少は日持ちをさせる事も出来るらしいが、その魔道具の減価償却を考えると、まとまったお金が無い場合廃棄のコストの方が安く上がるとか。

 ただの冷蔵庫を魔道具とか大袈裟だな。


 魔道具屋の取り扱う商品内容を聞くと、家電屋というかホームセンターというか……概ね現代の技術で出来るものの劣化版をとんでもない金額で売りつけるお店らしい。

 冷蔵庫も魔法を圧縮した魔石というものを箱の上に置いて冷気を放出し庫内を循環させるものらしく、魔石1つで1ヶ月ほど冷蔵効果があるらしい。

 魔石のサイズによって冷蔵期間は変わるらしいが、一番コストパフォーマンスが良いのが1ヶ月程度のものらしい。

 とはいえ、それでも月に金貨で2枚くらいの維持費がかかるとか。

 うん、金貨の価値が分からない。


「この国では主に銅貨を使います。銅貨10枚で普通のパンが買えます。銅貨100枚で銀貨1枚になります……で、銀貨100枚で金貨が1枚です」


 感覚的に銅貨1枚が10円くらいかな? じゃあ、金貨1枚といったら10万円じゃ無いか!

 アホらしい。

 初期投資が金貨20枚……で月に金貨1枚。

 それなら、在庫をコントロールして多少のロスならば捨てた方がマシだな。


「そ……それにしても、ここは魔道具屋さん……でも無さそうですが……商品の品質がとてもじゃないですが、信じられないレベルですね」

「うん? 普通の物しか置いてないけど?」


 商品1つ1つを手に取って、目を輝かせながらランスロットが確認している。


「写実画家のトップクラスの人を専属で雇っているのでしょうか? 商品の外装が本物と見紛うばかりの出来栄えですね。これなら一目で何が入っているか分かります。それに、入れ物も見た事の無い素材のものばかりですね」


 まあどうなんだろ? 時代的にはいつの時代に設定してあるのか分からないが、話の内容から推測するに500年~1000年は遅れた文明度のようだ。

 魔法がもしあるなら、それのせいで他の技術の進歩に多大な障害になっている可能性を組み込んだのか?


「この飲み物が入った柔らかいガラスのようなものとかなんなのでしょう? というか、普通にガラスも形が綺麗すぎますね。この透明な瓶1つで銀貨50枚~金貨1枚、色付きのものなら金貨3枚はしそうです」


 ブッ!

 思わず吹き出してしまった。

 まさか商品より入れ物の価値の方が遥かに高いとは。

 銀貨だの金貨だの、おもちゃじゃねーよな?

 金メッキならまだしも、金色のプラスチックのお金渡されたらブチ切れる自信はある。


「そう言えばお腹空いてない?」

「えっ? いえ……今日はまだ何も食べていないので、かなり空腹です」


 なんか昔の人を相手にしているみたいで、ちょっとした悪戯心が沸いてきた。

 なかなか優秀な俳優さんなのかな?


 とりあえず、ブリトーを1つ手渡す。


「えっと、これはパンに何か赤いソース……トマトでしょうか?トマトソースとお肉が入ったものですか? それとチーズっぽいですね」


 パッケージを見てランスロットが思ったままを口にしている。

 正解なんだけどね。

 やっぱり一目見て商品が分かるってのは大きいよね?


「でも、ちょっと冷たいですね。こういった食べ物は冷えてても美味しいのでしょうか?」

「ああ、ちょっと貸してみ」


 俺は一度ランスロットからブリトーを受け取ると、電子レンジであっためる。

 約15秒ほどで完成だ。

 何故か、10秒待たずにレンジが仕事を放棄したけど。

 別に良いか。

 お客さんじゃないし。


 それでもホカホカになったブリトーの袋の口を開けて、もう一度ランスロットに手渡す。


「えっ? 温かい?」


 ランスロットが手に持った商品と俺の顔を交互に見ている。

 うんうん、反応が新鮮で面白くなってきた。

 さらに食べるように促すと、恐る恐るそれを口に含む。

 そしてゆっくりと咀嚼すると、目を大きく見開く。

 それから、飢えた獣のようにガツガツと食べ始め、あっという間に空になった袋見つめ呆然とし大きく溜息を吐いた。


「こ……こんなに美味しいものは初めて食べました。僕はなんで一気に食べてしまったのでしょう。もっとゆっくり味わって食べたかった……」


 それからガックリと項垂れてしまった。

 こいつ結構おもしれーな。


「まあ他にも食べ物はいっぱいあるから、また後でね。取りあえずランスロット君、君結構臭うよ?」


 そうなのだ、この男かなり汗と泥の混じった匂いで臭い。

 俺は消臭殺菌スプレーを持ってくる。


「えっ? そんなに匂いますか? あ、でももう3日も水浴びしてませんし……寝る時以外鎧も着たままですしね」


 うわ……ガチできたねーわそれ。

 水浴びって時点で色々とあれだが、3日間ほぼ鎧を着たままだったらそりゃ臭くもなるわな。


 そこまで役作りに……流石に無理があるか。

 薄々本当にここは、今までの世界と違うというのは理解している。

 かなり早い段階で……ただ、これを佐藤さんにどう伝えたらいいのか……

 早い話が、現実逃避してたわけだ……


 地震直後に起こった周辺環境の、ありえない変化。

 パラレルワールドに、パラドックス。

 自分との遭遇。

 ふふふ……さんざん、非現実な体験をしておいて現実逃避とはこれいかに。


 とりあえず非現実な現実を受け入れつつ、目の前のすえた臭いの男に目を向ける。

 見た目がすでに臭ってるからな。

 髪も油でギトギトベトベトだし。


 顔が油ギッシュなおっさんに言われたかないだろうが。

 酷いもんだ。


 こんなん消臭殺菌スプレーでどうにか出来るかな?

 そんな事を考えながらスプレーをシュッと吹きかけてみる。


 はっ?


「うわっ! なんですか? もしかして僕も消されるの?」


 確かに蚊をスプレーで消し飛ばしてはきたけど、流石に人間相手にそれはしねーよ。

 というか、スプレーを吹きかけた途端に全身が淡く光ったかと思うと臭いが完全に消えてなくなって、辺りが爽やかなフローラルの香りに包まれる。

 思わず自分の手にとった商品をマジマジと見つめる。

 す……すげーな。

 最近の消臭スプレーってこんなに進化してたのか……って、んなわけあるか!

 殺虫剤もそうだが、この世界で自分の世界の商品を使うと効果に大幅な上方修正が加わってる気がする。


「な……なんですかこの匂い。す……凄く良い匂いですが、僕の身体から漂っているような……」


 と……取りあえず臭いは解消されたから良いけどさ。

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