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第21話:ジェニファー・フォン・メルト

 私はジェニファー・フォン・メルト。

 メルト伯爵家の次女です。

 侍女ではなく、次女。

 そう自己紹介したのに、目の前の平たい顔をした男の反応は鈍かった。

 無礼な。


 いや、まあ分かりますけど。

 こんな薄汚れたプレートアーマーに身を包んだ、貴族の息女などいないと言いたいのですよね?

 いるのですよ。

 ここに。

 だから、その無礼な視線を……あれ? 汚物を見るような……気のせいですよね?

いや、本当にやめて、惨めになるので。


 まあ、良いでしょう。

 私の格好に問題がありましたので、お相子様ということにしましょう。


実は私はちょっとばかり、魔法の才に自信がありまして。

 いえ、言い直しましょう。

 かなりの才能があります。

 これを言うと殿方はみな引かれるのですが、目の前の男はストロードラゴンを一撃で倒すほどの大魔導士様。

 かえって、このくらい箔があった方が。

 男は私を無視して、エドガーと話を進めてました。


 ……くっ。

 少しくらい、興味をもってくれても。


 そもそも、私がここにいるのはストロードラゴンの調査のため。

 という名目でエリート騎士団である青の竜のメンバーから、嫁入り先を探して来いというお父様の思惑に乗っかった形です。


 まあ、開始早々隊が瓦解して、運悪く正規の騎士団とは別のメンバーと共にすることになったのですが。

 エドガーは……及第点といったところですが、こっちにまったく興味を示しません。

 なんですか? 

 あなたも、王城爆発未遂事件を信じているのですか?

 あれは、ちょっと王子様の気を引きたくて。

 大失敗でした。

 結果、お父様にここに送られ……あれ? あわよくば、私が死んで事件がうやむやにとかって思ってませんですよね?


 男と出会って早数日。

 驚くことばかりです。


 なによりも驚いているのは……私がこのまま、ここに住むのもやぶさかではないと感じ始めていることでしょうか?

 快適な住環境に、快適な食事。

 適度なバイオレンス。

 周りにはおじさんもいるけど、若い男もたくさん。


 あっ、ローザどうしました?

 そろそろ、お風呂の準備が?

 分かりました。

 向かいましょう。


 この野営地にはお風呂があります。

 あのお方が設置してくれました。

 この謎素材のテントも。

 割と大きめのテントですが、防犯面で色々と不安も。

 こんなちゃちな出入り口では、殿方が夜這いに来たり……


 これまで野宿でしたが、誰からも襲われてませんが。

 襲われるのは嫌ですが、それはそれでちょっとショックですね。

 そんなに魅力がないと?

 きっと、今まで汚れていたから……お風呂に入ったあとも、夜中に私達のテントに入ってくるような不埒ものはいませんでしたが。

 きっと、理性の特別強い人たちの集まりなのでしょう。

 

 そうお風呂と、地味に快適なベッド。

 食べ物はきっちりあの男が3食届けてくれますし。

 野外だと昼と夜は基本的に食べずに、夕方の早い時間に食べるのですが。

 まあ、せっかく持ってきてくれいるので黙っておきましょう。

 

 そして、何よりもその食べるものが……

 美味しいのです。

 それはもう、あっ早くお風呂に来い?

 モリイ様が待っている。

 そうですか……

 待ちなさい! 

 私が、一番ですわよ!


 来ないならと急ぎ足になったローザを追い越して、一番でお風呂場に。

 たまにモリイ様が頭を洗ってくれるのですが、まさに至福……いや至高の時です。

 最初は髪の毛用の石鹸の使い方を教えてもらうために、お願いしたのですが。

 まさか、液体だったなんて。

 オイルかと思ったら、オイルでもなく……

 ただただ、良い香りに包まれて……

 気が付けば、「かゆいところはありませんか」と声を掛けられるまでの記憶が。

 何が……

 ローザたちの話では、髪を洗われている途中で鼾……かくわけないでしょう。

 あの男の鼻息ですよ。

 きっと、私の髪を洗うのに興奮……私のあとに続いたローザたちも、みんなすぐに鼾をかいていましたね。

 忘れましょう。

 そのくらいに、気持ちが良かったのです。

 苦労の尽きないこの旅路の果てに、ヘブンに辿り着いたかのような。


 それ以来、定期的に洗髪はお願いしているのです。

 っと、今日は新しい香りの日でしたわね。

 メアリーとミランダは、もう湯船に……髪にタオルを巻いているところをみると洗髪はまだのようですね。

 よろしい。


「早く横になってください。あまり暇じゃないんで」


 くっ。

 ゆっくりとおしとやかさを意識して近づけば、さっさと来いと手招きされてしまいました。

 これでも口を開かなければ深窓の令嬢と呼ばれる私に、なんて言いざま。

 初めてあったときもジッとこっちを見つめてきたので、ぴしゃりと……どう見てもあれは汚いものを見る目でしたわね。

 あの時は、ずっと森を歩いていたので仕方なかったのです。

 こうして綺麗にしていれば……あっ、もう少しそこは強めでお願いします。

 耳の後ろが少し痒いです。

 頭の下に手を差し込まれる。

 簡単に持ち上げてくれるのだろうけど、つい首に力を入れて補助を…… 

 くっ……作業感が

 流れるような無駄のない動作。

 やっつけ作業感も……

 くっ、気のせいですわ。


 そして謎の軽くて柔らかい器に盛られた料理を頂きます。

 この黄色い大根は甘みがあって、またパリポリと歯ごたえもよく大好きです。

 聞けばランスなんちゃらって、最初にあの男に保護された平民も好物だと言ってましたね。

 無駄に綺麗な肌をした、生意気な平民が。


 楽しい食事の時間はあっという間に。

 ついつい食べすぎてしまうのが、難点ですが。

 あら、ローザ?

 少しお顔が丸く。

 見れば、他の皆も。

 女性だけでなく、男性も……

 はっ!

 自分のお腹をジッと見つめます。

 なんでしょう、この足元までの視界を妨げる謎のふくらみは……

 まさか、あの男の子供……なわけないですね。

 きっと、むくみでしょう。


 ……さて、明日は少し周囲を探索しましょうか?

 皆さんも、ついてきますよね?

 面倒くさい?

 そうですか……

 えいっ!


「ひゃっ!」


 隣にいたローザのわき腹をつまみます。

 そして、他のメンバーを見ます。

 全員が目を逸らしてますが、現実から目を背けないように。


 こんな状態で国に戻ったら、えらくご機嫌な調査だったと思われてしまいますよ?

 

 翌日、全員で周囲を散策しました。

 とても良い運動になりました。

 お腹がペコペコで、いつもよりたくさんご飯が……


閑話ですね。


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