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第20話:坊主集団爆誕

「なんで?」

「いや、なんでかは分からないけど。とにかく、危ないらしい」


 あっちの俺に、高田君が重傷で病院に運ばれたことを伝えた。

 普通に首を傾げられた。

 いや、知らんがな。

 そこまでは、突っ込んで聞けなかったというか。

 聞くのも憚られる雰囲気だったというか。


「命に別状はないと思うんだけどさ。明日、とりあえずお見舞いに行ってみようかと。伝えることとかある?」

「うーん……それって、なんて伝えるんだ?」

「俺が言ってたぜって」

「頭おかしい人じゃないか?」

「奇遇だな、俺もそう思うが……お前だって、もう一生会えないかもしれないんだ。伝えて欲しいことくらいあるだろう」

「不吉なことに感じるから、一生会えないとか言うなし。あと、こんな時に無駄に混乱させるようなことするなし」

「あー、ちょっと不安でさ」

「だからふざける俺ってば、小心者だなおいっ!」

「お互い様さ」


 ダメだ、キレがない。

 実際は、すぐにでも病院に行きたいところなんだが。


「そんな俺さんに朗報」

「とうとう、俺にさんが付いたか」

「まあ、茶化さずに聞け。実は、医薬品各種も効果が大幅アップしてるの気付いてる?」

「なんとなく」

「一応、こっちの貴族のお嬢様からもらったポーションってのあげるけどさ、たぶん俺さんがマカロンかけて、オラナインぬっとけば治ると思うよ? ついでにオロナモンCでも飲ませとけば?」

「マクロンな? マカロンかけたらおかしいだろ!」

「お菓子だけにってか?」

「やかましいわ! そして、くだらんわ!」

「おっ、元気になったな?」

「元気溌剌オロナモンって、いいかげんにしろ!」


 取り合えずそれでも俺と話したことで、元気と安心を貰ったのは確かか。

 よし、気合入れて病院に行くぞ!


***

「高田君……」


 割とシャレにならない状態だった。

 頭をグルグルと包帯で巻かれ、テレビドラマとかでみるピコン、ピコンという音だけが鳴り響く部屋。

 まだ意識を取り戻さないらしい。

 高田君のお母さんが、彼の横に座って教えてくれた。

 だいぶ憔悴しているのが、目に見えて分かる。

 

「確かに出来が良いとは言えないですが、それでも可愛い子供がこんなことになるなんて……」

「うちでは一生懸命真面目に働いてくれてましたし、早く復帰してほしいですね」

「こんな子でも、仕事出来るのでしょうか?」

「お客様からは、割とよくしてもらってましたよ? 人懐っこいところもありますし」

「ただの、お調子者ですよ」


 ……うーん、ネガティブ。

 正直高田君の容態もだけど、お母さんと話すことで色々と元気が……

 というか、お母さんちょっとだけで良いから席外してくれないかな?

 真横でずーっとジッと高田君の顔を見てるから、俺何もできない。

 マカロン……じゃなくて、マクロンかけられないし。

 ポーションもかけられない。

 オラナインも塗れない。

 何もできない……


「ところで、どうしてこんな怪我を?」

「お恥ずかしい話なのですが……」


 高田君の怪我の敬意について、お母さんがきちんと教えてくれた。


「この子も、ようやく真面目になろうと踏み出したのに……」


 彼のチームのリーダーに、辞めたいと伝えに行ったらしい。

 卒業ということだろうが、そのことでリーダーが卒業試験をやるとかって言いだしたみたいで。

 特攻隊全員と喧嘩……となりかけたが、高田君はもう喧嘩はしないと断ったらしいが。


 でもって、じゃあ5分間のリンチに耐えたらって……おかしいだろ!

 なんで仲間が真っすぐ進もうとしてるのに、そんなことを……

 ふつふつと怒りが湧いてくるのを感じる。

 そして最後に、後ろから鉄パイプで思いっきり頭を殴られたらしい。

 家には自力で帰ったらしいけど、その後倒れて……そりゃ、当然だわ。

 てか、やった方もそうなるとかって想像できなかったかな?

 出来てないから、そんなことが出来るんだろうね。

 いや、変なテンションにでもなったのかもしれないけど。 


 その時の衝撃で脳の血管が切れてってことらしいが、一応病院での処置は終わってるみたいだ。

 流石に脳の損傷までは。

 あとは、本人の運と気力次第らしい。


「な! 何を!」

「急用が出来ましたので、失礼します」


 俺は手に持ったマクロンを高田君の頭にかけて、それからオラナインを気合を入れて包帯の上から塗りまくった。

 お母さんが凄い表情で掴みかかってきたけど、筋肉に物言わせて強引に。

 ついでに気休めだけど、異世界産のポーションも降っておいた。

 たぶん大丈夫。

 本気出したから。

 薬塗るのに本気だすって、意味不明だけど。


 それよりも……


「おお、おっさんなんか用か?」

「小遣いでもくれるんですか?」

「こいつ、高田さんが働いてたコンビニのおっさんフリーターじゃね?」


 高田君の入ってたチームのたまり場に、ちょっと用事が出来たから。

 街歩いてる金髪の人に片っ端から声かけていったら、割とすぐに見つかった。

 てか、普通に公園でたむろってるのな。

 埠頭やゲーセン、廃ビルとかってわけじゃ……まあ、廃ビルとか管理が厳しいからね。

 廃ビル自体そのままにされずに、国や県の財源で整備して地方自治体に色々と使われたりするし。

 だから不法侵入とか、割とすぐに発見される。

 国がしっかりと監視している。

 割れ窓理論ってやつだ。

 ちっちゃなことでも見逃さずに、しっかりと整備すれば治安はよくなる的な?

 だったら、こういう輩も徹底的に更生させて欲しいかな?


「高田君はもうこのチームをやめたんだよね?」

「ああ? 高田を探してんのか? だったら、第一病院行けよ。ベッドで寝んねしてるぜ?」

「ふーん……知ってたんだ」

「あん?」

「まあ、良いや。うちのバイト君が世話になったからさ……そのお礼にと」

「なんだ? コンビニ弁当でも持ってきてくれっぐぅっ」


 取り合えず一番偉そうな金髪の兄ちゃんの顔を手で掴んで持ち上げる。


「はっ?」

「えっ? 人って片手で掴んで持ち上がるの?」

「橘川さん!」

「おいっ、橘川さんを助けるぞ」


 ぞろぞろと金髪集団が集まってくる。


「おらっ! って、かてー!」

「このおっさん、ゴムの塊みてーにかてー」


 ゴムの塊とか、割と良い例えをする。


「橘川さんを離せ! って、なんで効かねーんだよ! これ高田さんをやった鉄パイプだぞ!」


 ふーん、この鉄パイプがかお前がやったのか知らないけど、取り合えずこの鉄パイプは許せんな。

 目の前で鉄パイプを両手で何度も折りたたんで、最後にこねて丸めたら全員大人しくなった。


 手荒なことはしたけど、直接暴力的なことはしてない。

 どれだけ殴られても、蹴られてもなんともなかったから。

 無視して一人ずつ片手で顔を掴んで大人しくさせて、空いた手に持ったバリカンで髪の毛全部剃ってやっただけ。

 別に俺の髪の毛が薄くて、ブリーチあててもフサフサしてる若者に嫉妬したわけじゃない。

 そして自己嫌悪……

 髪の毛剃るって十分暴力だわ。

 てか、立派な傷害……後になって、後悔。

 誤算は……


「おはようございます!」

「おはよう」

「おはようざっす」

「おはよう」

「おはざっす」

「おはよう」


 丸坊主集団がうちの常連になったこと。

 元悪だけど、万引きとかは一切ない。

 そして、何故か店に入ると真っ先に俺に頭を下げてから、商品を選ぶ。


 やっぱりリーダーは橘川ってやつだった。

 それよりも、鉄パイプで殴ったやつも実はこんなことになるとは思ってなかったらしく。

 でも、なんか皆で高田君が無抵抗であそこまでやられたことで、盛り上がったらしい。

 というか、強引に盛り上げて有耶無耶にして、罪悪感を誤魔化してたと。 

 俺に報復というか、色々と言われて正直に自分達がやりすぎたことを改めて認識。

 怒りが限界突破してたからあまり覚えてないけど、バリカンで一剃りするごとに色々と呟いていたらしい。


「仲間が先に進むのなら、拳じゃなくて選別を送るべきじゃないか?」


 ジョリッ!


「そもそも辞めたからって、他人になるわけじゃないだろう!」


 ジョリッ!


「友情ってのはチームっていう楔がないと、繋ぎ止められないものなのか?」


 ジョリッ!


「人という字は、人と人が支えあって……」


 みたいなことを延々と、静かなテンションで呟いていたらしい。

 最初は彼らも反抗して抵抗していたみたいだけど、力で抑えられて。

 だんだん不気味に感じてきて……

 最後は、受け入れるしかなくなって。

 でもって、言われていることに概ね納得してと。


 その日のうちに高田君の病院にお見舞いに行って、親御さんに全員で謝罪。

 入院治療費はカンパで……外傷だけでも全治一ヵ月と診断された高田君が元気に食事してて驚いたとか。

 でもって無事な様子に、皆が涙したらしい。

 高田君もご両親も、マルコメ集団がいきなり押しかけてきて焦ってたみたいだ。


 流石に、無罪放免とはならなっかったらしく保護観察処分が何人かに下ったらしい。

 鉄パイプの子は執行猶予付きで有罪になったけど、本人は罪を償う意識ははっきりとあると。

 高田君自身は皆がお見舞いに来たことに驚きつつも、卒業試験やべーきつかったわなんて笑って許したとか。

 で、全員坊主だから、皆も卒業か? ずりーな。

 全員同時に卒業したら、試験もくそもねーじゃんとかってぼやいてたらしい。


 これには、ご両親も呆れてたとか。

 そして全員が頭を丸めてきたことに、反省の意思をしっかりと感じたらしく一応は謝罪を受け入れていた。

 坊主になった事情を話したら俺のことも話さないといけなくなると思った彼らは、俺を庇うために曖昧に返事してたっぽいが。


 そのお陰で俺は誰からも責められることもなく、警察に呼ばれることもなくほっと一安心。

 じゃあ流石に不味いよなと、自首というかやったことと事の経緯を近所の派出所に報告に行った。

 子供ってほどじゃないけど、未成年に暴行を働いたわけで。

 彼らの非道を説いておいて、その俺が大人としての責務を果たさないのは流石に説得力がない。

 それに、彼らにとっても悪いことをしたと思ったからだ。

 

 結果チームのメンバーに事情聴取がいったけど、本人たちは俺を訴えるつもりはなくむしろ感謝していると伝えてくれた。


 けど、駐在さんにめっちゃ怒られたけどね。

 うん、反省してます。

 本当に。


「みんなも店長のこと尊敬してるっすよ!」

「いや、俺なんか尊敬するもんじゃないよ。もっと偉い人はいっぱいいるよ」

「聖徳太子とかっすか?」

「……比較対象がよく分からないけど、そうとしか言いようがない」

「今度リーダーが、違った元リーダーが面接受けたいつってましたよ?」

「……そうなの?」

「コンビニの店長目指すらしいっす! ライバルが増えたっす!」


 ……もう少し、立派な夢を。

 いや、コンビニ店長が悪いってわけじゃない。

 立派な仕事だと思うけど、なんだろう……

 目指すものなのかな?

 まあ、夢は人それぞれか。

 てか、高田君もコンビニの店長希望かぁ……

 変な世の中になったもんだ。


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