第22話:近づくと離れる
あっちの俺は色々とバイオレンスなことをしていたようだ。
なんでも高田君がまあ、トラブルに巻き込まれたらしく。
その報復に。
あれ、俺ってそんなキャラだったっけ?
あれか?
力を付けて、調子に乗っちゃったのかな?
こっちは、まあ調子に乗ってるけどな!
まず野営地の連中だが、帰ろうとしない。
というか、帰る気が無さそうなんだよな。
まあ、本人たちは下手に動き回ると、さらなる危険がなんて言ってるが。
分かるけどさ。
もともと遭難してたんだから、ここじゃなくても状況は変わらないだろ。
そう言いたいが、まあここに居ればある程度の安全は確保できるわけだし。
そして野営地がいつの間にか、駐屯所に様変わりし始めている。
主に俺のせいで。
素人仕事ではあるが、テントから木造の住宅へと徐々にシフトチェンジし始めている。
ジェニファー達が、誰でも出入りできる入り口は怖いなんて言い出したせいでもあるが。
ということで色々と頑張った。
そしてある程度作ったところで気付いた。
こんなもん立てたら、余計に帰らなくなるんじゃと。
まあ、現状この森の領有権はゲイズ王国にあるらしく。
俺は現在不法滞在中。
というか、森の中の原住民までは把握してないらしく。
そっちの枠に含まれるのかな?
「モリイ様がどういった経緯でこの森に住まわれておられるかは分かりませんが、存在が王都にバレたならば色々と義務が発生しますね」
「そうですか……」
「まあ、色々と恩義を感じ深い繋がりをもったならば、私共の口は堅く結ばれるでしょうね」
なるほど……
ここで色々と良くしてくれたら黙ってるよと言いたいらしい。
エドガーさんは。
そうか……
ここまでしてもらっておいて、おかわりを要求するのかこの人は。
「ちょっと、目が怖いですって! 冗談ですよ!」
「あわよくば感が物凄い冗談ですね」
「はは……すいません」
俺が無言で殺虫剤を構えると、エドガーさんが顔を引きつらせて謝ってきた。
まあ、人には効かないんだけどね。
彼らにとってはストロードラゴンを吹き飛ばす、強烈な魔道具に見えていることだろう。
そんなこんなで、急ピッチで森の開拓を手伝った。
開拓?
いやいや……
「良いんですか?」
「もう良いよ」
自宅スペースでソファに座って、佐藤さんのいれてくれたコーヒーを飲む。
はあ、落ち着く。
佐藤さん成分を補充。
どう考えてもあいつら、調子に乗りすぎだ。
いや、そんなにひどい訳でも無かったけど。
「なんか、おだてられて気が付いたら物凄く働いてたし」
「それは、お疲れさまでした」
佐藤さんもこうして同じ部屋で、普通に会話してくれるようになった。
これはかなりの進展だと思う。
でも、焦らない。
ここで勘違いしてがっついたら、この距離は二度と埋められないくらい離れることを俺は知っている。
「定期的に食料を売りにいくことはあっても、彼らの生活を手助けするのはもう終わりかな?
「なんだかんだで店長さんって、本当にお人よしですよね」
「気が弱いというか、意思が弱いというか……頼られるとどうも断りづらくて」
そうなのだ。
結局、エドガーさんやジェニファーさんの要望に、はいはいと応えるうちに彼らの野営地は立派な駐屯所になってしまっていた。
木造の住宅だけならともかく、一部建物の周りの地面はコンクリートになっているし。
まあ、セメントなんて25kg入って300円~400円だからね。
金額自体は大したことないけど。
ベープのお陰で虫が寄ってくることも無いけど、地面から湧いてくるのも気になったのでと……
周囲には柵も作ったし。
聞けばいまはストロードラゴンの以上繁殖で姿を見せないけど、オオカミや熊、猪なんかいるらしく流石にベープじゃ動物は無理かなと。
一応食べられる植物は分かっているらしいし、動物も出れば狩れるとのこと。
いまは動物を見かけないから、肉は俺が差し入れるしかないが。
「あっちの私は、無事就職できたのかな?」
「まあ、うちに面接に来たなら確実に出来るよね?」
「だと良いんですけど」
かなりの就職試験を落ち続けたらしく、自信喪失気味の佐藤さん。
しょんぼりした様子も可愛らしい。
俺の横で永久就職を……なんて言えたら良いけど。
いや言ったら、大変なことになりそうだ。
凄く気まずい関係に……
色々とストレスが溜まってるみたいだ。
自分にとって都合の良いことばかりを考えたりしてしまう。
もう少し佐藤さんのことを考えて。
可愛いなぁ……
よく見ても、よく見なくても可愛いなぁ……
こんな子が嫁さんなら……って、佐藤さんのことを考えるってそういう意味じゃない!
佐藤さんの為になることを考えないと。
きっと彼女だって心細い……あー、会話が途切れたからか普通にテレビつけたよこの子。
案外、神経が太いのか。
それともただただ、たくましいのか。
女性と二人っきりなのに、普通に出来るようになった俺も大概たくましいか?
自分に自信が出てきたのは確かだ。
歯を磨けばすぐに真っ白になったし。
髪もフサフサつやつや。
肌荒れも無くなった。
脂肪もほぼ落ちて、筋肉質な体に。
こんな暑苦しい身体じゃなくて、スマートなマッチョになりたかった……
佐藤さんは……あれからストロードラゴンをさらに狩って……
彼女の場合は、理想の体型に近づいている。
胸が成長しなかったことだけが不満のようだ。
自分の胸に手を当てて、首を傾げていた。
可愛いし……ちょっと興奮したのは秘密だ。
店内にあるもので、効果をためしてないものはいっぱいある。
何が役に立つか分からないから、もう一度在庫を見てみるのも良いかも。
「店長さんこれ?」
「あー、それはやめておこう。色々と怖い」
佐藤さんと二人で役に立ちそうなものを探していたら、接着剤を手に持ってやってきた。
いや、失敗したら一生離れないじゃん。
佐藤さんと引っ付くのなら大歓迎だけど。
いや、ガチでやばい。
どっちかの身を削ることになりそうだし、相手は一生その肉片を付けて生きてくことになりそうだ。
石鹸類は確かめたし、蝋燭や線香もなぁ……
おもちゃコーナーにあるものも、色々と楽しそうだけどすぐすぐ使い道は思いつかな……
「凄いですよ! つついても全然割れない」
「凄いね……」
気が付いたら佐藤さんがシャボン玉で遊んでいた。
割れないシャボン玉。
うん……色々と環境に悪そう。
てか、外に向けたらずっと空に浮かんでそうだし。
あとは……
佐藤さんがジッと冷めた目で見てきたので、慌てて戻す。
俺がうっかり手に取ってしまったのは、まあ夜のゴム製品とだけ。
ちょっと、本気で色々と試してみよう。
あっ、佐藤さんがゴム製品を手に取って……全部おもちゃコーナーにあった南京錠のついたキャラクターものの箱に入れた。
てか、どう見ても箱より入れたものの方が容積が大きい気が。
でカギを閉めて……その鍵はしっかりと佐藤さんが持つのね。
少しだけ、距離感が……遠のいた気がした。
でもゴムを手に取った佐藤さんに少しだけ……なんでもありません。
キレが……





