第23話:フロンティア
「さてと……」
俺はグラスをもって、壇上に上がる。
といっても木の板に足をつけて横と後ろに筋交いをしただけの、簡素なもの。
「それでは、ゲイル王国西の森新都市フロンティアの完成を祝して……乾杯!」
「乾杯!」
グラスを高く掲げると、皆も手に持った木のコップを高く掲げていた。
皆って誰かって?
そりゃ、エドガーさんやジェニファー、ランスロット君だよ。
佐藤さんも、俺の横で遠慮がちにコップを上げていた。
まあ、新都市だのかっこいいことを言ったが。
所詮は難民キャンプに毛が生えた程度。
彼らと出会って4カ月。
全員分の木造住宅が行き渡り、水の確保やかまどの設置が終わってようやく自立できる状況に。
しばらくは狩猟と採集で生活を送ってもらうことになるが。
俺もようやく、この面倒な人たちの守りから開放されるわけだ。
「これが最後のお酒になるかもしれんのか」
「いや、作ったら飲めるでしょ? 取り合えず、木の実から果実酒とか出来るかもしれないし」
「作り方なんか知らんぞ?」
エドガーさんが、俺の横に座ってしんみりとしている。
時折差し入れてやってもいいが、あまり今後はお互い関わらないように。
というか、まあそっちが集めたもので商品になりそうなものがあったら、定期的に物々交換に来るよ程度の関係。
ちなみにこの人達相手なら、腕力でどうにでも出来ることは分かったので警戒心はほぼ消えてなくなった。
不意打ちされても、怪我することなさそうだし。
というくらいに俺の身体が頑丈になっていた。
あっちの俺はどうなのかな?
高田君の事件の時に体感したらしいけど、人間かどうか怪しいレベルらしい。
良かった。
事故死とかの確立がグッと下がった。
ちなみに佐藤さんも、ちょっとやばい領域に片足突っ込んでいると。
まあ、この国の人達にとって、村が滅ぼされるレベルの魔物を一人で倒したんだ。
ソロで経験値の美味しい終盤の敵を倒したような感覚かな?
確か大昔にスタート地点の隣のビルに、終盤の敵が出てくるっていうおかしなゲームがあったとネット動画で見た気がするな。
いや、あれは秘密結社かなにかのアジトって設定だったから、ありなのかな?
普通のビルを普通の人のふりして使ってて、でそこに突っ込んだプレイヤーは不法侵入なわけで。
排除するために、そこで秘密裏に作っている魔物が出てくるのは設定として違和感ないか。
ただ、スタート直後でも運が良ければ倒せてしまうってのは、あれだったけど。
何回か死に続けてたら、たまにこうヒロインの覚醒スキル的なやつで倒せることがあって。
まあ、どうでも良いか。
気分的にはそんな感じというか、それよりイージーだったけどな。
「聞いてますか?」
「あれ? ランスロット君?」
いつの間にか、エドガーさんがランスロット君に変わっていた。
「あの、僕の顔を拭いた布をいくつか頂けないかと」
「なんで?」
「いや、あれがないとジェニファー様達に……」
「喋っちゃったの?」
「はい……」
どうやら、彼の肌艶に興味津々なお嬢様方に、秘密をしゃべってしまったらしい。
まあ、彼女たちに詰問されたら、彼じゃ断り切れないか。
仕方ない。
「大きな貸しだからな」
「本当に、ありがとうございます」
白紙の小切手切らせたのに、この反応。
ランスロット君が馬鹿なのか、本当に切羽詰まってたのか。
彼の場合は、どっちもありそうでなんとも判断に。
「カスミさんは、モリイ様とどのようなご関係ですの?」
ランスロット君の相手を適当にしていたら、少し離れた場所から俺の名前が聞こえた。
ジェニファーや、ローザ、メアリー、ミランダに囲まれた佐藤さん。
おっと、これは……
ついつい、耳がダンボになってしまう。
「ただの同居人ですね。つい最近知り合ったというか、友人ではないですし……知人?」
「またまたー、本当はどこまで進んでるんですか?」
おっと、心に早くも傷が。
ローザが軽い感じで突っ込んでいるが、これは俺が大やけどするやつでは?
とはいえ、聴覚がかなり鋭くなっているし。
聞きたくないけど、聞きたいというか……
本心では聞きたいんだろう。
ついつい耳が。
「また、聞いてないですね」
「静かにしてくれる?」
おっと……ついついうるさく話しかけてくるランスロット君に、当たってしまった。
しかし、現在の攻略度を調べるいい機会だ。
これを逃す手は無いだろう。
「兄のような……でも、男性として意識したことはないですね。保護者というか、安心できる人ではありますよ」
男性として意識したことはない……
男性として意識したことはない……
男性として意識したことはない……
「飲むぞ!」
「はいっ?」
「エドガーも来い! 今日はとことん飲むぞ!」
「はっ?」
そのあと、滅茶苦茶飲んだ。
レベルが上がって強化された身体は……酒にも強かったとだけ。
普通にほろ酔い気分なのに、周囲には死屍累々たる惨劇。
他の男性陣も巻き込んで、全員対俺で飲み比べをすることになったわけだが。
「おめーら、弱すぎるだろ!」
返事がない。
全員、そこらへんで転がっている。
ちくしょー。
「森居さん飲みすぎですよ」
「うっせーやい!」
佐藤さんが心配して声を掛けてくれたが、ハートブレイクな俺は腕をぶんぶんふって脇に抱えた一升瓶の口に口を付ける。
そして、一気に中身をあおる。
「もうっ! なんだって、こんなに酔っぱらってるんですか!」
「俺は、酔ってなんかないぞ! じゃんじゃん持って……ん?」
「どうしました?」
佐藤さんの優しが痛いぜなんて思って、つい調子に乗っていたが。
違和感が。
さっき……
「佐藤さん、もう一回俺の事呼んでくれる?」
「えっ? 森居さん?」
「……えへへ」
「なんですか、急に気持ち悪いですよ」
おっと、店長さんから森居さんに呼び方が、ランクアップしてる。
いつの間に。
「店長さんじゃないの?」
「ああ、ジェニファーさん達と話してたんですけど、従業員ってわけでもないですし。割と、お互いのことを話して、知人とか友人って関係に近いかなと」
「そっか……そっか……うん、うん」
「なんで、急にそんな優しい目?」
ジェニファーナイス!
男として意識されてないけど、距離が近付いてる。
あれ?
でも、兄とかって思ってるって。
じゃあ、もともとだいぶ距離感は縮まってったことだし。
でも、呼び方が変わったのは嬉しい。
そのうち、下の名前で呼び合ったり。
「かすみさん」
「急に馴れ馴れしくなった。もうやだ、この酔っ払い」
うわっ、一気に突き飛ばされた。
てか、何気にすぐ横に座って話しかけてくれてたのか。
嬉しい……
あれ?
酔ってるなこれ。
しかも、記憶ばっちり残ってるやつ。
酔いが冷めたら、悶絶するやつか……
でも、今が楽しけりゃいいじゃない!
「ちょっと、走ってくる」
「えっ? なんで? ちょっと、森居さん? 森居さぁぁぁぁん!」
店までひとっ走り。
そして、すぐに戻ってくると野郎どもに、ウコンの腕力と、ヘパリーズを無理やり飲ませる。
「ゲホッ! ゲホッ! あれ? 妙に頭がすっきり」
「何する! やばっ、酔いが冷めた」
「あと5分……目がシャキッとしてる」
そんな感じで全員が起きたのを確認。
俺の後ろには山積みの酒が。
「おめーら、2回戦行くぞ!」
「え?」
「いや、割とお腹がいっぱいというか」
「俺の酒が飲めねーっての「いい加減にしてください!」
そこから記憶がない。
次の日、普通に野営地で目が覚めた。
エドガーさんの割り当てられた建物の床で。
一応、下に布は敷いてあったけど。
後頭部がズキズキする。
「おっ、起きたか賢者様」
「何が……」
「お弟子さんが、酔っ払って暴走したモリイさんをぶん殴って止めてたぜ?」
あー……
佐藤さんに思いっきり後頭部を叩かれたのか。
あれ、素手じゃなかったような……
まあ、良いや。
恥ずかしい。
かなりの醜態をさらしてしまった。
「じゃあ、呼んでくるわ。ジェニファーのとこにいるみたいだから」
佐藤さんもここに泊まったのか。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。こっちこそごめんね、ちょっと飲みすぎて酔っ払ってたみたい」
「モリイさん、楽しそうだったもんな」
「うん……色んな意味でね」
佐藤さんが物凄くしょんぼりしてる。
まさか、俺があのまま意識を失うとは思っていなかったようだ。
の割には、かなり強めにいってた気が。
彼女も少し酔ってたらしい。
じゃあ、仕方ないか。
「それじゃあ、今日のところは帰ろうか?」
「はいっ!」
おっと、ちょっと嬉しそう。
俺と一緒に帰れるのが嬉しいのかな?
「これだけお世話になってて、あんなことまでしたら……てっきり、ここに置き去りにされちゃうかと」
っと、捨てられるかもと不安になったようだ。
いや、俺ってそんな薄情に見え……
見えないよね?
それなのに、そんな風に思うって……
昨日、俺何で殴られたの?
聞くのが怖いから、敢えて触れないでおこう。
聞かなかったら、ちょっと気まずい沈黙のなか2人で帰ることになった。
聞いた方がよかったのかな?
外に出たら変形した鉄の盾みたいなのが転がってたけど……
聞かなくても良いよね?
あの盾10kg以上ありそうだし。
見方によっては鈍器……





