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第19話:現実日常

「あら、店長良い匂いね」

「そうかな?」


 今日も今日とて、神のレンジャーやってます。

 そして、クミさんが俺の匂いを嗅いでそんなことを言ってくる。

 近いけど、まあ開店時から働いているクミさんとは、付き合いも長いし。 

 そこまで気にしないけどね。

 

「シャンプーかな? ボディソープかな? 新しいのに変えた?」

「いや、変えてないですよ」

「肌の艶もよくなってるし、食事にも気を使ってるの?」

「えっと……、あー洗顔は洗顔フォームを使うようにしたけど。前まではボディソープで全部洗ってたからさ」

「あら、そうなの?」


 つってもオーソドックスなメンズビオラだけど。

 なんていうか、こう体形が変わっておしゃれも出来るようになったし。

 髪の毛も増えたから、割と見た目に気を使うようになった。

 今までは、どうせ無駄だと思っていたからさ。

 実際は俺みたいなやつこそ、そういった部分に気を使って多少はイメージを上げる必要があったと、今更ながら気付いた。

 ダメなやつが清潔感まで手を抜いたら、とことんだめだ。

 というのが、この立場になって周りを見てようやく気付けたのだ。

 気付くのが遅すぎるぜ、俺。


 好感は持たれなくても、嫌悪をされたらダメ。

 まあ、勿論接客業だから、身だしなみには気を付けてはいたけどさ。

 清潔感のあるデブは、普通に会話をしてもらえる。

 そうなれば、内面を見てもらえる機会も得られる。

 

 だって、痩せてマッチョになったけど、ビジュアルが良くなったわけじゃない。

 パーツによっては、良いパーツもあるけどさ。

 ただ痩せただけの時よりも色々と気を使うようになってからの方が、女性のお客様も笑顔が増えた気がするし。

 ちなみに良いパーツがあるという理由だが、それはお袋がすげー美人だと評判だからだろう。

 自分の母親だから、いまいちそう感じられないが。

 あんだけ稼いでる親父だ。

 女性もより取り見取りだったろう……

 羨ましい。

 そんな親父は、俺に似ている。

 いや、俺が親父に似ている。

 ということはだ……素材はさほど良くない。

 けど、親父がモテたのは……金の力だけじゃない。

 結局は金だけど、金にあかせて身だしなみに気をつけたからだ。

 一流の美容師に髪を切ってもらい、良い服や良い装飾品に身を包む。

 服も外注というか、お手伝いさんがきちっとクリーニングに出したり、アイロンをかけたりしてパリッとした状態に仕上げている。

 車もそこそこの車で中にあまり物はおかず、常に洗車と室内クリーニングをしていたらしいし。

 そういった、努力も大きかったんだろうな。

 俺も欠点のせいにして諦めずに、美点を作る努力をすれば彼女の一人くらい……

 でも、気付くことに遅すぎることなんてないはず。

 40だけど、×はついていないんだ。

 頑張れば……


「店長いま輝いてるね! うちの近所に、旦那さんと別れて戻ってきた娘がいるんだけどさ。まだ30手前で気立ても良い子なんだけど」

「えっと……」

「一度、食事にでも行ってみない?」

「あー、大変ありがたいですけど、いまは仕事だけで精一杯で」

「そう? でも気が変わったらいつでも言ってね。といっても彼女綺麗だから、その時には手遅れかもよー?」

 

 そう言ってクミさんが悪戯っぽい笑みを浮かべて、のぞき込んでくる。

 うん、前向きに考えてみよう。

 佐藤さんの反応次第では。


 それからしばらくしてクミさんが上がって、夕方からのバイトの子達が代わりに入る。

 今日は高田君と、御手洗さんか。

 御手洗さんは近所の大学生の女の子だ。

 普段はツインテの可愛らしい子だけど、流石にレジには似合わないのでバイトの時は後ろに一本で括ってもらっている。

 いや、ツインテールって……ちょっと変わった子でもあるけど。

 なんていうか、死語が好きとかって言っちゃうタイプ?

 平成歴史資料館とかで見られる、ルーズソックスとかを履いてきたこともあった。

 なんか、昭和~平和をリスペクトしているらしい。

 令和はちょっと、新しいとかって言ってたけど。

 もう、元号が2つも変わってるんだけどね。


「店長、佐藤さんって方から電話ですよ」


 交代して2時間ほど。 

 御手洗さんを食事休憩でバックヤードに入れてたら、声を掛けられる。

 佐藤さんか……


「すみません、お待たせしました森居です」

「あっ、先日求人のチラシを受け取ったものですけど」

「あー、はいはい」

「佐藤って言います」

「佐藤さんですね」


 知ってるけど。

 名前は直接聞いていないから、知らないふりをしてた。

 これはあっちに佐藤さんからのアドバイスだ。


「それで、面接を受けたいんですけど」


 来た……

 御手洗さん的に言うと、キタコレってやつかな?

 来たこれって、普通に今でも使うけど。


「じゃあ、履歴書を用意して、面接はいつにしますか? 基本的にこっちはいつでも大丈夫ですよ」

「だったら、明後日でも良いですか?」

「ええ、時間はどうします?」

「このくらいの時間なら、大丈夫です」

「じゃあ、夜8時からで予定いれておきますね」

「はい、よろしくお願いします」


 そう言って、電話が切られる。

 まあ、面接するまでもなく採用なんだけどね。

 極力普通の手順を踏んでと言われたので、アルバイトの採用面接と同じ要領で行うことにした。


「店長うれしそうっすね」

「ああ、社員が入るかもしれない」

「マジっすか? いきなり、幹部っすか?」

「いや、一般社員だけど研修スタートだからね。皆の方が先輩だから、よくしてあげてね」

「うっす! 任せてください! 一発目からかまして「やめてあげてね」


 高田君が妙に気合が入っていたので、やんわりと注意する。


「といっても、いずれは指示を出す立場になるからね」

「後から入ったのにっすか?」

「そうだよ。その時に皆が指示を聞いてくれるかは、彼女次第かな?」

「彼女ってことは、女っすか? やべーっすね! 職場結婚すか?」

「なんで?」


 高田君が意味の分からないことを言い出した。


「店長やべーっすもん。たぶんぐいぐい行ったら、いけるっすよ」

「いかないからね?」

「俺としては後輩の社員より、姐さんになってもらった方が、やりやすいっす!」

「あー、ちょっと昔のぶっ飛んだドラマの見過ぎかな?」


 任侠ってやつだろう。

 見たことないけど、親分の嫁は姐さん。

 いやいや、高田君はいつまでうちで働く気なのかな?

 割と手順を踏んでも、近い未来の話じゃないよね?


 明け方から昼間で入ってくれたジュンコちゃんにも、佐藤さんの話をした。


「だから、ほぼ丸一日ここで働いてたのにテンション高いんですね」


 そうなのだ。

 昨日の日中はクミさん以外、主婦の人達が希望休。

 深夜のバイトも皆希望休がかぶって、御手洗さんがジュンコちゃんが来るまで出てくれた。

 高田君はチームの集まりとかで、夜の10時に帰ったけど。

 あまり良いことじゃないから、強制的にバイトさせようかとも思ったけど。

 大事な集まりって言ってたから、希望を通してあげた。


 御手洗さんが食事の間は店舗に出てたからあれだけど、一応5時から10時までは割とゆっくりできたし。

 うん、元気だ。

 というか、最近身体の調子がめっちゃ良いからね。

 元気なのは、佐藤さんのことがあったからじゃないよ。

 と、ジュンコちゃんに言い訳するのもおかしいので、敢えて笑顔で頷いておく。

 なぜか、ジュンコちゃんがちょっと不機嫌になった。

 

 そして今日の朝はクミさんと、もう一人のおばちゃんパートの取手さんが出てくれるし、昼からはさらに人が入るので夕方までゆっくりできる。

 と言っても、昼のご飯時には指名が来るんだけどね。

 予定がなければ、出なければいけない。

 こういったとき、店舗と家を一緒にしたのは逃げ場がなくて失敗だったと思う。

 通勤0分のデメリットだ。


 そして、この日事件が起きた。

 昼前に高田君の親御さんから、彼が怪我で入院することになりバイトをしばらく休むと連絡があった。

 退院しても働けるか分からないから、最悪辞めることになるかもと。

 彼のお父さんの声は険しいもので、後ろから女性のすすり泣く声が。

 よほどの重傷っぽい。

 お見舞いに行きたいからと、入院先の病院を聞いたらだいぶ渋られた。

 それでも、どうにか病院の場所だけは聞き出せた。


 まさか、事故ですかと聞いたけどどうやら違うらしい。

 昨日の夜別れたときはあんなに元気だったのに。

 不安と恐怖で、震えがくるのを頑張って抑え込む。

 俺に出来ることがあれば……


 向こうの俺にも、一応伝えておかないと……


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