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第12話:森の中のコンビニは経営危機です

「暇ですね……」

「うん、知ってる」


 いまお店は佐藤さん1人だ。

 彼女は自動ドアにピッタリと張り付いている。

 ストロードラゴンが来るのを今か今かと待ち構えているのだ。


 そして俺はいま自宅スペースで、ランスロットと朝食を取っている。

 ランスロット君が来てから、1週間が過ぎた。

 彼も、大分この店に馴染んで来た。


 今日の朝食は目玉焼きと、バタートースト、

 それとシンプルにレタスとトマトのサラダだ。

 全てランスロット君が用意してくれた。


 ガスコンロと、トースターを使いこなすくらいにはこの家に馴染んでいる。

 最初はテレビを見て感動していたが、いまじゃソファに座ってザッピングをかますくらいに慣れた。

 新しいものを見せても、当初のような新鮮な反応は得られない。


 ただ、テレビの内容までは理解できていない。

 テレビから流れてくる日本語が、理解出来ないらしい。

 俺達とは会話が出来るのに。


 ちなみに俺が賢者じゃない事は早々にバレた。

 というかバラした。

 お店で佐藤さんと二人っきりにするわけにはいかないので、俺が自宅に戻るタイミングで彼も自宅に招いたのだが。

 テレビを見るにあたって、映っている映像を説明するのにこの世界の賢者という説明に無理が生じたからだ。


「異世界って……本当にあったんですね」


 最初は凄く驚いていたが。


「私も、日本に生まれたかったです」


 今は、テレビとうちでしか感じ事の出来ない日本に、憧れを抱くレベルで受け入れて貰っている。

 ただ、この世界に他に異世界人は居ないらしい。

 いや、それらしい逸話はいくつもあるらしい。

 国の上層部というか、高位貴族なら知っているかもと。

 

 やはり封建社会か。

 まずます、半世紀以上前のブームのテンプレだな。

 かといって、とんでもなく進んだ文明の世界に転移とか……間違いなく捕まって見世物か実験対象にされるだろうし。

 よくて、同情されてペット的な扱いや子供扱いされるレベルか。


 秘境の原住民レベルの異世界人を、街に連れて行ってみたとかって番組も作られたり。

 見てる分には微笑ましいけど、当事者となると……

 文明に触れて驚く様子を楽しむという、相手を見下して悦に浸る悪趣味な番組に思える。


 まあ、この世界はそうじゃないみたいで良かった。

 魔法に触れたら、どうなるかは分からないけど。

 ランスロット君の口ぶりで、魔法はある世界のようだし。


 しかし、俺みたいな異世界人は居ない可能性もあるか。


 もしかすると居なかっただけで、こないだの地震の際に他にも転移した人が居るかもしれない。

 そう思った俺は、自宅のPCを使ってネットでそういった情報を漁ってみた。


 だが、自分から電話があったとかって情報は割とたくさんあったが、どうも自演くさいページが多くていまいち信じきれない。

 確実な情報があがってくるまでは、こちらから接触する気はない。

 相手も疑ってくるだろうし。

 他にも普通にそれ系のスレもあったりしたし、見ても本物だとは思えないものばかり。

 でも、俺が投稿しても同じように思われるんだろうなというのが分かったのが、最大の収穫だな。


 この森は危険生物が割とたくさん居るらしく、ランスロット君以来このお店に来る人は居ない。

 というよりも広大な森の奥地から、さらに全力で逃げながら迷って辿り着いたらしいからね。

 普通に、ここまで来る人自体がほぼいないと。

 この森の未開部分の探索で、新発見を目指す冒険者くらいだろうと。


 冒険者……野蛮そうだな。


 なので、商品が売れる事もなく棚から弁当やパンなどといった日持ちしない食料は消えていった。

 自分達が食べる分くらいは向こうの俺が差し入れてくれるが、現状稼ぎが無いので俺と佐藤さん、ランスロット君の3人が向こうの俺に養ってもらっている状態だ。


 佐藤さんはそのことを心苦しく思っているみたいだ。

 素敵な子である。


 そしてランスロットに至っては向こうの俺も、こっちの俺も崇めてる節がある。

 反応に新鮮さは無くなったが、新鮮さが無くなっただけで心の底から感心してくれている。

  

 それから3日もすれば、一人で居る事が辛くなったのか佐藤さんも家で一緒に過ごすようになった。

 最初に比べれば大分警戒心が薄れたみたいで、俺も嬉しい。


 違った。

 俺と佐藤さんを崇め奉るランスロット君が、佐藤さんに手をだすはずがない。

 そしてランスロット君が居る状況で、俺が変な事をするはずもないという結論に至ったようだ。

 少し複雑。


 ストロードラゴンを狩り過ぎたらしいのも、理由の一つだ。

 この建物に、彼等が寄り付かなくなったのだ。

 だから、佐藤さんがお店でやることが本当に無くなってしまったのだ。


「このたくあんって食べ物、美味しいですね」

「おお、ランスロット君も日本の味が分かるようになってきたか」

「私も好きですよ」


 平和だ。

 異世界転移って、こんなんだっけ?

 こんなことなら、少しは真面目に読んでみたら良かった。 

 ざっくりとしか理解してなかったし…… 


 うん、あっちの俺に頼んで、数冊仕入れてもらおう。

 こういう時に、役に立つことも多く載ってそうだしな。

 しかし、イメージと違いすぎる。

 テンプレくらいは、知ってるからね。


 どこぞの王様とかに召喚されて、「勇者になれー!」とか、森で迷子になっていたところを救ってくれた女の子に「仕方が無いから、私が元の世界に帰れるようになるまで世話してやろう!」とかってのが王道だと思ってた。


 もしくは神様から、なんらかの謝罪の品で凄い能力をもらったり。


 ああ、あとは間違えて召喚されたりとか?


 おお、意外と知ってるな俺。


 現実は、人が寄り付かない森で、客の来ないコンビニを運営をする羽目になったのだが。

 もはや、運営しているとは言えないが。


 流石にこのままじゃまずいとも思い始めたが、外に出る勇気は無い。

 折角知り合えた現地人も、戦闘力に関してはポンコツっぽいし。


 佐藤さんだけが、ストロードラゴンを心待ちにしている状態だ。


「折角痩せたのに、ここ数日で元に戻った気がします」


 とは彼女の言だ。

 いやいや、気のせいだから。

 と言いたいところだが、1度しかストロードラゴンを倒していない彼女の変化はいまいち実感出来ない。

 元々太っていたわけでも無いしね。


 そんな日々を過ごして居たら、住居スペースの2階から見える範囲の森の中から煙が上がっているのが見えた。

 狼煙?


「いや、野営の煙っぽいですね」


 ランスロット君が教えてくれた。

 コーラを飲みながら。

 呑気だね君。

 野営の煙でしょ?

 お仲間じゃないの?


 俺の言葉にハッとした表情を浮かべるランスロット君。

 現地人としての自覚すら、無くなっていたらしい。

 それもそうか。

 彼の今の恰好は、向こうの俺に買わせたTシャツとジーパンだからね。

 

「取りあえず、あそこまで行ってみたら?」

「えっ? 自分がですか?」


 お前以外に誰が居る。

 そもそも、いまだにこの世界の人に心許した訳じゃ無いからね。

 むしろ、警戒しまくってるから。


「自分、帰らないとダメですか?」

「帰れるなら、帰った方が良いと思うよ?」

「ですよね……」


 何故そこでガッカリする。

 引き留める訳無いじゃん。


 現状、きみただのただ飯くらいだからね?

 居候だからね?


 そんな事をやんわりと伝える。

 渋々といった様子で店から出ようとして、足を止める。


「いや、結構距離ありますよね? 途中でストロードラゴンに襲われたら死にます」

「情けないな。騎士だろ?」

「補給部隊所属です」


 そういえば、戦力としては全くもって期待が持てないんだった。

 俺より、力弱いし。

 でも、ついていくのもなー。


 折角のチャンスでもあるし。

 ついていっても良いかもしれない。

 あっ、駄目だ……

 ここから煙は見えるけど、あそこから店が見えるとは思えない。

 というか、見えているならあそこに居る人達がきっとこっちに向かうはずだし。


 この距離で、野営をしているってことはこっちに気付いてない可能性も。

 いや、気付いたからこそ手前で休憩を取って、万全を期している可能性も。

 分からん。

 情報が少なすぎる。

 

「たぶん、うちの国の部隊だと思うんですけど」


 唯一の情報源が、ランスロット(ポンコツ)君だからね。

 本当に役に立たない。


 ここで佐藤さんと二人で余生を過ごすことに、何の文句も無いし。

 むしろ、そうなってくれた方が嬉しい。

 元々ハゲデブだったから、女性と付き合えるなんて思って無かったし。

 

 ずっと二人っきりだったら、自然とそういう関係に……ならないかな?

 なって欲しいな。

 そのためには、ランスロット君を排除しないと。


 でも、ならなかったら本気で凹むよな。

 俺と二人っきりだと、佐藤さんがノイローゼになる可能性も。

 彼女にとって、俺には何の魅力も無いだろうし。

 自分で言ってて悲しくなった。


 まあ、野営をしているってことは、考える時間はまだまだありそうだ。

 よしっ!

 いやでも……

 いや、現状を変えなければ、本当につまらない人生になって……

 佐藤さんと二人ならそれもありか。

 そのためにはランスロット君を……あれ?

 これ、さっきも思ったわ。


 なら、とっととランスロット君をあそこに送り込めば。


「だから、一人じゃ無理ですって!」


 くそっ!

 堂々巡りだ。

 これは、あれだ。

 いいえの選択肢が無い、古いタイプのRPGだ!


 俺が決心するしかないのか?

 はあ……取り急ぎ向こうの俺に、防具になりそうなものを買ってきてもらおう。

 武器は殺虫剤とスタン警棒、それにチャッカマンがあればなんとかなりそうだし。


 防弾チョッキ……よりも、防刃ベストとヘルメットかな?

 それと、機動隊が持ってるような盾とかって、手に入るのかな?

 ネットで調べてみると、普通にラウンドシールドとかも売ってた。

 コスプレ用かな?

 本物の金属が使われてるみたいだけど。


 バックラーとか、これお鍋の蓋でも良いじゃん。

 まあ、お鍋の蓋じゃちょっと格好付かないか。

 いやでも実際問題、透明の強化プラスチックの盾一択だよね。

 ランスロット君が持ってた盾と比べると、この世界の世界観とかに対して凄い違和感感じるけど。


 やっぱり、ポリカーボネート製の盾かな?

 問題は今から注文していつと届くか……今8時か……

 夕方には届くな。


 向こうの俺に受け取らせて、バックヤードに預かってもらえば。

 そうするか……

 

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