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第15話:伝説の樵

 俺の名前はエドガー。


 ゲイル王国騎士団青の竜魔物専属部隊第3小隊従軍補助隊の隊長をやっている。


 まあ、早い話が花型のエリート部隊のおまけ部隊の隊長だ。

 直接戦闘に参加せず、輜重隊や輸送隊、衛生部隊の護衛ととりまとめだ。

 非戦闘員のお守りとでも思ってもらったらいい。


 今回は王国の西にある森に大量発生したストロードラゴンの調査の補助だ。

 青の竜が調査のメイン部隊だが。

 そして、森に入って早々にストロードラゴンの群れに囲まれた。

 しかも、それらを率いていたのは特殊個体のモスキートドラゴン。

 主部隊の青の竜の面々でも手に余るやつ。

 どんなものでも貫通する嘴をもった、凶悪なやつな。


 でもって、補給部隊が狙われた。

 輜重隊が壊滅。

 守ろうにも自分勝手に散り散りに逃げられたら、どうしようもないわ。


 奴らは単純に俺たちを狙ったのか、食料を狙ったのか……

 狙いは馬かな?

 あいつらって、血の通う生き物ならなんでもありだし。

 

 青の竜の面々が対応している間に、俺たちも潰走。

 というか、逃げ出した連中を集めないといけないのに、お嬢様方の身の安全を最優先との指示が青の竜の小隊長、ブルータス殿から。


 だから、俺はあいつらを連れてくるのは反対だったんだ。

 口に出してないけど。

 意見できる立場じゃないし。


 今回参加したメンバーの中に、メルト伯爵のご息女であられるジェニファー様が。

 ……と、その部下の面々も子爵や男爵の娘さんばかり。

 魔法の才に恵まれて勘違いしたお転婆娘の集まり。

 

 この命がけの行軍に、まさかの子守りまで。

 結果それがたたった。

 逃げ出した連中の安否が気になるが、それよりも優先しないといけない。

 一般人の身の安全よりも、貴族の身の安全が最優先だ。

 みんな死んでしまえば、なんの意味もないが。

 お嬢様方が死んで、俺が生きて戻るのは大問題。

 貧乏くじも良いところだ。


 どうにかこうにか危機を脱した。

 途中振り返ったら、青の竜も瓦解しかかっていた。

 ブルータス隊長以下、隊でも優秀な騎士達が獅子奮迅の働きを見せていたが。

 俺たちがいたら、助かるものも助からない。

 俺たちがいなければ、まあ……逃げることは出来るだろう。


「私の爆裂魔法で「味方も吹き飛んじゃいますので、やめてください」


 ジェニファー様が魔石を埋め込んだ剣を構えているのを、無理やり止める。

 威力は馬鹿にできないが、制御に難あり。

 あと一発撃ったら、しばらくまともに動けない。

 小さな魔法も使えるけど、派手なことが好きらしくそれは嫌がる。

 いや、一応俺の指揮下に入るって約束で参加したんじゃ……


 外に出たらそんなもんさ。

 とうにかこうにか逃げ出して、何人か回収も出来た。

 しかし森の奥においやられるとは。

 

「なぜ私が、虫なんか食べないといけないの?」

「いや、虫しか捕まえられなくて」


 ストロードラゴンのせいで、野生動物が付近にいないんだから仕方ないだろう。

 栄養面では問題ないんだぞ?

 味は……まともな調理器具も塩も無いから、どうにもできないが。

 生きるためには。


「あの、花を摘みにいきたいのだが」

「その辺でしてください。あっ、遠くにはいかないでくださいね」

「お前は変態か!」

「いや、想定内でしょ!」


 そこらでトイレをするのも嫌がる。

 音が聞こえる場所はとかほざくが、音が聞こえない場所で何かあっても困るだろう。

 他のお嬢様方も似たり寄ったり。

 もう、ここに捨てていっても、俺のせいじゃないよな?


 そんなことは、出来ないけど。

 万が一、救援部隊がきて彼女たちが先に見つけられたら……森で死ぬか、国に戻って死ぬか。

 どっちも嫌だけど、真剣に天秤にかけはじめている俺が居た。


 そんな感じで数日間、多大なストレスを受けながらも生きながらえた。

 泥水をすすって、虫や草を食べて。

 お嬢様も良い感じに汚れてて、気にしなくなってきた。

 これで、少しは生存確率が上が……るわけもない。

 森から出る方法が分からない。

そして、運悪くストロードラゴンに遭遇してしまった。

 というか野営を行っていたら、襲われた。

 俺の部隊だけで、対応。

 厳しい。

 向こうの攻撃は一撃必殺。

 こっちの攻撃は、当てても当てても効いてる気配がない。

 絶対絶命。

 

 こういう時こそ、魔法で援護を。

 あいつら、絶妙な距離を取ってやがる。

 こっちが優勢なら、即座に攻撃に加われる。

 こっちが不利なら、即座に離脱が出来る。

 そんな絶妙な距離。

 もう少し積極的に……


「やめろぉぉぉぉぉ!」


 そんな時、聞きなれない声が。

 そして、遠くの方に何かが落ちる音が。

 なんだ?

 と思ったら目の前に人影が。

 かなり怪しい風貌だ。

 気持ち悪い模様の服に……あれ?

 口がとがってる?

 もしかして、こいつストロードラゴンの関係者?

 というか、魔族とか?


「なんだ、貴様は!」


 やばい、声が震える。


「だまれゲス共! 大丈夫ですか、お嬢……さ……ん?」


 いきなり怒鳴られた。

 しかも、ストロードラゴンを庇ってる?

 やっぱり、魔族か?


「キャーーーーー!」


 とか考えていたら、目の前の魔族が刺された。

 ストロードラゴンに。

 仲間割れ?

 知性無さそうだもんな。

 このドラゴン。

 てか、刺さってないよね?

 弾いたの?

 服で?

 鎧じゃないよね、それ。


「ぎゃああああああ!」

「イヤァァァァァァァ!」


 魔族の男が悲鳴を上げると、凄い速さで腰から変わった形のロッドを取り出す。

 そしてそこから、放射状に広がる何かを放つと悲鳴をあげてストロードラゴンが消し飛ばされた。

 無詠唱?

 で、ストロードラゴンを吹き飛ばすような魔法を使ったのか?

 化け物か?

 化け物だ!

 やばいやばいやばいやばい!

 こいつ、マジでやっばい!


 俺も、他の連中も動けない。

 口を開くことすら、できない。

 冷や汗が頬を伝り、変な時間が流れる。


「だ……大丈夫ですか? 騎士の皆さん」


 目の前の化け物があまりにも間の抜けた声で、意味不明なことを言ったせいで条件反射で襲い掛かってしまった。

 どうやら、部下も同じように混乱していたらしい。

 一緒になって攻撃を始める。


「ひいいいいいいい!」

「化物だああああああ!」


 なんなんだよ、こいつ!

 めっちゃ攻撃当たってるのに、全然効いていない。

 というか、斬れてすらいない。

 軍の支給品とはいえ、この森に送られるにあたってそれなりの剣を持たされてるのに。

 なまくらじゃねーぞ!


 うそだろ!

 部下の一人が剣を握りつぶされた。 

 


「ばっ、化け物!」

「口の尖った化け物!」

「こいつが、ストロードラゴンの親玉か!」


 確定だ!

 部下たちも口々に、俺の推測を後押しするような言葉を放ってるし。

 こいつが、ストロードラゴン大量発生の原因に違いない!


「待ってくださーい」


 さらに仲間が増えた。

 無理だ。

 絶望。


「ああ、これは失礼しました。私は、たまたま通りがかった者です」


 と思ったら、目の前の魔族の顔が取れた! 

 うぎゃーーーー……あれ?

 マスクかあれ。

 なんて、悪趣味な。

 その下から現れたのは、うすっぺらい顔をした人。

 人だ! 

 人っぽいぞ!


「えっ? 人? あっ……ああ……」


 会話も通じそうだと思ったら、緊張の糸が途切れ思わずへたりこんでしまった。


「皆さんは?」

「えっと、我々はゲイル王国騎士団青の竜魔物専属部隊第3小隊従軍補助隊だ。そして私はその補助隊の隊長であるエドガーという。その方は?」


 うすっぺらい顔だけど、普通の人っぽい。

 取り合えず肩書を全面に押し出して、自己紹介。

 少しは効果あると良いな。

 めっちゃ強いってことだけは、分かってるし。

 いや、失敗したか?

 気分を害されたら、殺されるかも。

 下手にでるべきだったかも。


「私はこの森に住んでる、しがないものですよ。森居って言います」


 普通の人だった。 

 良かった。

 だったら、なめられないように……


「エドガー隊長!」

「誰だお前」


 あとから来た若い男が、急に俺の名前を呼ぶ。

 さあかますぞと思ったところに割り込まれたので、思わず怒鳴ってしまった。

 改めて見る。

知らん奴だな。

 俺の知り合いに、こんなこぎれいなやつはおらん。

 髪の毛もサラサラだし、てか貴族の女性以上に髪の艶が。

 肌も……

 こころなし、良い匂いもする。

 本当に誰だ?

 こんな、上品なやつは知らんぞ?

 着ている鎧はうちの国の支給品だが、ピカピカだし。


「えっと第6輜重部隊所属のランスロットです」


 普通にうちのというか、今回同行したメンバーの一人だった。

 取り合えず再会と無事を喜んでおく。

 なんか肌がつやつやしてて、健康そうなのが少しイラっとしたが。

 美味いもんとか、腹いっぱい食ってそうだな?

 ん?

 取り合えず軽く睨んでしまったが、それよりももう一人の男だ。


「それにしてもストロードラゴンを一撃で倒すとは。元はさぞや名のある魔導士の方だったのですか?」


 よし、流れを変えてここは下手に出よう。

 と考えれば、ランスロットの乱入は良かったかもしれない。

 自然な流れで、相手を持ちあげられたと思う。

 不自然だったらしい。

 少し、身構えられた気がする。

 距離も取られた。

 いや、敢えて踏み込ませてもらおう。


「その大変申し上げにくいことなのだが」


 申し上げにくいことなら、無理に言うなって顔だ。

 俺の続く言葉を予測したのかもしれない。


「いや、お礼なんて気にしなくていいですよ。状況が状況ですし、それでは私はこれで! ランスロット君もこれで帰ることができるね。良かったね」

「待ってもらいたい」

「いや、ちょっと店長!」


 物凄く胡散臭い張り付いたような笑顔でさらに後ろに下がったので、もう一歩踏み込む。

 そして肩を掴む。 

 あれ?

 右肩を掴んだのに、左肩にも手が。

 ああ、ランスロットか。 


 取り合えず状況をかいつまんで説明。 

 ここに住んでるみたいなので、お邪魔……無理ですよね?

 じゃあ、近くに。

 それもダメ?

 いやいや、そこをなんとか。

 ダメ?

 頑固ね。

 でも、怒りださないところを見ると、良い人なのかな?

 良い人だった。

 場所は提供できないけど、食料は提供してくれるらしい。

 できればジェニファー様の部隊だけでもと思ったけど。

 ええ……美人が4人も。

 ちょっと薄汚れてるけど。

 あっ、だめですか。

 そうですか。

 

 でもって、ランスロットは引き取れと。

 まあ、当然ですね。


「私はジェニファー・フォン・メルト。伯爵家の次女です」


 と思ったら、本人が交渉に参加してきた。


「はぁ」


 伯爵家の次女と名乗ったのに、面倒くさそうな表情。

 あっ、やっぱりこの人権力とかに屈しないタイプかな?


「無礼な……」

「ジェニファー様!」


 お願い刺激しないで、ジェニファー様。

 口封じとかって理由で、殺されたくないし。

 たぶん、殺される。

 剣で斬れないし、そもそもストロードラゴンの嘴が刺さらない人だよ?


「じゃあ、物資をいくらか運んできましょう。勿論対価はいただきますが」


 仕方なさそうに、物資を貰えることだけは確定。

 部隊全員を集めて軽く紹介。

 18人分なんとかしてくれると。

 森の中に住んでるのに?

 えっと……こんな危険な森に住んでて、満足な貯蓄があるとかもしかして賢者様とかかな?


 いや、凄い勢いで木登りしてるから、幻の森の民とか?

 人では……無さそうだな。


「あっ、店長!」


 そして、凄い速さで森の奥に消えていった。

 置き去りにされたランスロットが、悲壮な表情を浮かべていたけど。

 あれ?

 俺たちも置き去り?

 逃げられた?


 と思ったら、すぐに戻ってきて何か変わった素材の掌に収まるような小さなドームのようなものを置いていった。

 そして青白い光が広がる。

 結界魔法ですか?

 やっぱり賢者?


 そしてまた森に消えて、すぐに戻ってくる。

 家って近いのかな?

 でも、砂煙があがる勢いで走ってったから、遠いのかも。


 手にしていたのは普通の斧で、森の馬鹿みたいに太い木をさくっと斬っていく。

 伝説の樵?

 と思ったら、途中で轟音を鳴り響かせる変な形の剣に持ち替えて、伐った木をスパスパと輪切りに。

 魔法剣士?

 そして輪切りにした木は、ああ放り投げるのですね。

 よく飛びますね。

 生木って、そんなに軽いものでしたっけ? 


「とりあえず、寝床はこれで良いですか?」

「えっ? はっ?」

「魔道具?」


 だいぶ開けてきたなと思ったら、賢者様が薄っぺらい板を放り投げる。

 そして現れる、ドーム型の何か。

 謎の素材。

 柔らかいけど、布ではなさそう。

 そして今度のは馬鹿でかい。

 人が5人は入れそうな大きさ……

 ああ、ここで寝泊まりしろと……

 神様?


「店長です」


 天長かな?

 天使長の略とかかな?

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