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第3話:蚊…大きすぎやしませんかね?

「色々と掃除とか料理とかすいません」


 俺もお風呂に入って大分さっぱりした。

 取りあえず店内に戻りながらお礼を言う。

 彼女はファッション雑誌を立ち読みしてたが……ここって服屋とかあるのかな? 

 というか、そもそもここがどこなのかが分からない。


「ふふっ……そういう時はすいませんより、有難うって言われたいですね」


 彼女に突っ込まれてしまった。

 前の職場で壮絶ないじめ(今となっては壮絶というより稚拙とも思え、もう少しうまくやれた気もするが)にあってから謝り癖がついてしまっていて、業者さんや外の人を相手にすると何かとすいませんが口癖になっていた。


 でも、基本的にすいませんで会話は成立する。

 すいませんは、万能だ。


 病院で見た光景だが、おそらく医療機器の販売の人だろう。

 受付に入って来る時に「すいません(失礼します)」

 看護師さんが「ああ、すいません(お待たせしました)」

 セールス「すいません(こちらを、お持ちしました)」

 看護師「すいません(ああ、わざわざどうも)」

 セールス「すいません(こちらにサインを)」

 ペンも差し出す。

 看護師「すいません(お借りします)」

 セールス「すいません(お手数お掛けしました、有難うございます)」

 看護師「すいません(こちらこそ、どういたしまして)」

 セールス「すいません(失礼しました)」

 看護師「すいません(有難うございました)」


 でやり取りを終えてたのを見た事がある。

 いや、嘘みたいな本当の話だよ? 


 どうでもいいか……

 というか、ちょっと彼女が打ち解けた気がする。

 化粧と一緒に心のガードも落としてきてくれたのかな? 


「そうですね、有難うございます。それより気が利かなくてすいません。お店じゃ寛げないですよね? 家使っても良いですよ。自分はバックヤードで寝れますし」

「いや、そんなの悪いですし……人の家で一人って落ち着かないですよ。それにコンビニって落ち着きますよね?」


 そうですか……うちより、店の方が落ち着きますか。

 って、そういう訳にはいかないよね? 

 女性をこんな無機質な店内で生活させて、自分は家で寛ぐとか流石に女性と付き合った事の無い俺でもそれは無いって事は分かるからね。


「うーん……自分としては、佐藤さんを一人店内に残して、布団で寝るってのもちょっと」

「気にしなくて良いですよ。そうですね、毛布か何か貸してもらえたら店内でも寝れますし……ちょっと、特殊な体験でワクワクします」


 気にするわ! 

 それに本人は努めて明るく振舞っているつもりだろうが、不安に思っているのは見てわかる。

 思ったよりも、取り乱してないけど。

 それと、店内で寝るのは本当に、少しワクワクしてそうだけど。


「そうだ、化粧水と乳液使わせてもらいましたよ」

「いや、それこそ気にしなくて良いんですけどね……俺使わないし」


 コンビニって本当に多種多様な商品があるから、こういう時はちょっと有り難いよね。


「あれだったら、向こうの俺に普段使ってるコスメ買って来させましょうか? 」

「フフッ……」


 何故笑われたし! 

 おっと顔に出てたらしい、彼女が慌てて手を振る。


「いえ……まさか店長さんからコスメって言葉が出てくるなんて思わなくて」


 呼び名は店長で決定と。

 というか、俺だってコスメくらい言うわ!

 

 ハゲだからか?

 デブだからか?

 おっさんだからか?

 全部だからですね……はい。


 普段からコスメとか、言うし。

 男も美容を使ってあたりまえの、今どきだし。


 嘘です……たぶん発注以外のプライベートで口にしたのは初めてです。

 実際はコスメってなんだか良く分からない。


「すいませんね」

「あっ、いまのすいませんはちょっとムッとしてますね。ふふっ」


 うん、イントネーションや語気ですいませんって意味変わるよね。

 外人さんには絶対に理解されない言葉だけど。


「いえ、本当はプライベートでコスメって初めて言いました」

「プライベートじゃないと使われるんですか?」

「ほらっ、発注の時とかに業者さんに対して使う事はありますよ」

「ああ、そうですね。それはこちらが失礼しました」


 そう言ってペコリと頭を下げる佐藤さん。

 うん、こんな可愛い子に素直に謝られたら許す以外の選択肢が出てこないわ。

 昔のお笑い芸人のチュン海井の「ほれちゃうやろー」ってネタを全力で出来そうだわ。

 結構メディアに対するPTAの圧力がきつくて、ここ15年ネタ番組というものが放送されてないから、今じゃみんな昔のネタ番組をネットからダウンロードして見ている。


 そこらへんは昔の方が良かったな。

 実際に反対している50代~60代の人たちなんて、ギリリアルタイムで見てたくせにズルいよな。

 というかこういったお笑いの過去の遺産を専門に使う、死語使いなる芸人も多数居る。

 ぶっちゃけ、体の良いパクリ芸人としか言いようが無いが。


 元ネタの芸人達も、本来なら大御所と呼ばれる人になっててもおかしくないのだが……メディアの露出が減ってからラーメン屋やったり、ピザ屋やったり、サラリーマンになったりと時代は大きく変わった。

 今でも芸人やってる人たちは路上ライブや、劇場でなら会う事は出来る。

 ぶっちゃけ劇場組は余裕で富裕層に入っているけどね。


 メディアの露出が無くなった分、リアルの収入が増えて劇場もどんどん大きくなっている。

 ちなみに今の時代の若手芸人はメディアではたまにドキュメンタリーで……ドキュメントではないよな。

 一攫千金狙いのお調子者の苦労話を見せられても、普通に働けとしか思わん。


「発注で思い出しましたけど、化粧品以外にも何かあればそこのメモ帳も筆記具も使って良いんで書いてくれたら俺に買ってこさせますよ」

「フフッ、俺に買って来させるって日本語変ですよ」


 それ言うなや! 

 実際に行くのは俺なんだから良いんだよ。


 そんな事を思っていたらブーンという音が聞こえて来た。

 ちなみにシャッターを下ろしている状態だと、外の集音マイクが拾った音がカウンターのモニターから流れるようになっている。

 シャッターを下ろすと緊急事態モードになって、販促映像を流してるモニターが監視カメラモニターになる。

 そこには、周辺に設置されたカメラで360度死角なしの映像が音付きで。


 全てのシャッターを下ろすと外の音が全く聞こえなくなるからね。

 災害時、人が来ても気付かないなんてことになったら困るだろ? 


「なっ……なんの音ですか?」


 佐藤さんが少し怯えた様子で周囲を見渡している。

 うん……大丈夫、集音マイクの音をモニターのスピーカーで流しているからちょっと大きな音に聞こえるだけだよ。


「ああ、たぶんマイクの近くを虫でも飛んでるんじゃないですかね?」

「マイク……ですか?」

「ええ、外に集音マイクが付いてて……ほら、シャッター落とすと外の様子がほぼ分からなくなるでしょ? だから、音は集音マイク、周辺は一応無線カメラで映像を飛ばしるんで」

「ああ、本当にここコンビニですか?」


 佐藤さんがホッとした様子で、ちょっとした冗談まで飛ばせる余裕を取り戻したようだ。

 良かった、良かった。


「ちょっとモニターで見てみます?」


 とはいえカウンターの外にいた俺はスマホを起動して、カメラのIPアドレスとPASSを入力して映像を映し出す。

 店外のカメラは全てネットワークカメラだけど、ブルートゥースや有線も併用している。


 ネットワークに繋がっているのは、うちの親が店に異変が無いか、変な人が居ないか、駐車所に柄の悪い人が集まって僕が困って無いかを確認するためだ。

 そこまで心配なら、普通に養ってくれと思うがこれはクズの発想だな。

 入り口付近を映すカメラを選ぶと……

 光に集まる虫というか……蚊が居た。


「これは……蚊ですか? 」


 どう見ても蚊なのだが……若干佐藤さんも疑問形だ。

 うん、どう見ても蚊ですよ? 

 たださ……ちょっとデカくね? 

 見た目は蚊なのに、めちゃくちゃデカい。

 デカい蚊っていったら、ガガンボや蚊蜻蛉(カトンボ)をイメージすると思うがそんなもんじゃない。


「たぶん……蚊じゃないかな? 」


 自信は無いが、蚊だな……

 まず口がめっちゃ尖ってる。

 というか、色々と吸う気満々な口をしている。


「大きくないですか? 」


 うん、俺もそれはすごく感じているよ? 

 だってさ……自動ドアに目を向ける勇気が無いもん。

 ぶっちゃけ、自動ドアの扉半分くらいの大きさの蚊が、入り口周辺を飛び回っている。

 幸い1匹だけのようだが……


「自動ドアもシャッター閉めようか……」

「ええ、流石にあんなのが居たら外に逃げようとは思わないですし……」


 ただ、いまシャッターを閉めるとあの蚊を挟む可能性がある訳で……めっちゃグロイ事になりそうな予感。

 というか、1m近い蚊とかもしかして、ここって巨人の星とかって事かな? 

 野球は関係ないよ? えっ? さらに古いもん知ってるなって? 

 歴史の授業で習うんだよ。


「ちょっとあれじゃ閉められないから、追い払ってくる」

「えっ? それって……」


 死亡フラグじゃないからね? 

 ちゃんと勝算は……いや、全く無いけどさ。

 でも、ちょっと可能性はあるからね。


「大丈夫だって! 実はこんな事もあろうかと……」


 俺は殺虫剤を手に取り、自動ドアの左の扉のロックを解除してほんのちょっとだけ隙間を開ける。

 右の扉のロックはちょっと遊びがあって、左だけロック解除すると1cm程の隙間が出来るのだ。

 その隙間に殺虫剤付属のストローをジョイントさせて、差し込むと一気に中身を噴射する。


『ギャアアアアアア!』

「きゃああああああ!」


 鳴いたよ? 

 思わず佐藤さんも大声で叫んでいたが、俺もかなりビビッて後ろに転んでしまった。

 その拍子に店内にも少し殺虫剤が撒かれてしまったが、人体には完全無害な仕様なので問題は無い。

 っていうか……効きすぎ? 


次は17時に投稿致します。

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