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第6話:ストロードラゴンですか?いいえ蚊です。

「取りあえず仕組みは分からないけど、あの蚊みたいなのを殺すと痩せるみたい」

「そうみたいですね」


 遠くの方にもう一体増えたデカい蚊を見ながら漏らす。

 マジでなんなんだろうね……


「蚊の……呪い?」

「うん……それで痩せられるなら俺は満足だけどね」


 佐藤さんが物騒な事を言ってるけど、俺からしたらこんなに簡単に痩せられるのは良い事だな。

 あの蚊もっと出て来ねーかな。


「でもっとうわっ!」


 パチン!

 耳元でブーンという音がしたので、思わず手で払う。

 というか、さっきの騒動の間に普通サイズの蚊が入り込んでたのか?

 それとも、元居た世界の蚊か……それはかなり可能性が低いけど。

 


「普通サイズの蚊もいるのか……」

「みたいですね」


 取りあえず殺虫剤を吹きかけておく。

 シュパン! っという音がして、蚊が消し飛んだ。

 あれっ? 殺虫剤ってこんなんだったっけ?


「えっ?」


 と思ったら佐藤さんも同じ事を思ったみたいで、口を半開きにしている。


「最近の殺虫剤って凄いんだね?」

「えっ? いや、そんなはずは……」


 というか結構科学が発展して網戸に虫よけとか、玄関に置くだけのタイプもかなり進化はしたのだが、それでもどこからか入り込んでくるのが奴等だ。

 そして、Gも健在だ……

 とはいえ、こっちはガチで巣ごと、卵ごと殺虫出来るので殆ど見かける事は無いし、一匹いたところですぐに殺虫餌を置いておけば1ヶ月くらいは見なくなる。


「あの蚊を殺しても特に変化は無しと……取りあえず、ここがどこか分からないし病原菌が怖いからネオベープネクストを設置しておこうか」

「そうですね……」


 店内の入り口付近と、4隅、それからトイレにベープを設置しておく。

 佐藤さんも手伝ってくれた。

 最初はお客さんにこんな事をと断ったのだが、もうお金もありませんし食事の分くらいは働きますと言ってくれた。

 ええ子やー……こんな子がお嫁さんなら……

 まっ、無理ですけどね。

 しかし、少し俺に気を遣いすぎな気がしなくもない。


「さてと、取りあえずそろそろ寝ませんか? 私が先に見張りますので、あっちでベッドを……あっ、僕のベッドじゃ嫌ですよね? えっと……もうちょっと待ってください」

「いや、私はこっちで適当に寝ますから……」


 うん、やっぱり嫌なんだね。

 ちょっと待っててね。

 すぐに俺は自分に電話をする。


「おい俺、ちょっと布団一組買って来て」

「えっ? もしかして?」

「もしかしねーよ! 俺の布団で女性が寝たいと思うか? 仮に俺が居ないとしても!」

「お……おう。もうちょっとオブラートに包んで欲しかったぜ」

「あの……気を遣われなくても」

「いいから、いいから!」

「分かったよ……」


 電話を切って、しばらく店内でボーっと過ごす事にする。

 と言っても、特にすることも無いんだけどね。

 そういえばテレビって映るのかな?


「そうそう寝る時のルールとか、後は必要なものとか考えておかないとね」

「そうですね。というか、私は別に店内に布団を引いて寝ても良いんですけど?」


 実は、少しじゃなくて本気で興味あったのかな?

 コンビニのお店で寝るの。

 確かに、非日常ではあるけども。


 でも、それは認められない。


 だって、何かあったときに最初に被害が出るのがお店の方だからね。

 そこは、2階の家の方が全然安全だろ。

 一応2階も全てシャッターが閉まってる状態だが、窓が外の光に似た光を窓が放ってくれるのと、あと一応外の景色を映し出してくれるから特に気が滅入るとかって事はないしね。


 まず寝る時だが、夜は彼女が俺の自宅スペースを使って寝る事になった。

 その間、俺は見張り役だ。

 で昼は俺が寝る代わりに、彼女に店内のスペースで外の様子を見張ってもらう事にしてある。

 幸い店内側の電話から内線を鳴らすと、こっちの俺の自宅に繋がったのでこれだけは助かった。


 バックヤードの電話からの内線は、店も家もあっちに繋がったけど。

 食事も基本的に交代で食べる事にした。

 バックヤードを通る時は、基本あっちの俺に連絡することにしてあるが、バックヤードとカウンターの防犯カメラもネットワークカメラに付け替えて、ゆくゆくは店内から様子を確認しながら通るという事で落ち着い居たけどね。


 っと、バックヤードからノックが聞こえる。

 どうやら、俺が布団を買ってきてくれたようだ。


 ちなみにこれ、俺と佐藤さんだけの特殊技能っぽい。

 あっちの俺がアルバイトの子に扉を叩かせてみたけど、こっちには何の反応も無かった。

 割と強めに叩いたらしいが、それでもドアが揺れたり音が聞こえたりってのはない。

 ただ、あっちの俺がドアを叩くと、こっちのドアが。

 こっちの俺がドアを叩くと、あっちのドアで音がなる。


 だから、基本的にノックでの呼び出しは、あっちの俺専用。

 俺が叩くと、俺以外の誰かが入ってくる可能性があるからね。

 こっちからは、電話でのやり取りが基本になる。


 先に電話をしてからバックヤードに入る。


「お……おう、結構凄い量だな」

「ああ、色々と買って来た。取りあえずマットレスと布団に毛布と掛け布団」

「結構高そうだな」

「ああ、奮発した! それからアロマに、女性用のボディソープやらボディタオル、あと生活用品一式買いそろえて来たぞ!」

「うん……同棲の準備みたいだけど、いまお前が言ったもの布団以外全部こっちの店内にあるからな? これ完全デッドストック状態だからな?」

「Oh……」


 Oh……じゃねーよ!

 本当に俺かと思う程、頭がわりーな。

 でも逆の立場だったら同じことしてたかもしれんわ。


 それから、何故かスマホをもう1台契約してきたとのこと。

 何故?


「毎回、自分の番号から掛かってくるとか、俺って分かっててもドキドキするんだよ!」


 ああ、ホラー的にね。

 分かる。

 俺だから。


 そして、あいつ持ってきたスマホだが……向こうから掛けたら圏外扱いだった……

 まあ、存在してないからね。


 そして、抜け道も発見した。

 スマホ本体をバックヤードに置きっぱなしにして、こっちにブルートゥースでベアリングした何かを用意すれば、向こうの俺から掛けても使えることが……


 ―――――――――

「じゃあ、本当にお先に休ませてもらって大丈夫ですか?」

「ええ、お気になさらずに。取りあえず、フックだけはしっかり掛けてもらって大丈夫ですし、各部屋にも鍵は付いてますから」

「あっ、はい分かりました」


 うん、戸締りする気満々なのが伝わって来たよ。

 さてと、彼女は自宅スペースに行ったようだけど……マジどうしよう。

 めっちゃ暇や!

 ああしまった!自宅からゲームでも持ってきてたら良かったわ。


「……」


 ん?


「……っ……て!」


 なんか聞こえる。


「誰か!……誰か居ませんか!」


 ああ、外の声か……

 取りあえず外のカメラの映像を確認すると、完全武装の人間がめっちゃシャッターを叩きながら剣を振り回してる。

 うん……見なかった事にしよう……


「助けて! 誰か! ちょっ!」


 凄く必死な様子が伝わってくるが、現在進行形で助けてもらいたいのはこっちの方だ。

 ここまで完全武装なコンビニ強盗とか、清々しすぎて逆に笑えてくるわ。

 入れないけど。


「おねがっ! ちょっ危ない! ヤバッ! 誰か居ませんか!」


 はあ、うるせーな。

 もう一度カメラの様子をしっかりと見ると、鎧姿の男の周りを数匹の蚊が取り囲んでいる。

 ああ、これガチでピンチな奴だな。

 さあ、どうしよう……

 でも剣持ってるやつとか入れたくないしな……


 あっ、サトウさんの車の後ろに隠れた。

 ……いや、そりゃあの蚊の口の前じゃ隙間に隠れても、意味ないよね?

 慌てて、また建屋に駆け寄ってきて、シャッターを背に盾で蚊の攻撃を防いでいる。


「えっと……取りあえず武器を捨ててくれませんか?」

「はっ! 誰か居たけど、あんた馬鹿ですか! 僕に死ねって?」


 そうだよな……この状況で剣とか捨てたら一斉に襲い掛かられて終わりだよね。

 うん、でも剣持ってるような人とか入れたく無いんだけど。


「てか、蚊くらいで大げさな……その剣で、殺したらいいじゃないですか。的はあんなに大きいのに」

「いや、無理! 無理ですよ! その前に刺されて、死んじゃいますって」


 本当に大げさだ。

 そんな物騒ななりをしておいて。

 しかし、色々と突っ込みどころが満載だな。

 

 薄々そんな気がしていたが、ここは日本どころか地球ですらないかもしれない。

 過去へのタイムスリップとか、色々な可能性を考えたけど。

 真剣に考察を始めると、サトウさんの元気がみるみる無くなっていくからやめた。

 たぶんサトウさんは現実逃避して、問題を先送りにするタイプなのだろう。


「ちょっ! 聞いてますか? た! 助けて!」

「あっ、ごめん」



 目の前の男や、周囲の景色。

 それから蚊を見て、色々と考え込んでしまった。


「ああ、取りあえずその蚊は追い払うからさ、ちょっと離れてて」

「いや、壁を背にしてないと背後から刺されて終わりますって。ああ、もう早く入れてくださいよ!」


 流石に金属を突き破るほどの口ではないらしく、盾で肌の露出した部分を守ればどうにかなるようだ。

 なってないな……丸みを帯びた部分で防いでいるらしく、滑って刺さってないだけっぽい。

 鎧に傷が増えていってるし、時折刺さってるのも見える。

 すぐに振り払っているが。

 下にも何か着込んでいるのかもしれない。


「えー……入れるのは、やだ」

「ちょっ!」


 ちょっ! は俺のセリフだ馬鹿野郎。

 どこに剣を振り回した全身甲冑野郎を、はいどうぞと中に入れる奴がいると思うのか!

 馬鹿め!


「まあ、取りあえず蚊だけはなんとかするわ」

「か? さっきから貴方がおっしゃってるのは、あのストロードラゴンの事ですか?」

「うん? なにそのカッコいい名前。ちょっと、そこんとこ詳しく「詳しくは後にしてください! どうにか出来るなら早く!」」

「はあ……分かったよ」


 俺は自動ドアを1cm程っておい!

 目の前の男は一生懸命そこの隙間に指を突っ込もうとしているし、こじ開けようと必死で片手でドアをガリガリしている。


「おいっ! 鍵掛かってるからこれ以上開かないよ? というか、やっぱりお前侵入が目的じゃねーか! そのままそこで死ね!」

「いや、ちょっマジでシャレにならないんですって!」

「たかが蚊に刺されたくらいで」

「いやいやいや! あいつらあの口から体液全部吸い取りってうわっ!」


 どうやら蚊の一匹が男の肩を掠めたらしい。

 幸い鎧の肩当が弾かれて、肩には刺さらなかった。

 蚊の口に、肩当が刺さっているけど。

 うん、普通の平たい場所や取っ掛かりがあったら、金属すら貫くのね。

 怖いね……この辺りの蚊。


「ほらっ、鎧着てたら大丈夫そうじゃん?」

「いや、普通に貫通してますから。ごめんなさい……本当に助けてください……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……助けて……助けて……助けて……助けて……助けて……」


 あっ……これマジな奴だ……

 取りあえずここから離れる気も無さそうなので、俺はドアの隙間に殺虫剤を差し込んで噴射する。


 スバシャァァァァ!


『『ギャアアアアアアアアアア!!!!』』


 男の正面に居た2匹のでっかい蚊の頭が消し飛んだかと思うと、そのままフラフラと地面に落ちた。

 HA?

 というか、死体近いから……ちょっ、マジもうこっから出れねーあっ、身体が熱い……

 見ると凄い勢いで湯気が出てた。


「えっ?」


 目の前の男が、急に頭が消し飛んで落ちていった蚊を見て驚いたのか、ゆっくりとこっちに振り返る。


「はっ?」


 そして、全身から湯気を放つ俺を見てまたも驚いている。


「あっ……進化おめでとうございます」


 それから丁寧な口調で、俺を祝福してくれる。

 っていうか、いま聞き捨てならない事を口走ったよね?

 進化?

 本当にあるの?

 というか、殺虫剤の威力が凄すぎて怖い……

 ナニコレ……

 これもう人も消し飛ぶんじゃね?

 でも、人体に無害がこの殺虫剤最大の売りなんだけどね。

 と思ったら横から来た蚊が、目の前の甲冑男に口を突き刺そうと迫っていて。


「危ない!」


 咄嗟に俺は殺虫剤を噴射する。

 はっ?

 悪いけどジョイントされたストローから出るはずが無い量の霧が噴射され、蚊が跡形もなく消し飛んでしまった。

 ちなみに男の身体にも触れたようだが、まるですり抜けるかのようにして蚊の方に向かっていっていたので、人体に無害は間違いないらしい。

 でもそういう意味だっけ?

 成分が無害なだけで……通り抜けるとか……アース製剤さん凄すぎ。

 日本スゲエエエエエ!

 あっ……また身体が……てか、もうズボンがなんか民族衣装みたいになるくらい縛られてるっ……てめっちゃバックヤードからノックの音が鳴り響いてる。

 やべー!


「あの……」

「ちょっと、待ってて!」


 俺は反対側の蚊にもスプレーを噴射すると……あっ……なんか蒸発したかのような、あたかも最初から存在しなかったかのように霧散してったわ。

 もうええわ! っていうかまた湯気が……やべー! 待ってろ俺!

 っとその前に……

 ダッシュで店内に戻って虫よけスプレーを取って来る。

 それから甲冑男にスプレーを振りかけまくる。


「これで、しばらく虫が寄ってこないからそこに座ってて」

「えっ? それなんて魔法ですか?」

「魔法? 頭大丈夫か? まあいいや、待ってて!」


 俺がダッシュでバックヤードに入ると、ちょっと脂肪多めの筋肉質っぽいガッチリした男が頭を抱えて座りこんでガタガタ震えていた。


「あれ? 俺は? っていうか、森居さんか……つーか、店長は?」

「あっ、自分ですって……誰?」


 顔を上げた男は、どこか俺にそっくりだった……


ブクマ、評価、感想頂けると嬉しいです。

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