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閑話:現実社会の店長覚醒する

「それにしても店長ちょっとみない間に変わったわねー」


 クミさんが、ニコニコしながら俺の身体を触りまくってくる。

 彼女は吉田クミさん。

 このコンビニが出来た時から働いている、熟練の主婦パートタイマーだ。

 いわゆる、オープニングスタッフというやつだ。

 ちなみに前職も、コンビニスタッフだったとのことで即戦力として雇い入れた。

 確かこないだ50になったとかって言ってたっけ?

 うちに入った時は45歳……まだ若いつもりの熟女だった。

 それが、最近ではめっきりおばちゃん化している。


 ちょっとポチャッとしてきて、元気溌剌ないかにも仕切り屋のおばちゃんに。

 人のことは言えないけど……15歳も年下なのに。


「はは……ちょっと、最近太ってきたのでダイエットを始めたんですよ」


 社会人になったばかりの子供がまだ家に居るらしく、彼の弁当と朝食を作って見送ってから出勤している。

 なので、勤務時間は10時~17時までだ。

 食事休憩を削れば1時間早く帰られるんだけど、食事休憩は大事なコミュニケーションの場ということであえて食事を挟んで17時まで働いてくれている。

 まあ、学生組やらが17時からの出勤が多いので、とても助かっている。


「ダイエットというより……普通にボディビルダーとかでも目指してんのかと思ったわー。目覚めちゃったのね」


 そう言って、腕をやたらと触って来る。

 やはり、女性は筋肉が好きなのだろうか。

 とはいえ、向こうの俺よ。

 これはやり過ぎだ。


 幸い元々の服が4Lとかだったので買い直しとまではいかないが、体脂肪が15%を下回っているのにLじゃピチピチとかどうなんだ?


 お客さんも、俺を見てギョッとしている。


 一部のお客さん……元同類達は俺の筋肉じゃなくて、おでこを見て驚愕の目を向けてくる。

 そして、あれやこれやと質問をしてくる。

 不摂生を正して健康に気をつけて、身体を鍛えたら生えて来たと言ってある。

 ストレスが原因です……と言い続けて来た、今となっては苦しかった言い訳もここに来て信憑性を増してきた。

 何がとは敢えて言わないが。


「お弁当温めますか?」

「はいっ、お願いね」


 ちょっと行った先の、銀行のOLさんが買ってくれた弁当を温める。

 このお店は高級住宅街の端に強引に建てられたから、少し先にはそれなりに商業施設等もあるのだ。

 それに伴って、都市銀の支店や郵便局、オフィス等も。

 まあ、メインの立地が高級住宅街だから、イベントの日は暇で暇で仕方ないんだけど。


『ピーッ』


「あれっ? レジ全部打ったっけ?」


 弁当だけバーコードを嘗めた気がしたんだけどな……

 レンジに入れて、レジに戻って来るとすでに弁当に加え飲み物とお菓子の3点分の金額が表示されている。

 が弁当以外の商品は籠の中に入ったままだ。

 クミさんは……ああ、あっちのレジで接客中だ。


 というか弁当をスキャンした記憶はあるが、籠の中の商品までバーコードを舐めた形跡があるのは何故だ?

 一通り確認すると取りあえずキャンセルして、飲み物とお菓子を再度打ち直す。

 うん、金額も合ってたし自分で打ったんだろうな。

 色々とあって疲れてたんだろう。


 というかあれ?

 温めボタン押し忘れた?

 後ろを見ると、いつの間にかレンジが終了を告げるマークを点灯させていた。

 そういえばレジに着くまでに、ピーっという音が鳴ってた気がしなくもない。

 てっきりクミさんが使ってた方だと思ってたけど、終了マークが点いてるのは自分が入れたレンジだし。

 本格的に疲れてるのか。


 取りあえずレンジを開けてみると、異常に熱いお弁当が。


「……?」


 あれっ?

 時間設定間違えたとも思えないし。 

 でも、中に入ってるのは俺が入れた弁当。

 目の前のOLさんが持ってきた、からあげ弁当だ。

 細身の綺麗系で大人しそうな女性なのに、いっつも昼からがっつりだなと思ったから間違いない。

 とりあえず、取り出してみるけど。


「アチッ!」


 不思議なことに、やはりかなり熱い。


「大丈夫ですか?」

「あっ……すいません。大丈夫……ですけど、ちょっと温めすぎちゃいました」

「ああ、職場ちょっと遠いんで大丈夫ですよ」


 そう言って、笑顔でお弁当を受け取ってくれるOLさん。

 声も鈴の音がなるような涼やかな印象で、本当に清楚なイメージだ。

 手に持っているのはからあげ弁当と、エナジードリンクだけど。


 そして、心なしか笑顔がいつもより柔らかい。


 髪の毛が生えたからかな?


「いらっしゃいませ」

「どうも」

「えっ?」


 お客さんが籠を置いて、俺がスキャナーを取った瞬間に赤い光が籠に向かって走ってピピピピっという音とともに金額が表示される。


「……」


 思わず頭を押さえてしまう。

 す……すげーな最近のレジスター。

 こないだの、アップデートでスキャナーの赤外線も遠隔で操作……

 いや、返ってくる信号とか狂わないかこれ?

 よく仕組みが分かって無いから、もう最近の技術すげーとしか言いようがない。

 レジカートどころじゃない。

 商品の価格帯の分類が少ないお店だと、カゴを置いただけで会計してくれる店がほとんどだけど。

 うちみたいな多様性に富んだ商品を扱うお店だと、未だに人の手による作業が殆ど。

 セルフレジも、あるにはあるけど。


 まあ、いいか。

 会計、会計。


「820円です」

「はい」

「1000円頂きます。お釣り180円です」


 便利な世の中になったもんだ。


「このレジ凄いね」

「どうしたんですか店長?」

「いや、お客さんが籠を置いて、僕がリーダー持った瞬間に全部舐めてくれるとか。マジ、優秀」

「ちょっと、言ってる意味が分からないわね。大丈夫? 疲れてない?」


 心の底から、アホな子を見るような視線を送られた。

 レンジの調子も悪い。

 商品を入れて、扉を閉めた瞬間にすぐにピピピッと言って仕事を放棄する。

 中の弁当やら総菜の温度もマチマチだ。

 熱すぎたり、温かったり普通だったりと。

 あー、これも買い替えかな?

 はあ……痛い出費になりそうだ。


――――――

「店長さん、弁当こないだと同じ感じでね」

「えっ? あっ、はい!」

「店長、いつもの温度で」

「はいっ? えっ? あっ、はいっ……」

「店長凄いよね? お客様一人一人の状況に合わせて時間変えてるんでしょ?」

「いや、種類によってワンタッチで……」


 やたらと、お客様が俺に弁当を持ってくる率が増えた。

 温度や時間を調整しようとしても、入れてすぐに終了の音を告げて仕事を放棄するレンジ。

 そしてビクビクしながら商品を渡す俺。

 たまたま、上手くいってるけどこれ前後の客入れ替わったりしたら、最悪やん。

 熱いの希望の人に(ぬる)いのが行ったりとかって、クレームにならないかな。


「レジ打ちも神掛かってるよね?」

「なんで、その位置で全部の商品のバーコードが読めるの?」

「えっと……メーカーさんの技術が凄すぎるというか……」

「またまたー、店長の冗談間に受けてメーカーに問い合わせたら、そんな商品があったら是非見せてもらいたいとまで言われて、悪戯扱いされて怒られちゃったじゃん」

「す……すみません」


 レジも俺の前に並ぶ人が圧倒的に多い。

 お客様が少なくても、多くてもレジに押し込められる。

 バイトの人達が他の作業を率先してやってくれるのは嬉しいけど。 


「猫舌だけど、チーズが凝固してるのも駄目でいっつもどっちを取るか悩んでたんだけど、ここのブリトー熱すぎず、それでいてチーズがトロットロッで絶妙なんだよね」

「ここで持った時は熱すぎるけど、職場に戻ると丁度いい温度なんだよね」

「同じ系列の他の店と、温め終わった弁当のクオリティ違いすぎじゃね? ハンバーグの照りとか肉汁とか」


 どうやら、俺はレンジマスターのレジマスターにランクアップしたようだ……


 そういえば、なんかあっちの俺が殺虫剤で竜を倒したら、殺虫剤の威力が上がったとかって言ってたような……


「おっ、今日のチキンは店長が揚げたな。いつもと味が全然違うぜ」

「ちょっと、褒めても何も出ませんよ」

「やだなー、本当に店長が作ったやつってこの店に限らず、周辺のコンビニと比べても圧倒的だからね」

「えっ? 今日は店長さんが揚げたの? じゃあ、うちも貰ってこうかしら? 4つください」

「あー、そこらの専門店より美味いよね?」

「そうそう、家に持って帰っても衣がサクサクなんだよね」


 やめて……

 お客様の期待が集まれば集まるほど、俺の仕事が増えるから。

 キッチンタイマーの力だから。

 適当に揚げてるだけだし。

 確かに、他のバイトの時と違って油の温度とか、タイマーの時間が微妙にズレてたりしたりもするけど。

 

 えっと……そろそろ休憩に入りたいんですけど。

 レジの前に人が居る限り、俺ここから離れられないだんけど。

 無視して、目の前の人を処理してから交代しようとすると、明らかに次のお客様がガッカリした表情されるし。

 

 あっ、やばいこれ……湯気が出てる。


「店長、熱出てない?」

「いえ、大丈夫です。ちょっと、忙しくて……」

「汗かいてないけど、湯気出るんだ……」

「風呂上りだったり……」

「ずっと、ここに居るよね?」

「あっ……はい……」


 暫く周辺で、神のレンジャーと呼ばれる店長が噂された。

 曰く、神の如き速さでレジを打ち、神の如き采配でレンジを操る、時折湯気を出すマッチョな男。

 その名も森居店長。


「休ませて……」

「いっすよー。らっさせー! って、ヨッシーそんなあからさまに嫌そうな顔しないでくっさー」


 俺の心からのお願いに答えてくれたのは、適当男の高田君だった。


「くっさーって! てかヨッシーって、わしお客様だからね? そこの銀行の頭取だからね?」


 常連の吉田さん。

 高級住宅街に居を構える高給取りなのに、なぜかコンビニ商品大好きで新商品は必ず買ってく初老のお客様。

 ……しかも、うちの親の会社の担当だったり。

 実家から見てもご近所さんということもあり、このコンビニの出店の際にはかなりお世話になった。


「そこの銀行の総長っしょ! うちと連合組んでるんすよね?」

「連合? あー、融資ね……はあ……まあ良いや。これ温めて」


 そして、高田君に対して怒ることなく普通に対応してくれる、懐の深さも持ち合わせている。


「さーす、ちょっと待ってくっさー」

「店長……この子、いつ日本語覚えるの?」


 吉田さんが、困ったように苦笑いでこっちを見てくる。

 困った表情だが、嫌そうじゃないのだけが救いだ。


「銀行流の言葉遣い特化の育成マニュアルとかあったら、こっそり貰えないですか? お手上げなんですけど、仕事に真面目で根は良い子なんで……」

「やっすねー! 尊敬する店長に褒められたら、俺鼻天狗っすわー」

「真面目ねー……まあ、上司を立てられるだけマシかねー……」

「もう、ヨッシーさんまで! これサービスっすわー!」

「おい……はあ、まあお得意さんだし良いや」

「まあ、ヨッシーにさんがついただけでもマシと受け取っとくか……というか、サービスって割り箸?」

「いつもより、多めに入れてます」


 流石に商品のサービスは駄目ってのは分かってたか。

 ようやく、休憩に入れる。

 適当男高田君が、頼もしい。

色々ととっちらかし始めてます。

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